表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/72

14話 殺神拳。


 14話 殺神拳。


 チンピラの一人が、ごちゃごちゃとしゃべっているが、ゴードは、一言も聞いていなかった。

 集中モードに入った格ゲーマニアの耳はおそろしく遠い。


 腹を括り、覚悟を決め、死ぬ気で前を向くと、

 真空にも等しい極端に静寂な世界の底で、

 どこまでも深く集中できる。


 これまでの二十数年間の人生の中で、最も深く入り込んだゾーン。


(頭に描け。殺神覇龍拳の明確なイメージ)


 脳味噌が熱で満たされる。

 グツグツと煮立ってきた。


(……しっかりと、下半身のバネを使って拳をつきあげる。威力のあるアッパーが顎に決まれば、この体格差だ。一撃で倒すことだって不可能じゃないはず)


 深くイメージする。

 練習で、対戦で、何千万発と打ってきた殺神拳の主要技。

 相手を浮かせる右のアッパー。


 ――殺神覇龍拳。


 // 実は、ゲームの経験値が、本物の研鑽として、ゴードの体には染みついている。『ゴード・ザナルキアという男』は、この世界を演算し続けている『汎用量子コンピュータ』が、『平熱マン』のために用意していた特殊な媒体。難度SSの武術『殺神拳』のすべてを体現できる、唯一無二の肉体を持った、まさしく、文字通りの、神に選ばれた者。だからこそ、平熱マンの魂はゴードの肉体に宿った。いつか訪れる、世界存亡の危機に対抗するために!! //


  ――ゆえに、



(腰を回転させて、腕をつきあげる。軸足、踏ん張り……左腕は引く……)


 イメージ、イメージ、イメージ、

 イメージ、イメージ、イメージ……


「おい、聞いてん――」




「シュッ!」




 ――世界がどよめくほど、時空が色めきたつほど、ゴードの肉体は、美しく、軽やかに舞った。踏みこんだ足が地面をえぐる。


 握った拳が正しい軌道で下弦の弧を描いて空気を切り裂く。

 火花が散った。

 粒子が弾け飛ぶ。

 ギュンッ、と空間が啼いた。


 ゴードの肉体が、究極の兵器になった一瞬。

 まるで、コントローラーのボタンを押した時の反応のように、

 完璧に、イメージ通りの動きが再現できた。


 だから、





「がっっはぁぁあああああああっっっっっ!!!!!」





 豪快に吹っ飛ぶ。

 まるで、物理にケンカを売っているかの如き、ギャグマンガのようなぶっとび方。


 モロにゴードの一撃を顎にくらった男は、

 重力が反転したかのように、

 上空へと吸い込まれるようにぶっ飛んでいった。


 十メートルほど高く飛んだところで失速。

 そのままゴミのように落ちてきて地面に激突。



「……ぬ……ぁ……」



 そして、コトンと、当然のように、意識を失った。

 この光景を見て、



「「「……」」」



 その場にいる『ゴード以外の全員』がフリーズした。


 あんぐりと開いた口。

 無意識に中央へ集まってくる眉間のしわ。


 誰もが、信じられないという顔で呆然としている。

 まったく、さっぱり、何一つ理解できない。


 このトンデモ状況に直面し、

 誰一人、ぐうの音すら出せない。



 ――闘いにのみ特化した神々。

 ――その頂点である無上の究極闘皇神、平熱マン。


 そんな最強神の能力をそっくりそのまま体現できる究極の超人ゴード・ザナルキアは、



(ん……これは、いけるな。思った以上に、この体は動く!)



 続けざまに、残りの二人へ攻撃を仕掛ける。

 あまりの衝撃に動けなくなっている雑魚二人に、容赦なく惨劇をプレゼントする。


 一方には、『見えない投げ』と恐れられた『神速一本背負い』。

 ありえない速度の前回りさばきで相手の懐に踏み込み、前袖を掴む。

 抵抗など出来る訳がない。

 どころか、何が起きたのかを理解する事さえできない。


 大型のトルネードに巻き込まれたように、

 螺旋を描きながら地面に叩きつけられ、



「ふげぇえええ!!」



 当然、一瞬で気を失う。


「……ラスト一人」


 呟きながら、ゴードは、地面を滑っているかのような超高速移動の神ステで、最も得意な間合いにまで詰めて、最後の一人の両足を『豪速ローキック』で払い、


「うわっ、ちょ、待っ――」


 倒れた所に、ローを入れた足をそのままグルリと一回転させ『神堕とし』――ギロチンのような踵を落とした。




「ぎへぇええええええええ!」




 一手一手が漏れなくパーフェクト・クリティカル。

 二秒とかからず制圧。


 結果を見て、ゴードは思う。


(俺、町のチンピラくらいなら余裕で勝てるのか……まあ、このガチムチのガタイがあれば、ちょっとくらいケンカが強いのは、むしろ当たり前か)


 ゴードは、至極あっさりと、そう認識した。

 ――が、しかし、そんな彼を傍から見ていた者の感想は違った。


(な、なに……この、異次元の強さ……ど、どういう……)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ゴードのカッコよさが光るところ。 全体的にはコメデイですが、戦闘の格好良さは流石闘神。 最強神が全力で戦えば勿論、相手は死ぬ。 [気になる点] ――闘いにのみ特化した神々。 ――その頂点…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ