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1.元・王女は就職先を探す






(レン) 凛風(リンファー)は南桂国の第三王女である。

いや、正確にいうならば元·第三王女であった。



凛風は7歳のころ、王の側近の反逆により国を追われた。城内に怒号や悲鳴が響き渡る中、凛風は乳母の手引きによって一人きり、王の側近の追跡を逃れて騒乱から逃げ出すことになった。



凛風は、自身が乗っている馬を限界まで走らせ、自分が走れる限界まで走ったことによって生きたまま南桂国から脱出することに成功した。その結果、凛風は南桂国とは遠く離れたフォルテイム王国の森の中で一人倒れることになった。

栄養失調と疲労で今にも死にそうだった凛風は、フォルテイム王国の王の森を見張っていた親切な森番の夫婦に助けられた。



森番の夫婦はとても親切だった。言語もろくに通じないパッと見てすぐに異国の子だと分かる凛風を無償で介抱し、無償で一週間ほど面倒を見てくれるほどには親切だった。しかし、無償で一生面倒を見てあげるほどは親切ではなかった。だって、子供を育てるのって大変だし、とっても大量にお金がかかるから。



そういうことで、凛風は捨て子のリンとして孤児院で生活することになったのだ。





リンは孤児院で九年間幸せに‥‥とはいかないものの、まあ、なんとかかんとか生き延びて、ついに15歳になった。

15歳といえば、成人。そしてリンがいる孤児院は、たとえ就職先が見つからなくても十五歳になれば孤児院を追い出されるという決まりになっていた。

リンに与えられた将来の選択肢はおおよそ2つ。一つは、一人でたくましく野生で狩りをしながら生きること。もう一つは就職先を探して一人暮らしをすること。

リンは、まったくもって野生で暮らせる気がしなかった。仮にリンが野生で暮らし始めたとても、一週間後に餓死する結果が目に見えていた。

そのため、リンは就職先を探すことにした。

リンは、孤児院の院長に仕事先を紹介してくれるように頼むことにした。



「仕事ぉ?」

「はい、私が出来そうなもので何かご存知の職業はありませんか?」

「そうねえ、そういえば、私の知り合いの染み抜き屋が後継者を探していたような気がするわ」

「染み抜き屋?」

「服の染みを抜く仕事よ。でも需要が低いからまったく儲からないわ」

「でも私には家がありません。どこか住む場所を探せるくらいは儲かるのでしょうか?」

「儲からないわ。日々の食事も危ういかもしれないわね」

「……そうですか。でもそもそも、私には服の染みを完璧に抜く技術がありませんでした。その仕事は私には少し難しいかもしれません。他には何がありますか?」

「マッチ売りとかは?」

「マッチ……??」

「マッチを売る仕事よ。ほら、火をつけるやつ」

「ああ!」

「まあでも、マッチをいくら売ったところで野垂れ死ぬだけね」

「それじゃあ、ダメですね」

「ああ、そうだ。領主様の下女になればいいじゃない。住み込みでも働かせてくれるわよ」

「一回領主様の家には行って働かせてくれるよう頼みましたが、もうこれ以上下女は入らないと断られました」

「あらま、それは災難ね」



はやくリンが出ていけば爪を手入れできるのに、と思いながら院長は呟いた。

院長の頭の中は、どうやって自分の美しい爪の輝きを維持するか、ということだけで一杯だった。なぜなら、院長の美しいところは爪くらいしかなかったので。

しかし、そんなことはリンにとってはどうでもいい。

リンに必要なのは、就職先だった。そして目下のところ、領主様に断られたリンに就職先を紹介してくれるような知り合いは、この院長しかいなかった。

リンは真剣に考えていない様子の院長に不安になった。



「あの、院長。ご存じでしょうけど、私、どうしても仕事が必要なんです。確実ではなく、募集しているだけでもいいので知っているのがあれば教えてくれませんか?」

「募集だけでもいい?受かりそうになくてもいいの?」

「はい。取り敢えず、募集があればチャンスはあるので」

「そう。絶対に受からないと思うけど、一応王宮がメイドを募集していたわよ」

「王宮!?」



 リンは驚愕した。



「勘違いしないでね?王宮のメイドといっても、勿論女中頭とか侍女とかになれるわけじゃないわ。なれたとしても洗い場女中(スカラリーメイド)か、洗濯場女中(ランドリーメイド)か、ただの掃除をする召使いよ」

「でも王宮では住み込みで働けますよね?」

「まあ、そうね」



 王宮に勤めるということは、王宮の様々な情報を知ることだ。情報漏洩を防ぐため、外部との連絡が取りにくくなり、外出も難しくなる。その対価に、王宮に努めれば衣食住つきでその上給料まで貰えることになっている。

最高だ!リンは歓喜した。

絶対に飢え死にしたくないリンにとっては、王宮で働けるかもしれないという知らせはまさに天からの助けといえた。



「私、いますぐ応募して面接を受けてきます!」

「ああそう。無理でしょうけど、精々頑張りなさいよ。これ以上殻潰しはいらないんだから」

「はい!」



働ける望みは薄くても、すこしでもあれば試すしかない。

リンはその日のうちに荷物をまとめ、王宮へ向かって出発した。









読んでくださってありがとうございます!

更新は遅くなるかもしれませんが、必ず完結させます。もしよければ、感想やレビューをお願いします!

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