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決断

「時間だ」


そう言われると初めて目隠しを外された。久しぶりに光を見たせいか立ちくらみがする。目の前にはナイトの姿があった、表情は全く変えず足枷を外す。


「こっちだ」


そう言うと半ば強引に鎖を引っ張り階段を登っていく。ずっと繋がれっぱなしだったせいか手足が痩せ細り、力が入らない、階段を登るのもおぼつかない。しばらく登って行くと光が見えた。


「あそこを出ればもう戻れない」


「…」


段々と光が近付いてくる。


「怖くは…ないのか?」


「怖くはないさ、2度目だもの。大丈夫、お前は何も考えず剣を振り下ろせばいい」


わぁぁあぁぁ!


大勢の声がする。あと一歩出れば私はこの世から消えてしまう。


「…私は…何のために産まれてきたのかな?」


「…」


ナイトの手は微かに震えている。その手をアリスはそっと握る。


「今までありがとう、お前はもう私の弟では無いけど、それでも少しの間過ごせて、話せて、良かった。私はもう死ぬけど、貴方は私の分まで生きて欲しい、いいお嫁さんを見つけて、普通の家庭を築いて…」


どうして、どうしてそんな事を言うんだ。僕は…僕は…


「ありがとう、さようなら……アルト」


「…!ねえさ…」


わぁぁあぁぁ!


ナイトの声は民衆の声にかき消された。見渡すかぎり人、魔族1人の処刑の為にこんなにも多くの人間が集まるのか。


その人集りのちゅうおうだけぽっかりと穴が空いていた。その周りを武装した兵士らしきものが囲んでいる。


「親愛なる信徒の皆様、ようこそお集まり下さいました」


そう言い出した人物の顔は見たことがある。そうだ、あの時の教会にいた神父とか言われる人だ。


「これまで、多くの同胞が命を落としてきました。奴らは罪の無い我々人間を見境なしに殺すのです。あぁなんと嘆かわしい、家族を奪い、友人を奪い、恋人を奪い、そんな事が許されていいのでしょうか!」


「しかし、我々は決して屈しません我々人間こそが正義であり、魔族が悪なのです。魔族を根絶やしにした時にこそ、真の平穏が訪れることでしょう」


「ご覧下さい、この醜い姿を」


男は私を指さす。醜いとは私の事なのだろうか。


「悪魔のような角、獣のような尻尾、蛇のような鋭い眼、こんな物が人と言えるのでしょうか?いいえ、人であるはずがありません、あってはならないのです!何故なら私達人間こそが、真の人なのですから!」


ワァァァ!


「今これより、この憎き魔族の処刑を執行致します」


そう言うと男はナイトに目配せをした、その時だった。


「…ろせ」


「ころせ!殺せ!殺せっ!」


1人から2人、2人から10人そしてその掛け声は次第に大きくなり、ここにいる全ての人間の掛け声となった。


「殺せっ!殺せっ!殺せっ!」


アリスはその時、初めて恐怖を感じた。今までこんなにも多くの憎悪を受けることは無かった。たった1人の少女へ向けられた憎悪はアリスを震え上がらせた。


ガチガチガチガチ


体の震えが止まらない、嫌だ、止めて!何でこんなこと言われなきゃいけないの?助けて、お父さんお母さん!


「殺せっ!殺せっ!殺せっ!」


死ぬ事は怖くないだって?そんなのは嘘だ、死ぬ事が怖くない人間なんていない、だって君はこんなにも震えてるじゃないか。これじゃあどっちが悪か分からない。僕は間違っていたのか…?


「どうした?」


そう言われふと我に返る。


「神父様…」


神父と呼ばれる男はナイトに近づくとそっと耳打ちをする。


「早くこいつの首を跳ねるのだ、それでお前はこの国の英雄となれる。家族の仇をとるのだろう?」


「…」


「恐れる事は無い、コレは人ではない、その辺にいる野生の動物だと思えばいい」


ナイトはアリスへと近づく、細く白い首筋がはっきりと見える。剣を使わずとも切れてしまいそうなか細い首だ。


「そうだナイト、お前の役目を果たせ」


ナイトは剣の柄に手をかけた。そしてそれを引き抜くと大きく振りかぶった。


「殺せっ!殺せっ!殺せっ!」


「く…」


アルト


頭の中にさっき言われた言葉が離れない。


「…くっそぉおおおぉぉ!」


ナイトは、そう叫びながら剣を振り下ろした。

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