私の街
それから、しばらく森を歩き続けてなんとか日が沈むまでに森を抜けることが出来た。
「途中また魔獣に襲われて焦ったけど、なんとか日が沈む前に抜けられたね」
「早く宿に泊まりたいわ、もう足がパンパンよ」
「宿屋、宿屋っと…あったわ、ここよ。どうしたの2人とも?中に入らないの?」
「どうしよう、姉さんよく考えたら僕、お金なんて少ししか持ってきてなかったよ…姉さんいくら持ってる?」
アリスはポケットの中を確認するが、飴玉以外、何も入ってない。
「何よ、貴方たちまさかお金持ってないの?」
「そ、そうみたい。僕達は外でキャンプするからイルミナだけでも宿屋で寝るといいよ」
「私が払ってあげるわ」
「そ、そんな悪いよ」
「何言ってるのよ、私達は今パーティーを組んでるんだから、助け合うのは普通じゃない?」
「それはそうだけど…」
「分かったわ、じゃあ貸しという事にしておくから、今は遠慮なく私に頼りなさい。あなた達のコンディションが下がると危険になるのはパーティー全員なんだからね」
「そうだね、分かった。イルミナありがとう」
「貴方のそういう真っ直ぐなところ嫌いじゃないわ」
「いらっしゃいませ、お泊まりですね?部屋はいくつ御利用でしょうか?」
「僕は姉さんと同じ部屋でいいよ」
「そうね、姉兄なら問題ないでしょ」
「私は如何しましょう」
「クリュウは、アリュウと私の相部屋よ」
「かしこまりました、では二部屋案内いたします」
部屋の中は意外と広く、ベットが2つぽつんと置かれているだけだった。本当に寝るだけの部屋といった感じだ。窓の外は灯りがあちこちに灯っていて、出歩いている魔族もまだ多い。
「どうしたの姉さん?」
「…こうして見ると、私が昔見た景色とあまり変わらない…と思って」
「僕は人間の住んでる街を見た事ないけど、もしそれが本当なら、本当は魔族も人間も見た目が違うだけで殆ど変わらないものなのかもしれないね」
「…」
「さぁ、姉さんもう寝よう。早く寝ないと疲れが取れないし」
アリスはいつもとは違う天井を見上げる。人間の街…か。そういえば、私の街はあの後どうなったんだろうか、気がついたらこの姿だったので転生したと思っていたが、もしかしたら別の世界という可能性もある。あの後、何年たっているのかも分からない。街の皆は死んじゃったのかな…。
色々と考えているうちに段々と意識が遠のいていく。明日…少し調べて…み…。
―翌日―
「ハリル、聞きたいことが…あるんだけど」
「ん?何?」
「アンタ…レスっていう街を知らない?」
「アンタレス…うーん聞いた事ないかな。ちょっと待って」
ハリルは自分の荷物をあさると、何やら取りだして広げて見せた。
「世界地図だよ、父さんがくれたんだ」
「アンタレス…アンタレス…うーん、ないなぁ」
「人間の街ものってるの?」
「うん、大体の位置はのってるよ。世界地図は、戦略なんかにも使われるからね、でもアンタレスっていう街はのってないなぁ」
あれから何年たってるかもわからない、それにあんな事があったんだ、地図から消えていてもおかしくはない。
「もしかして…姉さんがいた街?」
アリスはこくりと頷く。
「それだったら…近くの山とか川とか何か特徴のある名前がついた場所とか地形とか見覚えないかな」
アリスは地図を確認してみる。
「あった」
するとどうだ見覚えのある名前を見つけた。
「ローグラット川」
確か、私がいた街の近くにこの名前の川があったはず。よく弟と釣りに行った覚えがある。
「ここは、東の国境線の辺りだね」
「国境線?」
「魔族と人間の領土の丁度境目辺りなんだよ。見て、ここに関所がある」
ハリルが指を指した所には大きくばってんがされてある。
「まさか、姉さんそこに行きたいの?」
もう街はない可能性が高い、けどどうしても確かめなければ行けない事がある。
「…けど、そうなると問題が2つあるね」
「問題?」
「うん、まず1つはこの関所、ここは魔族が人間の侵入を防ぐために作った場所で、進行する時以外は通行が禁止されてるんだ。そして、もう1つ僕たちが魔族という事」
そうか、そう言えば私は今魔族だったんだ。この姿で人前に出ようものなら、即座に攻撃されるだろう。
「仮にバレずに関所を通過出来たとしても、人間に見つかれば殺されるかもしれない…」
アリスは改めて自分の尻尾と角、瞳を確認してみる。人間の時には無かったもの、逆に言えば、それ以外は人間と殆ど変わらない。
「その話聞かせてもらったわ!」
「イルミナ、君はいつも突然現れるね」
「お嬢様、ノックしてから入室するのがマナーかと」
「うるさいわね、ここは屋敷じゃないんだしいいでしょ。それより聞かせてもらったわ、人間の領土へ行くのよね?」
「まだ、決まった訳では無いけど」
「私も1度行ってみたかったのよ!えっと、成程ね先ずは関所を通過するのね」
「それより、問題は人間に見つかったら問答無用で殺されても何も文句は言えないって事だよ」
「それなら、何とかなると思うわ」
「えっ?」
「そっちは私に任せなさい、それより関所ね…そうだ、私の名前を出せば通してもらえるんじゃないかしら?」
「無理だよ、むしろ捕まえられて街に即送還されちゃうと思うよ」
「他に道はないの?」
「この国境線の辺りは川が流れてて流れも早いから泳いで渡るのも無理なんだ、それにこの街道から外れた森には恐ろしい魔獣が住んでるって噂で、入ったら最後二度と出てこれないんだとか」
「魔法でどうにかならないかしら?」
「ダメだ、魔力反応が検知されればすぐに衛兵隊が駆けつけてきちゃうよ」
「なら、今からするべき事はひとつね」
「え?」
「情報収集よ、他の道を知ってる人を探すの」
「ちょっと、何処に行くの?」
「何処って、情報収集といったら酒場でしょ?さぁ行くわよ!」