16話 異世界よりの侵略者。
16話 異世界よりの侵略者。
大勢の人が行き交う大通りに出た直後、マイは、
「こ、こ、このたびは、命を助けていただき、ありがとうございました、ゴード・ザナルキア様」
深々と頭を下げる。
無様にも動揺を隠しきれていないが、敬意はしっかりと溢れている。
そんなマイの、
(……ザナルキア様? 様って)
急激すぎる変化に戸惑いを隠せないゴードの困惑を無視して、
マイは、一方的に喋り続ける。
「数々の無礼を働いてしまった不敬を、どうか! どうか、お許しください!!」
頭を下げたまま、ブルブルと震えながら、必死に懇願するマイを見ながら、
ゴードは、
(何やってんだ、この女……どういう……ぁあ、まあ、一応、命を助けたわけだし……それに対する感謝の形ってことか? しっかし、『俺ごときに飛ばされる程度のショボいチンピラ』から一回助けたくらいで、態度が変わりすぎだろ。なんか、ラノベのチョロインみたいな女だな。さっきは命の心配をしてくれたわけだし、今もこんだけ下手に出てくれているんだから、それ相応の対応をした方がいいな。女をイジメる趣味とかないし)
判断すると、即座に、
「いえいえ、気になさらず。全部なかったことにしましょう。すべて忘れるということで」
『水に流す』と表現すれば、
あるいは本心が伝わったかもしれないが、
しかし、
(すべて忘れる……なるほど……偽りの姿を誰にも言うなという事か)
『ゴードの意図とはまったく違う解釈』に至ったマイは、
「御意にございまする」
片膝をつき、深い敬意と畏怖を込めて、また深々と頭を下げた。
そんな彼女を見降ろしながら、ゴードは、
(ほんとに、態度かわりすぎだろ。史上稀にみるチョロインだな。将来、悪い男に引っ掛かって身を滅ぼしそう)
★
『異世界よりの侵略者』が用いる異次元ワープホール。
通称『ルート』が開くタイミングを予測するのは容易ではないが、サバキのメンバーの中には、常に複数人、異空間探知のスキル持ちが混ざっているので、決して不可能ではない。
稀に予測できない時もあるが、
大半は、現状のように、しっかりと対策を取る事が出来る。
「――あと何秒?」
シバクの首都ミナミ。
七割が商人もしくは職人で、残り三割を、金貸しと荒くれ者がしめる、少々ヤンチャな街。
その北西部にあるスラムの路地裏。
深いフードで顔を隠した女『A1』の質問に対し、
同じくフードで顔を隠した男『A7』が、
「26秒です」
「あ、そ」
A1は全身の関節をゴリゴリとならす。
真剣に闘う前のルーティン。
ピョンピョンとジャンプをしながら、
「まったく、このクソ忙しい時に、ルートが開くなんて……勘弁してほしいわ」
「だからこそ、いつもと違い、ビッグや、C組・B組の牽制をはさまず、第一手から、A1と私を派遣したのでしょう」
いつもは、まず、『低レベル帯』の連中を牽制に出して、相手の力をうかがい、最低限の情報が集まってから、ようやく高レベル帯であるA組が動くのだが、
「邪神対策がまだ万全ではない現状、異世界の侵略者に構っている余裕はありません。とにかく速攻で解決してこい――つまりはそういうことでしょう」
「……『十二次元』以下の連中ならともかく、それ以上の侵略者がきたら、この戦力だと速攻とはいかないのだけれどね。まあ、高次の連中は、滅多に訪れないから、そこまで不運が重なるとは思っていないけど……」
「……A1、時間です。きます!」
ゆっくりと、空間の一部に亀裂が入る。
バチバチと、妙な電流が走り、二人の視界が歪んでいく。
這い出るように、ヌルリと、その男は、この世界に顔を出した。
「……くく。出迎え、御苦労」
漆黒の肌を持つ、2メートル近い大男が、不遜な態度でそう言った。