11話 俺は主人公じゃないんでね。
11話 俺は主人公じゃないんでね。
チンピラに絡まれたゴードは、
震えているマイを冷めた目でチラ見しながら、
(このバカ女が、これからどうなろうが、知ったこっちゃない。少なくとも、俺は、この女を護ろうなんてイカれた事は考えない。これは絶対だ)
自分も死ぬだろうが、この女もオモチャにされて死ぬ。
そう思うと、少しだけ胸がスっとした。
(俺はマンガやアニメの主人公じゃないんでね。意味なく他人を助けようなんて思わないよ。というか、いつも思うんだけど、あいつらは何なの? 俺の視点から言わせてもらえれば、あいつらは、作者の庇護下にあるのをいい事に、視聴者へ媚を売っているだけの、下劣極まりない、卑怯なヤリチンにしか思えないんだけど)
ヘドがでる。
死ねばいいのにと思う。
ゴードは、博愛主義者の主人公が登場するアニメを見るたびに胸糞を悪くするタイプの鬱屈した人間だった。
ガチの狂人ではないので、あえて他人を苦しめようとは思わないが、
『困っているから助けよう』などと、トチ狂った事は考えない。
ゆえに、マイを守ろうとはしない。
そのような、主義に反する事はしない。
だが、
(目が気に入らないな……)
ゴードは、『マイの視界に自分が入っていない』という事実に憤慨する。
不愉快を通りこして、イライラする。
――少なくとも、この現状で、彼女を守れる可能性があるのは自分だけだ。
だが、彼女はそれを全く期待していない。
それが、ゴードの中に、まだほんのわずかに残っている自尊心を刺激する。
(相手は三人……確かに数の不利は大きい。だけど、体格でいえば、俺の方が勝っている。一日たりとも休むことなく、年がら年中、とてつもなく厳しい肉体労働をしている俺は、一般人よりも、かなり体力があるほうだ)
絡んできた連中は、体格的には平均的だった。
身長170センチ前後、体重70キロ前後。
その程度が三人。
三人とも、悪意のオーラはなかなか鋭いが、彼らから、肉体的な圧力はさほど感じない。
対して、ゴードの肉体は百九十センチを超えており、体重は九十キロ弱。
モリモリと膨れ上がった両腕、
バキバキに割れた腹筋、
ガチガチに引き締っている両足。
純粋な筋力という点だけで見れば、ゴードの方が間違いなく上。
(確かに、多対一のケンカだから、俺の方が絶望的に不利なのは事実。だけど、この体格差を考えれば、俺が勝つ可能性だってゼロではないはずだ。でも、この女はそれを、ちっとも期待してもいない。それが、何よりもムカつくな。俺の事を、どんだけナメてんだ)
ゴードは、彼女が『ゴード・ザナルキアという男に一ナノも期待していない』のは、彼女が自分を『とことん侮っている。あらゆる視点で、心底からナメ腐っているからだ』と結論付けた。
――が、しかし、実は違った。
マイは理解していたのだ。
(あいつら……ただのチンピラじゃない。『生命商会』の人間だわ……最悪……)
金持ちの家に生まれた者は、それゆえの知識を多く持つ。
『気高く華麗に、かつ安全に生きていくため』に、
知っておかなければならない闇の知識。
その中の一つが生命商会。
簡単にいえばヤクザ。
それも、かなり面倒で鬱陶しい武闘派のスジモノ。
(あいつらには、お父様の名前も通じない。この世界の裏の頂点、秘密結社『サバキ』にも通じているヤクザ者。やつらは金銭では動かない……あぁ……なぜ、私が、こんな……)
ゴードがどうこうではない。
相手が悪すぎた。