勝敗
「そ、そこまで!2人とも怪我はありませんか?」
あーあ、思いっきり尻もち着いて痛そー。パンツ見えてるし、ズルするからいけないんだよ。
クスッ
「いったーい」
「大丈夫?イルミナ」
「うるさいわね、大丈夫よ!」
あいつ普段はポーカーフェイスなくせに、今軽く笑ったわね!?まぐれで勝ったくらいでいい気になって、見てなさいよ。
実践授業は対した面白みもなかった。本当の戦いではルールも何も無い、生きるか死ぬかの真剣勝負。弱ければ死に強ければ相手を蹂躙できる。それが全てなのだ。
「待ちなさい!」
放課後、ハリルは何やら教師に頼まれたらしい、私は1人で家に帰ろうと校門の前を通った時、呼び止められた。何となくそんな気はしていたが、案の定イルミナだった。
「あんなまぐれで勝った気になってもらったら困るわ。それに、あなたみたいな何処の貧民ともいえない輩に、名家である私が劣るはずがないもの。もう一度勝負なさい」
面倒臭いったらありゃしないわ。なんで貴方が満足するまでやらなきゃならないのよ。聞こえないふり聞こえないふり。
ぷいっ
「あ、こら!ちょっと待ちなさい!」
「…」
何処まで着いてくるのよ。あーもう何なのよ。
くるっ
「ふん、やっと勝負する気になったのね」
私は人差し指を立てると空中に光の軌跡を浮かび上がらせた。
「何よ、えっと…鬱陶しいから着いてこないで、さようなら…ってあなた目の前にいるのに何で話さないのよ!あ、こらまだ話は終わってないでしょ!」
まだ着いてくる。仕方ない、適当に相手して帰ってもらおう。上手く負けてあげれば満足するだろうし。私は人気のない場所に移動すると再びくるりと振り返る。
「な、何よ…分かったわ、勝負すればいいのでしょ…だからなんで話さないのよ!」
「…」
「まぁいいわ、その勇気だけは褒めてあげる」
そっちがしつこいだけだろ!あーもうなんだろう、この女とは何もかも合わないのだけは分かる。魔族だし、分かりあえるはずもないか。
「いい?今回はルールなしの真剣勝負、魔力が尽きるか、戦闘不能になった方が負けよ。まぁ殺さないように手加減はしてあげるわ」
そりゃどうも、もう早く終わらせよう。
イルミナは距離をとると早速魔法陣を展開する。
「…」
どういう事?あいつまた何もしないでボーッと突っ立ってるだけじゃない、まるで隙だらけ。いつでもその生意気な顔に魔弾を打ち込めるのだけど、これはさっきの模擬戦とは違うのよ?今込めてるこの魔弾は、先程の10倍以上、まともに受ければ怪我じゃ済まないのに。
「ちょっと、貴方なめてるの?早く結界を発動しなさい!死ぬわよ」
「…」
まるで無反応、さっきのようにまたコントロールを奪うつもりなんでしょうけど、そうはいかないわ。魔力の介入が出来ないように内側と外側に魔力の幕を貼って、生意気な事が出来ないようにしてやるわ。その代わり私自身も制御出来なくなるけど、あんな隙だらけなら避けようがないわ。
何でだろう、打ってこない。もしかしてわざと負ける作戦がバレた?もう少し自然にやった方が良かったかな。
「っつ、喰らいなさい!」
ドウッ
イルミナから放たれた魔弾は弾丸のようにアリス目掛けて飛んでいく。
相変わらず魔法陣の展開はなし、当たる。
迫りくる魔弾を目で追いながらアリスはふと思った、このままこれに当たれば死ぬんじゃないか?私は別にこの体でいつまでも生きたいと思わないし、今死ねるならそれでも構わないそう思った。
しかし、魔弾はアリスに当たる直前に、まるで霧のように霧散した。
「え、そんな!?」
まさか魔力構築が不完全だったというの?そんなの有り得ない、私の魔法陣は完璧なはずなのに。
どうやら、そんな事はこの体が許さないらしい、どういう事か、私が死のうとする意思に反発するようなよく分からない力が働くときがあるのだ。
「このっ!」
自イルミナは次々と魔弾を放つ。自分の意志とは裏腹に今度はアリスも結界を発動し全て受け止めてみせる。
ドンッガンッキンッ!
「はぁ、はぁ」
おかしいわ、全ての魔弾の魔力量は変えているはずなのに、あいつはそれを全て同じ魔力量で返している。それを証拠に魔弾と結界が当たった時、お互いに打ち消しあって消滅している。こちらの魔力量が分からないのになんで!?
もう魔力切れか?ああいうタイプは自分が勝つまで諦めない厄介なタイプだ。このままでは明日もまた勝負を挑まれるに違いない。どうしよう。
「ふふ、あはははは」
どうした急に、気でも触れたのかな?笑いだしたぞ。
「いいわ、あなたの事認めてあげる。あなたは確かに強い、けど私だってプライドというものがありますの」
プライドの塊みたいな奴がプライドを語るな。
「っち、何処までも余裕そうな顔をして!後悔しても遅いですわよ」
「はあっ!」
イルミナの周りを今まで見た事のない魔法陣が展開した。アリスも見たことの無い異様な雰囲気が漂う。
周りの魔力が彼女に装束していく、魔力と大気の摩擦で温度が上昇していく。これは属性付与というやつか。
ズズズズ
「喰らいなさい!ブレイズ!」
ボウッ!
先程までの魔弾と違い、魔力の形も威力もランダムに変化し、段違いの魔力が込められている。
どう?この魔法は魔弾とはワンランク桁がちがいましてよ?もう余裕はなくなっ…ちょっとなんでまた無防備なのよ!?本当に死ぬわよ!?この魔法は制御が難しすぎて手加減なんて出来ないんだから!あっ死ん…
ボグォッ!!!!!!
炎塊は、アリスに着弾すると火柱をあげて地面ごと焼き尽くした。
「やってしまいましたわ…わたくし、始めて魔族を殺してしまいました。もう骨すらも残らず墨になってますわ」
バタリ
「ん?」
アリスは倒れたまま右手を天高く掲げるとのまま勢いよく地面に叩きつけ、ガクリと頭を傾けた。
「は?」
ワナワナワナ
チラッ
あれ、なんか嬉しさのあまり体が震えてる。そんなに嬉しかったのかな?
「ふ、ふふ…」
ふ?
「ふざけんなー!」
イルミナが物凄い勢いでこちらに走ってくる。そのままアリスの胸ぐらを掴むと無理やり立ち上がらせた。
「何よその見え見えな、やられた〜。みたいな下手な演技は!あんたの周りだけ土が焦げてないうえにあなたに至っては傷1つないのはどういう事なのよ!私の全魔力を込めた会心の一撃だったのよ!?それを…それを…」
泣いちゃった。
「まぁ…いいわ、私も同族を殺したとなったら寝つき悪いし、あーあ、アンタが人間だったらもっと遠慮なく打ってたのに」
ドクンッ
その時、私の中の何かがプツリと切れた音が聞こえた。