死んだはずの…
もうどうでもいいと思っていた。もう戻らないと思っていた。だけどその顔を見てひと目でわかった。
「ア…ルト」
あの時の子供っぽさは無くなっていたけど、間違いないアルトだ、生きていたんだ!
なんだ?急に力が弱まったぞ、これなら切り替えせる。
ガキィン
奴の黒い魔力が薄れていく今がチャンスだ。
「はぁ!」
「や…やめ…」
ガキィ
どういう事だ?先程までの獰猛さはまるで無くなり、普通の魔族の子供を相手にしているようだ。…考えるな相手は魔族、それもこれ程強い力を持った魔族をこのまま生かしておけば、もっと力を付けて人を大勢殺す。そうなれば…そうなる前にここで討つ!
どうしよう、どうしたらいい?なんて声をかけたらいいのか分からない、言いたい事は沢山あるのに声に出ない。
「アリスどうしちゃったのかしら…」
「くそっ、僕がもう少し力があれば!」
「今いっても足でまといになるだけよ」
「分かってる!分かってるから悔しいんだ。結局僕はただの足でまといにしかならないなんて!」
「ハリル…」
ガキィバギン!
ビキビキ
魔剣にヒビが入る。
「や…めて、わ…たしだよ、カンナだよ!」
必死に振り絞った言葉でそう告げた。そう、私はカンナ貴方の実の姉だ、今はこんな姿になっちゃったけど一時も家族の事を忘れたことは無い。私達は家族だ殺し合うのはおかしい。
ピタッ
ナイトの攻撃が止んだ。分かってくれたんだ、アリスはそう思った。しかし…
「お前がカンナだと?ふざけんなよ!お前が…魔族なんかが!その名を気安く呼ぶんじゃない!!」
そして再びナイトの猛攻が始まった。
「違う、そうじゃないんだ!私は…お前の姉の…」
「僕の姉はもういない、お前なんか知らないし興味もない、これ以上その汚い口を開くなぁ!」
…あぁ、そうかアルトは私だ。あの時の私だ。魔族を憎み恨み、怒りの対象としか思っていない。その対象が何を言おうと耳を貸すことはないだろう。私の声はアルトに届かない。どうすればいい?どうしたら…
バキッバキッ
その瞬間、魔剣が砕け散った。それと同時にアリスは蹴りあげられ壁へと激突する。
「かはっ」
意識がもうろうとする。体が言う事をきかない。
ザッザッ
ナイトが近づいてくる。
「自分達の犯した罪を悔いながら死ね」
ナイトが剣を振りかぶる。
私、死ぬのかな?でもそれで…私という魔族が死ぬ事でアルトの傷が少しでも癒されるのならそれでもいいか、魔族に殺されそして2回目は実の弟に殺されるなんて…こんな事になるならもっと早くに死んでればよかったのかな…ごめんなさい、お父さんお母さん、アルト…
ザシュッ
パタタタッッ
生暖かい鮮血が飛び散る。しかし、それはアリスのものでは無かった。
「ハリル…なん…で?」
ハリルはアリスを庇うように抱きしめる。
「ねぇ…さ…僕、やっとねぇさんの役に…」
「だめ、喋らないで!早く回復魔法を!」
「ねぇ…さん…死なないで…いき…て……」
そう言いかけてパタリと抱きしめていた腕は力なく地面へと落ちた。
「…」
違う、いつも私を助けてくれたのはハリルだ。あの時も、あの時もこの命が今まで生きてこられたのはハリルがいたからだ。なのに私はまた諦めてしまった、何度も救われた命を捨ててしまった。その結果がこれだ、私のせいだ私がハリルを殺してしまった。
ナイトは困惑していた。目の前の光景、こんなものはいくらでも見てきたはずなのに、今更後悔など無いはずなのに、あの時の光景が目に浮かんでくる。あの時、僕は姉さんを置いて逃げてしまった。その後悔は今でも僕の心の底に深く刺さったまま抜けなかった。
しかしどうだ、今目の前で起きたことはまるで僕ができなかったことよ当て付けのように…。
「ぐっ」
頭が痛い、われそうだ。
ハリルの体はどんどん冷たくなっていく。
「嫌だ、死なないで…ハリル。死んじゃやだよ…」
血が止まらない、もう既に地面はハリルの血で真っ赤に染まっている。
「く、くそぉ!!」
再びナイトが剣を振りかぶる。
姉さん、生きて!
ドクンッッ
そうだ、私はハリルに生かされたんだ。ここで死んだらハリルの死も全くの無意味になってしまう。
「ここで、死んじゃだめだ…私は…私は!!」
キィィィ
魔剣!?さっき粉々に砕いたはずなのに!
アリスの手には再び魔剣が握られている。しかし、姿形は先程のおぞましい姿ではない。
生きる、生きたい。皆がそれを望んでくれるから、もう死なせたくない、死にたくない!
「ハァァァア!!!」
「っつ!」
ガギンッ!
何だ!?急に力が跳ね上がった。さっきと同じ…いやそれ以上の力だ!
「私がナイトを討つ!」
過去に囚われて、もう戻らないものなのにそれを引きずって。そのせいでまた多くのものを失ってしまった。過去のものは元には戻らない、変えられない。だから…今守れるものを守る!未来なら変えられる!




