17話 十二次元最強の王。
17話 十二次元最強の王。
(黒い肌に、金の装飾品。十二次元の者か。……ギリギリね。慎重に対処しないと)
A1が、侵略者の情報を整理していると、A7が、一歩前に出て、
「ようこそ、歓迎する」
ほほ笑みながら、
「使者殿の訪問を記念して、ささやかな祭りを開くつもりなんだ。ぜひ、参加してくれ」
「ほう、それは楽しみだ。どんな祭りなのかね?」
「血祭りに決まってんだろ、カスが」
言うと、A7は飛んだ。
高速で距離をつめると、腰を限界までひねりあげ、
「うらぁああああ!!」
侵略者のあごに、
――ガツンッッ!
と、瞬速の右フックをたたき込んだ!
鉄より堅い拳が直撃し、
一瞬で、侵略者は白眼をむいて、
折れた奥歯を吐きだした。
そのグニャリと歪んだ苦悶の表情を見て、
A7は、ニィっと笑う。
「これで終わると思うか? な訳ねぇだろ、ボケがぁあああああ!」
そのままの勢いで、相手の頭を両手で掴み、軸足の右でグっと地面を掴み、左ヒザを、そのどてっぱらに突き刺さんと高速で飛翔させた。
勢いのついたヒザが、侵略者の顔面、その中心に、思いっきり食い込む!
「くぁ……っっ!!」
顔面を潰された黒い大男は、グルンと眼球を一回転させたかと思うと、一瞬で気を失い、ドクドクと鼻血を垂れ流しながら、バタンとその場に倒れ込んだ。
フワリと土ケムリが舞って、スっと空間が黙った。
場が静かになってから、A7はフゥと一息ついて、
「十二次元よりの侵略者にしては、たいしたことありませんでしたね。さぁ、さっさとルートを閉じてしまいましょう」
「まだよ」
「え? ……ん」
視線を向けると、ルートから、もう一人、屈強そうな黒肌の男が現れた。
先ほどの男よりも、装飾品の輝きが鋭く、背丈もだいぶ上の大男。
「――ジェイルを一瞬で殺せるか……なるほど、それなりの戦力がそろっているようだな」
「同族を殺されていながら、随分と余裕ね」
「同族? ふふ、同じにしてもらっては困るな。私の名はゲイル。天才型の希少種にして突き抜けた特別変異体。王として世界を統治するために生れてきた選ばれし者。十二次元最強の超人。そこに転がっている雑魚とは、存在の次元が違う」
「なんでもいいけど……で、どうすんの? お仲間はもういないわよ?」
「ジェイルはただの牽制だ。戦力とは考えていない」
(まずは牽制。どこの世界も考えは同じ。どこも同じことをするものだから、牽制役の実力も似通う。さっきの、ジェイルとかいう男、ビッグと同等か少し上って所だった。定石化すると、牽制は牽制の意味をもたなくなる。そろそろ新手を考えないとね……)
「さて、では始めようか……死を教えてやる」
「なにそれ、決め台詞?」
おちょくったようなA1の言葉を無視して、
ゲイルは、A7に向かって一直線に走る。
――その特攻に対し、A7は、
(……はやいっ……)
即座に対応しようと右腕でガードしたが、
「おらぁあ!」
「――くぅ! ぐぁ!!」
鉄球のように重い拳をモロにくらい、A7の体は吹っ飛んだ。
民家の壁にぶつかり、その衝撃に多量の血を吐いた。
「平気?」
「ぅぅ、右腕が折れました。あいつ、間違いなく強者です」
「……みたいね」
A1は戦闘態勢をとる。
ゲイルを睨みつけながら、
「A7、あんたは後方支援。あいつは、あたしが殺す。いいわね」
「了解」
連携のとれた動きを見せる二人の様子を観察していたゲイルは、
(……男の方はカスだが、女の方は少しマシか。まあ、私の相手にはならないが)
即座に、目の前の『情報』を処理し、的確な行動に移る。
「まずは、貴様だ……消えてろ」
一瞬のすきを見せてしまったA7の腹に渾身の拳をたたみこむ。
「がはっ」
くの字に曲がるA7。
ギャリギャリと骨の軋む嫌な音が響く。
「ちょっと! 死んでないでしょうね!」
「ぐほっ、かはっ……うう……い、生きては……います。けれど……もう……満足には戦え……かはっ……」
「ちっ。クソの役にもたたないわね」