力
私は目を閉じて集中する。頭の中のイメージが固まった時、目の前に魔力球が出現した。学校では魔弾と呼ばれていた。もっとも扱っていたのはビー玉程度の大きさのもので、今しがた作り出したコレは既に私の体より大きい。周りの魔力をかき集めればこの位であれば簡単に作れるようだ。
私は数十メートル先の獲物に狙いを定めた。少し押し出すと、魔弾は勢いよく打ち出され対象へと一直線に飛んでいく。獣もそれに気づいたのか逃げ出すが無駄だった。獣の魔力体へと打ち出された魔弾は、追いかけるように向きを変えるとそのまま勢いよく弾けた。
ボグォッ!!
砂煙をあげながら見事命中した。獣は…見る影もない。
あれ?命ってこんなに軽いものだったっけ?私の家では毎日食事の前に感謝のお祈りをして頂いていた。それが今の私は、獲物を食すわけでもなくただ単に試し打ちの的としか見ていなかった。圧倒的な力の前では他の命など、簡単に消えてしまう。あの時の私のように。
今は私が奪う側なのか?違う!私はアイツらとは違う!……本当に違う?今殺した獣も、草や木も、魔族も、おそらく人も纏っている魔力は同じもの。人は獣を殺す。魔族は人を殺す。今の私の目に映っているものは全て同じだ。この瞳が映し出すものはこの世界のあり様なのかもしれない。
それでも…私は許せない!私たちを殺したアイツだけは必ず見つけ出して同じ目に合わせてやる。
学校での日常は特に楽しいものでもなかった。最初は周りの生徒が話しかけて来たりしていたが、私が全く話さないせいか、皆諦めてしまったらしい。だがそれでいい、無闇に馴れ合う必要は無いのだから。
授業の方は割とためになることが多かった。魔力に属性を持たせる方法や効率のいい魔力の使い方等、その辺は生かせると思ったが、歴史の授業だけは好きになれなかった。人間が今までどんなに魔族を弾圧してきただたとか、人間は魔族を全て滅ぼそうとしている悪鬼だとか、どの口が言ってるんだか聞くに絶えない内容なのだ。だから、歴史の授業の時はいつもバレないように居眠りの時間にあてていた。
「これより、1組と2組の合同実践授業を始める。それぞれのクラスから代表者を3名選出しなさい」
「1組は、イルミナ、カルナ、ハリルの3人ですね。2組はまだですか?早く決めなさい」
ザワザワ
1組はすぐに選出されたが、自分のクラスである2組はなかなか決まらない。と言うより誰も出たがらないと言った方が正しいか、当然と言えば当然か相手は優等生の集まり、対してこちらは平凡クラス、出たところで恥をかくのは目に見える。
「安心しなさい、短時間での魔力勝負ならば魔力の差はあまり関係ありません。それにこれは簡単な模擬戦です」
どうやら、魔法に込められる魔力は決まっているようだ。確かにそれなら魔力量はあまり関係無いだろう。
「仕方ありませんね、では私が決めます。サーシフ、ドルミナ、それと…アリス」
え、私?何故そこで私が選ばれるのか、だがいい機会かもしれない、魔法での実戦はこちらとしても試してみたいところなのだ。
「それではルールを説明します。お互いに攻撃と防御を交互に行います。攻める方は決められた質量の魔力弾を相手に向けて放ち、防御側はそれを結界で防ぎます。模擬戦といっても使うのは本物の攻撃魔法です。気を抜くと怪我をしますよ」
「ど、どどどどうしよう、私実践なんて初めてで上手くできるわけないよぉ」
「落ち着くんだドルミナ、条件は同じなんだしなんとかなるさ」
「それでは、それぞれ順番を決めなさい。順番が決まったら交互に攻撃と守りを行います」
どうやら1番にドルミナ、2番手がサーシフ、最後が私らしい。相手は1番がカルナ、2番手がハリル、最後が…あの嫌みたらしい女か。
「それでは、これより魔法による模擬戦を行います。初め!」
その合図と共に攻撃側が魔法陣を展開した。
「ハァ!」
直ぐに防御側も結界を展開する。
「お願い、上手くいって!」
魔力弾が結界に当たると鈍い音と共にお互いに消滅する。成程、魔力量100の魔力弾を魔力量100の結界で相殺する訳か。
「そこまで、上出来です」
「はぁ、良かったぁ」
「では、攻守交替」
自信なさげなドルミナだったが、魔力の調整が上手いのか攻守ともに危なげなくクリアした。次は、サーシフと…ハリルか。なんか、こっちに手を振ってるけど無視した。
「初め!」
ハリルが放った魔法は、勢いよくサーシフの結界に激突する。
メキッ
何やら鈍い音が響く。シールドにヒビが入ったかと思うと、そのまま砕け散った。
「危ない!」
「うわぁ!」
ハリルの魔力弾はちゃんと100の魔力量だった。おそらくサーシフの結界が不完全だったのだろう。そのせいで結界の方が先に崩壊したのだ。しかし、魔力弾が、サーシフに当たることは無かった。目の前で静止した魔力弾は、そのままハリルの元へと帰っていく。
「ふぅ、危うく怪我をする所でしたよサーシフ。それにしても流石ですハリル、まさか魔力弾の軌道を操作するとは」
正確に言うとハリルから放たれた魔弾はハリルと繋がっていた。おそらくサーシフの結界を見て不完全だと分かったのだろう、予め魔法回路を切り離さずに操作出来るよう、自分とのパスを繋げたまま放ったようだ。
今度はハリルが守る側だったがこちらも完璧に相殺してみせた。ハリルは魔力量だけでなく、魔力の扱いも上手いらしい。
「では、最後にイルミナ、アリス前に出なさい」
「あら、誰かと思えば落ちこぼれのお姉さんじゃありませんか。貴方が私の相手では力不足ではありませんこと?」
「…」
「相変わらず無愛想な事、まぁいいわせいぜい怪我をしないようにね、ふふふ」
「それでは、初め!」
教師がそう合図した瞬間、イルミナが魔弾を放った。教師も意表を突かれたのか反応が遅れる。
ふふふ、魔弾を開始と同時に打ったら悪いなんて言われてませんもの。安心しなさい、魔力量はちゃんと100よ。この程度なら当たってもせいぜい骨が二三本折れる程度、その生意気な顔を苦痛に変えてあげるわ。
どうやら予め魔法陣を作成しておいて、開始と同時に放ったらしい。
「は、早く結界の魔法陣を展開しなさい!」
しかし、アリスはそんな素振りを見せない。
魔弾は一直線にアリスの胴体目掛けて突っ込んでくる。
「危ない!」
周りから悲鳴が鳴り響く。が、いつまで経っても魔弾はアリスへと到達しない。徐々にスピードを落としたかと思うと、遂にはアリスの目の前で静止した。
「あなた、まさか…私の魔法のコントールを奪ったわね!?」
その通りだ、イルミナの魔弾もハリルと同じくパスが繋がっていた。多分私が避けても当たるようにしていたのだろう。そのパスを無理やり切断して、コントロールを奪い取ったのである。魔力を操れる私にしたらそんなものは造作もない。
私は、静止した魔力弾を人差し指の上に乗っけるとそのままイルミナの方へと向けた。
「はっ」
今度はイルミナの方へと勢いよく打ち出される。
「キャッ!」
ドガァ!
イルミナも意表をつかれ結界の展開が不完全だったのか、当たった衝撃で尻もちを着いた。