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危機回避

「見えてきたぞ」


そう言ったのは先頭にいるミハエルだった。


「なんだ、ガキじゃねぇか」


そこに居たのは、小柄な少女のように見えた。身なりはキチンとしているが、白く腰まで伸びた髪はボサボサで、口元あたりしか顔を確認できない。しかし、頭の先に角があり、髪の隙間から尻尾がひゅるひゅると動いている。間違いなく魔族だ。


「カーマイン殿、いかがか?」


「う、うむ見たところ魔力はさほど感じぬ。しかし、何をしてくるかわからんまずは慎重に…」


「おいガキ!」


カーマインがそう告げるよりも先に、バラガスがアリスに向かって詰め寄った。


「てめぇ、魔族だな?お前のお仲間は何処にどれくらいいるか教えな、そうしたらしばらくは生かしておいてやる」


「おい、バラガス退け!そいつがまだ何者かも分かって無いんだぞ!」


「は?何者も何も、ただのガキじゃねぇか何ビビってんだよ」


なんか、敵視されてる?当然か今の私は魔族なんだし、元は人間ですと言っても信じてもらえるわけもなし。まずは、敵意が無いことを示すか。


ニタァ


突然、薄ら笑いを浮かべる不気味な魔族に周りは困惑する。


「こわっ」


「ひぃ」


「な、何だ急に笑いだしやがって。気持ち悪いやつだな」


普段笑わないから笑い方を忘れてしまった。なんか妙に気味悪がられている。


「おい、ガキ死にたくなかったら街の情報を教えろ」


私が住んでる街の情報を知りたいのか?しかし、ぱっと思いつく情報がない。街の全体の人数なんて興味無いから知らないし、どんな魔法を使う奴がいるとかも興味無いから知らないし。うーん困った。よくよく考えたら協力しようにも彼らに提供する情報が何一つない。唯一知っていることと言うと…。


「15分…」


「なんだ?15分?」


この森を出て街に着くまでの時間だ。


「ま、まさかこの人数を15分で全滅できると言うのか!?」


「なんだと!?こんなガキがか?」


辺りがざわめき始める。なんか、盛大に勘違いしてる。


「先程の魔力操作がもしこやつのものなら確かに有り得るぞ」


「私…敵…ない…お前たち…魔族…殺す…」


「私の前に敵などいはしない、我らが魔族を殺そうと言うのなら、容赦はしないと言うか」


何故そうなる。上手く喋れない弊害がまさかここで壁になってくるとは。


「いってくれるぜ、嬢ちゃんよぉ。なら先にまずはお前から地獄に送ってやる。悪く思うなよ」


どうしてこうなった。大男が巨大な斧を振りかぶるとそれを小さなアリス目掛けて振り下ろす。


ガキィン!


「な、何!?」


巨大な斧は、アリスの小さな左手1本で受け止められた。正確には魔力で受け止めたのだが。魔力の通っていない武器等、アリスにとってはその辺の木の枝に等しい。力の差など魔力で簡単に埋められてしまうのだ。


「下がれバラガス!」


驚いたバラガスが一旦距離を取ると、今度は後ろの初老の男が魔法陣を展開し始めた。


「ファイア!」


ん?この魔法はこの前見た気がするな、でも少し違う。人と魔族では魔法の扱い方も異なるのかな?


火球は、少女に命中すると火柱を上げながら炎上した。


「流石カーマイン殿、これ程の魔法を扱えるとは」


「いや、効いとらん」


燃えているのは周りのみ、魔力の流れをコントロールしてかわしよった。まさか、こんな子供がこれ程までに魔力を操ることが出来るのか?


「これならどうじゃ!ライトニング」


魔法使いの指が光ったと思った瞬間、閃光がアリス目掛けて飛んでいく。


バヂィ


この魔法ならば、コントロールする暇もなく黒焦げじゃ…何!?


ヤツめ、わざと魔力が流れやすい道を作って電撃を誘導しおった。後出しにも関わらずこの対応の速さ、本当に子供か!?


「カーマイン殿と互角とは、あの子供一体何者だ?」


「お主らにはこれが互角に見えるのか?ヤツめこっちの出方を伺うように、まるで攻撃する素振りすら見せん。完全に弄ばれとる」


しかし、ワシとてB級冒険者。子供とはくぐって来た修羅場が違うわい。


「ウォーターボール」


魔法使いのから水の塊がふよふよとこちらに向かってくる。攻撃魔法には見えない、どうするつもり?


「ファイアボール」


するとすぐさま次の魔法を打ち込む。炎は漂っていた水に触れると、瞬く間に蒸発し辺りが霧に包まれた。


「今じゃ、ウォーロック」


アリスの周りに岩の壁が出現し、途端に岩の中に閉じ込められる。


「皆、伏せろ!」


岩の中に閉じ込めたからどうだと言うの?直ぐに解除して…。


ジュー


火が消えない、岩の中は水蒸気でいっぱいになった次の瞬間。


ボガァ!!!


強い衝撃と共に突然爆発した。


「ゴホッゴホッ、一体何が?」


「水と火の魔力が密室の中で暴走して爆発したんじゃよ、いくら魔力操作が得意でも今の爆発には耐えられまい」


「ヒヒ、フフフフ」


土煙の中から不気味な笑い声が聞こえてくる。


魔法にも色々な使い方があるのね勉強になったわ、これならば、その辺の魔族にも引けを取らないかもしれない。それに何時ぶりだろうこうやって人と対話したりするのは、アリスは嬉しさと興味深さに思わず笑いが込み上げてきた。


「あ、あいつ火の中で笑ってやがる」


「ば、化け物!」


「ひぃ!」


誰が化け物だ…いや、間違ってない今の私は醜い化け物そのものだ。


「く、あの爆発にも耐えるとなるともはや打つ手なし、ここがワシの墓場になるのか」


しかし、少女は一向に攻撃してくる素振りを見せない、それどころかくるりと私たちに背を向けると。


「この先…で…待ってる…魔族…殺す…容赦…るな…」


そう言い残すと森の奥へと消えていった。


「た、隊長どうする?」


「お前も聞いただろう、魔族を殺すなら容赦はしない、この先で待っているから、命が要らぬのなら来いと…すぐに撤退の準備だ!」


先程まで息巻いていたバラガスもしぶしぶ方向転換して、今来た道を帰っていく。


「ふぅ、命拾いしたわい。まさかあんな化け物が居るとは」


―その夜―


来ない、何やってるんだ。もしかして迷子になったのか?せっかく道案内までしてやると言ったのに。


その日魔族の街を襲うはずだった危機は密かに過ぎ去った。

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