あの赤い屋根の家
あの長い坂道を登り切ると
右側に見えてくる赤い屋根の家
その曲がり角に立つ電柱が
いつも僕らの待ち合わせ場所だった
放課後
君が読んでみたいと言った
漫画を貸しに行ったときも
お返しにと
難しい文字ばかりの本を貸してくれたときも
勉強は嫌いだったけど
一緒に行こうって
誘われて通い出した塾へ行くときも
時間が経って
学校が別々になっても
テストや受験勉強のために
図書館へ通うときだって
親と喧嘩したって
家を出るって君を
説得して送って行ったときも
僕は鈍感だから
全然考えようともしなかったんだ
僕が君に悪い影響を与えているって
思われていたなんて
もうこれ以上うちの子に付きまとわないでって
送り届けた先の玄関で怒鳴られたこと
今でもまだ思い出す
あれからどうにか認めてもらおうって
色々と頑張ってきたんだけど
未だにあの電柱から先は
踏み入ってはいけない場所な気がして
昔のことだよって
緊張している僕の隣で君は笑うけど
じゃなきゃ
一緒に住むなんて許してくれるはずなかったでしょ? って
しっかりしてよって
僕の背中を叩くけど
君に会うために数え切れないくらい
何度も上った坂道を
僕は 僕の持っている中で一番高価な
クリーニングしたてのスーツを着て歩く
不意に君が走り出す
走ったら危ないよって僕の言葉を振り切って
視界から消える
僕は慌てて君の後を追って
坂道を駆け上がる
坂のてっぺんにいない君の姿を求めて
すぐ右側へ振り返る
君はそんな僕を見て
可笑しそうに笑っている
あの頃と同じように
電柱の陰に隠れるように立っていた身を翻して
真っ直ぐに僕を見て
どう少しは落ち着いた? って
ここからはもうずっと 一緒に行くんだよ? って
あの頃よりも少しだけ
色褪せた赤い屋根の家へ向かって
僕らは並んで歩き出す