尻尾は女の子のステータスである
「ルンッルルン♪」
街を出てからイルミナがやけに上機嫌だ。スキップしながら鼻歌なんか歌っている。
「なんで、あんなに嬉しそうなの?」
「イルミナの事?それは多分あれのせいかな」
ハリルが指さす所を見てみると尻尾が激しく左右に揺れていた。あぁ、そういえば街を出てからすぐに尻尾と角が元に戻ったんだった。
「そんなに嬉しいことなの?」
「尻尾がないとなんか落ち着かないしね」
「でも、なんか尻尾に話しかけてるみたいだけど」
「それはあの年頃の女の子なら皆やってるよ、姉さんも人形とかに名前をつけて話しかけたりしなかった?」
「してたわ」
「それと同じだよ」
「同じ…なの?」
「うん」
「ハリルはしないの?」
「僕?僕はやらないかなぁ、男の子はあまりやらないよ」
「クリュウはやるの?」
「はい、8年前くらいはいつも牢屋に入れられていて他にする事も無かったので、尻尾が話し相手でした」
「そう、でも自分の尻尾に話しかけるなんて正直気持ち悪いわ」
「えぇ…」
「ちょっと、2人とも!全部聞こえてるんですけど」
「わわ、ごめん!」
「アリス、貴方にはやっぱり尻尾について少し話さないといけないようね」
「いい」
「だから、即答しないで!」
「2人ともちょっとそこに座りなさい」
「なんで僕も?」
「口答えは許さないわ」
「はい…」
「まず、魔族にとって尻尾とは何か知る必要があるわね」
「飾り」
「ち・が・う・わ!前にも言ったけど、尻尾は魔族が魔族たり得るものよ、尻尾なくして魔族は有り得ないわ、いわば魔族女子のステータスなのよ!」
「…」
「はい、呆れたような顔しない!この雑誌を見なさい」
イルミナはカバンから何やら本を取り出すと力説し始める。
「この雑誌、悪魔のシッポに最近の流行りの尻尾コーデとか、尻尾専用のオイルなんかが色々のっているわ。これ、貴方にあげるから読んでおきなさい」
「ぇ…」
アリスは嫌々ながら半ば強引に手渡される。
「いい事、まず尻尾の根元のサイズ。これが37cmから38cmが1番理想と言われているわ」
「へぇー」
「ハリル、貴方も知っておかないと、もし彼女ができた時、そこに気が付かなかったら彼女にガッカリされるわよ」
「そ、そうなんだ」
「長さは長い程いいけど、自分の身長より大きくなると逆に見栄えが悪いとされているわ。理想は身長より15cm短いくらい、そして尻尾の先端は先に行けば行くほど細いのが理想的ね」
「アリスの尻尾は、その全てを満たしているの。だから悔しいけど羨ましいわ」
「ふーん、ハリルもこういう尻尾が好きなの?」
「え!えっと…魅力的だと思うよ」
「はい」
「え?」
「触っていいよ」
「えぇ!?」
アリスは尻尾をハリルの方へと向けた。
「そ、そんな女の子の尻尾を触るなんて」
「何赤くなってるの?たかが尻尾じゃない」
「だめよアリス!異性に尻尾を触らせるなんて、それこそ恋人同士とかじゃないと…ハレンチよ」
私にとって尻尾は、体の一部というより体についた追加物のような感覚だ。それに尻尾勝手に動くから、まるで他の生き物のような感じで正直気持ち悪い。
「はい」
自分の尻尾を捕まえるとハリルの方へと差し出す。
「ダメだったら!尻尾は女の子にとって…その…」
「何?」
「性感…帯なんだから…」
「え?」
「性感帯なの!」
「性感帯…って何?」
「え?…っあ」
そうか、姉さんが人間の時に亡くなったのってまだ小さい時だったから、そういう事も知らなくても無理はないか。
「ともかく、ダメなものはダメ!」
その後もイルミナによる尻尾講座は続いた。
「ふーん」
「姉さん、その雑誌に興味津々だね」
「気になる事が書いてあるんだけど」
「うん?何何、尻尾同士を絡ませて…わっわっ!」
どうしたのだろうか、ハリルはまた耳を赤くして目を背けてしまった。
「恋人同士がそうするって書いてあるわ。ちょっとやってみましょうよ」
「む、むむむ無理だよ!」
…行ってしまった。
「お姉様、ハリル様にはまだ早いかと」
「じゃあ、クリュウやってみましょう」
「えっ」
「女の子同士なら良いでしょ?」
「…案外難しいわね」
「…」
クリュウの顔は真っ赤だ。
「ちょっと2人とも何やってるのよ!?」
「何って、恋人繋ぎ」
「は、ハレンチよ!」
…何が?