手のひらの上
ブゥン
「へぇ」
突如エルザの周りに無数の魔弾が出現する。
また何も無い所から出現した。成程、この娘は周りの魔力を自在に操れるって訳ね。それを可能にしているのはおそらくあの魔眼…いや、邪眼の域に近い。
ドドドドドッ!
アリスが合図を送ると同時に魔弾が一斉にエルザ目掛けて襲いかかる。だが、またもや土の壁に阻まれる。
錬金術は幾らでも応用がきく、如何なる攻撃にも柔軟に対応できるし、周りの物全てが僕の武器になる。
ビシッ
何!?まだ魔力は解除していないのに土に戻った。
「っち!」
すぐにナイフを生成するが、またもや原型を保てず崩れる。馬鹿なまた失敗?いや…アリスとかいう女、まさか…。
僕の錬金術は物に自分の魔力を注ぎ込んで変化を起こし、違う物質へと変える魔法、それを僕の魔力に介入して分解しているのか。物質への魔力を保てなくなれば形状を保てず崩壊する。
「けどっ」
ドゴォ
「ぐっ」
エルザの拳でアリスが吹き飛ばされる。そうだ、こいつの魔法を封じても内包魔力の多さによる肉体の強化と、体内の魔力を瞬時に操れるセンス。それから繰り出される拳は脅威しかない。戦闘経験からしても私達はこれが初めて、一方エルザはもう何回も死線を超えてきたのだろう。一切の迷いがない。エルザの体内の魔力を操ろうにも相手の方が魔力コントロールに優れているからレジストされてしまう。
バキッ ドカッ
「あんなに接近戦を強いられたんじゃ、アリスは魔法が使えないわ、援護しようにもアリスに当たってしまうかも…」
「くそ、僕達は何も出来ないのか!?」
「ははは、ほらほら魔力操作に集中出来なくなってきているよ?」
再びエルザの手にはナイフが握られている。
ダメだ、躱すのと防御するので精一杯で魔力をコントロールしている暇がない、ナイフもそうだが、あの拳をまともに受けたら致命傷になりかねない。
「くそっ」
「ダメよハリル!今いっても足でまといになるだけよ!」
「でもこのままじゃ…せめて姉さんが魔法を使う余裕さえあれば…」
「…そうだわ、アリスは魔力を自由に操れるのよね?」
「うん、そう言っていたね」
「だったら考えがあるわ…一か八かだけど」
ドゴォ
「かはっ」
パタタ
口から血が滴り落ちる。まずい血を流しすぎた。目眩がする。
「楽しかったけどもう終わりみたいだね、さぁ最後はどんな顔を見せてくれるのかな?」
「…」
「…そうか、君は生きる事に興味が無いんだね。今から死ぬって時にそんな目をする人は初めて見たよ。いいよ、僕が終わらせてあげる」
「私達の魔力、貴方に預けるわ!」
「ブレイズ!!」
「ん?」
「私の全魔力と3人分の魔力が詰まった魔法よ!喰らいなさい!」
「はぁ、そんな魔法当たらなきゃ意味ないよ」
エルザはイルミナから放たれた火球を難なく躱す。
「確かに受け取った…」
「何!?」
まさか、僕を狙ったわけじゃなくて…!
アリスはブレイズを受け止めると、そのまま自分のコントロールに置いた。
っく、距離が近すぎて錬金術が間に合わない。
ゴアッ
「ああぁぁぁぁあぁぁ!!」
エルザの身体はみるみる炎に包まれる。
「あぁぁぁ………」
そして、やがて叫び声は聞こえなくなった。
「やったわ!」
初めて魔族を殺した。だけど何でだろう嬉しさどころかむしろやってしまったという喪失感が込み上げてくるのは…私は初めからこれを望んでいたはずなのに。相手はただの殺人鬼、何も悔やむはずなどないはずなのに。
「姉さん大丈夫?」
「私は魔族を殺したんだな」
「…うん、でも仕方ないよ、でなきゃ皆死んでたし」
仕方ないか…それは私が魔族だからか?私がもし人間だったら同じ事が言えるのだろうか…。
???「あっははは、どう?初めて同族を殺した気分は?」
「え?」
「よっと」
訳が分からない、なんでエルザが木の上から降りて来るんだ?確かに奴は黒焦げになったはず。途中で抜けられた形跡もない。
「お逃げ下さいお嬢様、ここは私とクリュウが食い止めます!」
「え?え?」
「早く!時間を稼いでいる間に逃げるのです!」
「あぁ、安心してよ。もう君達に危害を加えたりはしないからさ」
エルザ?は、スタスタと黒焦げになった物へと歩み寄ると、棒切れでツンツンとつつきながらそう言った。
「結構な出来だと思ったんだけどなぁ、まさかやられちゃうなんて」
「ど、どういう事か説明しなさいよ!」
「これのこと?これは僕が作ったホムンクルスだよ」
ホムンクルス?つまり私達は人形相手にここまで苦戦させられてたって言うの?
「そんな…だってそれの魔力はとんでもない力だったのに」
「うーん、そうだよ?僕の自信作だったんだけど、まさか倒しちゃうなんてね」
エルザ 年齢?
性別 ?
種族 魔族
Lv88
得意系統 錬金術 創成魔術 気候術
得意属性 風 毒 土 火 水 雷 光
魔力量 1800000
「あ、あああありなえないわ…」
「それにしても、色々制限があるとはいえ僕とほぼ変わらないホムンクルスを倒しちゃうなんて、君達なかなか素質あるよ、だから見逃してあげる」
そう言うとエルザはすっと立ち上がった。
「待てっ!」
アリスは怒りの表情でエルザを止める。こいつは危険だ、こんな奴が人間の領土にいたら何をしでかすか分からない、今ここで止める!
「…僕が、見逃してあげるって言ってんだ。だったら黙って僕が去っていくのを見送れよ」
ズズズ
物凄い殺気と魔力による重圧だ、立つこともできない。
「そう、それでいいんだよ。あぁそれとそのホムンクルスが言っていた事は本当だよ?僕はこの世界に復讐する者エルザ、よろしくね」
結局、4人はエルザの姿が消えていくのを見送る事しか出来なかった。