学校
ある日突然、2人が部屋に押しかけてきた。
「なぁアリス!学校に通ってみたくないか!」
学校?魔族にも学校何てものがあるのかと疑問に思ったが、今まで一緒に暮らしてきて生活基準は人間とほぼ変わらない。つまり学校なんてものがあっても何ら不思議ではないのかもしれない。
咄嗟に断ろうと思ったが、考えてみれば今何となく使っているこの魔法とやらもその学校とやらにいけばもっと詳しく分かるかもしれない。この力をもっと極めればあの時の魔族に復讐する事が出来るかもしれない。そう思い小さく頷いた。
「そうか、行く気になってくれたか!本当は直ぐに断られるだろうと思ってたんだが、聞いてみて良かったよ!ママ!アリスが学校への入学を承諾してくれたよ!」
「アリス!あぁアリス」
学校に行く位で大袈裟な2人だ。その学校で習ったモノの矛先が自分達に向けられるかもしれないとも知らずに。いくら、この2人が私に愛情を向けようとも私の中の怒りと悲しみは消えることは無い。ただ1つ問題があった。
「姉さん!姉さんも学校に行くんだね!?一緒に行けるなんて僕、夢のようだよ!」
ハリルの存在だ、いつものようにキラキラした目で私を見ながら話しかけてくる。ハリルを見ているとどうしても生前を思い出して心が揺らいでしまう。だから私は彼を邪険にする。しかし、いくら邪険に扱ってもハリルが私を見る目は変わらなかった。
お揃いの制服を着せられて徒歩で向かうことになった。これまで何度か外には出た事はあったが、当たり前なことに周りは魔族だらけで人間の姿は見当たらない。会う魔族全てあの時のアイツの顔に見えてその度に怒りに支配されそうになったが、目を瞑り深呼吸をしてなんとか平常心を保っていた。
「姉さん、大丈夫?緊張してる?」
横目でハリルを見ると、心配そうにこちらを見つめている。
「良かった、大丈夫そうだね」
「…」
「ふふん、実は最近は姉さんの目を見るだけで姉さんが考えていることが分かるようになってきたんだよ!」
そう自慢げに言い放った。
「今は、(そんなんじゃない、放っておいてれ)って目だったね!」
何故わかったし、本当に目を見ただけで私の考えていることが分かるのか?ハリルに限らず私は生まれてこの方喋った事は無い、喋る必要が無いし、喋るつもりも無いからだ。言語は人語と変わらない事に驚いたが、かと言って話す気にはなれない。
「あ、疑いの目だな?本当だよ姉さん」
「…」
「あ、ごめん姉さんは、姉さんって呼ばれる事が嫌いなんだね。いつもそう言うと眉間にシワがよるから」
あぁ、その通りだ私はお前の姉ではない。たまたま同じ家に産まれた赤の他人だ。
「でも、僕にとっては姉さんは姉さんなんだ。姉さんが僕の事をいくら嫌いになっても構わない。でも僕が姉さんの事を嫌いになる事はないからね。だから僕はこれからも姉さんの事を姉さんと呼ぶよ」
「…」
「あ、勝手にしろって目だね!じゃあこれからも僕の姉さんでいて下さい!」
そう言うとペコリと頭を下げた。
学校に着くと直ぐに入学生が集められた。
「これからクラス分けを始めるぞ。それにあたって、まずは簡単な魔力検査を行う」
教師らしき男がそう言うと生徒たちは1列に並ばされた。何やら中央にある石に手をかざして、オーラを注ぎ込んでいるらしい。
成程、あれでオーラを測るわけか。それにしてもあの教師は魔力とか言っていたな、このオーラは魔力と呼ばれるものらしい。私の目には周りの生徒の魔力量が見るだけで数値として分かる。
あいつは4200、あっちは3260。見たところ平均して4000程度が基準らしい。たまに9000の奴とかいるがそういった奴が石に触れると普通より大きく石が共鳴しているのが見えた。数値は私が適当に思っているだけで、私の眼に見えたものの大きさのようなものだ。
その中で一際石が共鳴した生徒が数名いた。ハリルもその1人だ。魔力量に換算すると約16000程、普通の生徒より明らかに魔力量が多い。
「おぉ、凄いぞハリル君!君なら次の首席に選ばれるかも知れない!」
周りからはキャー、ハリル君!といった黄色い声援が飛び交っている。
「おぉ、君もなかなかいい素質を持っているな!ハリル君といいライバルに慣れそうだ」
ハリルと同じく石が激しく共鳴を見せた生徒、魔力量は14500と言ったところか。
「ふふん、当然です。私は代々伝わる名家の所属。この位当然ですわ!」
馬鹿馬鹿しい、魔族はこんな事を自慢にでもしたがるのか?そうこうしている間に私の番が回ってきた。
「さぁ、次はアリス、君の番だ」
私は右手でゆっくりと石に触れる。
「これは…うーん良くもなく悪くもなく、大丈夫この学園生活できっと魔力量も増えていくさ!」
ようやく面倒な試験が終わった。
「姉さーん」
ぷいっ
「あ、ちょっと姉さん無視しないでー!」
「それにしても、姉さんの魔力量があれだけだったなんて、もしかして手を抜いてた?」
「…」
「あれー、なんで目を合わせないんだろう。怪しいなぁ」
「姉さんが先に計測されてたら、僕も手を抜いてたのに…まさか違うクラスになるなんて…」
どうやら、先程の試験でクラス分けされていたらしい。優秀な生徒とそうでない生徒を分けたのだろう。正直、私の中の魔力はほぼ無限に等しい大気中から草木に至るまで、自由に操ることが出来るからだ。私の中の魔力量なんてある様で無いようなものなのだ。しかし、ハリルと違うクラスになったのは好都合かもしれない。
「あら、ハリルさんではありませんの?もうすぐ説明会が始まりますわよ?」
ふと後ろから声がした。この声には聞き覚えがある。
「あら、貴方は確かぜーんぜん、ダメダメだった名前は確か…アリスさんでしたっけ?ハリルさんこのような方と一緒にいますと折角の才能も衰えてしまいますわよ?」
クスクス
取り巻きからは薄ら笑いが聞こえてくる。
「姉さんを馬鹿にすると許さないぞ!僕なんかより姉さんの方がずっとずっと凄いんだから!」
「あら、貴方のお姉様でしたの?出来の悪い姉がいると大変そうですわね。ふふふ」
「何を…」
ハリルが今にも飛びかかろうとした所で、ふと私の顔を見て手を止めた。
「姉さん…分かったよ。気にするなって言いたいんでしょ?でも、僕姉さんが侮辱されるのは許せないよ」
別にこんな明らかに感じの悪そうな魔族の女に何を言われようと知ったことではない。私の中では初めから魔族は、悪であり復讐の対象なのだ。今更である。
「せいぜい兄弟ごっこをする事ね、そんな事では上へは登れませんけどね」
そんな捨て台詞を吐きながら女は去っていった。兄弟ごっこか、あながち間違いではない。