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エピソード5 羨む姫君



 今日の分の業務を片付けて、プルメリスは部屋を出た。

 すれ違う者たちと簡単な挨拶を交わす。最初は敬遠されていたが、ここ最近はにこやかに返事をくれる者が増えたように思う。

 この場では異端の“黒”にようやく慣れてもらえたようだ。


 プルメリスは“聖ソフィーラ協会”の本部で働いていた。

 ウツロギを中心とした非営利の組織ができ、薄給でも快く働いてくれる事務員を募集していると聞き、一も二もなく飛びついた。


 愛しい男と身分差を気にせず一緒にいるために、どうしてもリッシュア王国を出たかった。さらに言えば、呪いの進行を止めてくれたウツロギへの恩返しもしたい。

 新しい組織に堂々と自国の人間を送り込める利益を前面に押し出して、両親と兄を説得した。有事の際に人質になっても助けはいらない、と宣誓してプルメリスはリッシュア王国を離れたのだった。


 屍竜災と呼ばれる事件から四か月が過ぎ、季節は夏の盛りを迎えた。

 暑さの厳しい乾いたリッシュアよりも、この地の風は涼しい。


 崩壊した旧白亜教国の都は聖人たちの規格外ともいえる精霊術によって更地に戻り、すぐにこの聖ソフィーラ協会の本部が建設された。

 魔法を使うには緻密な構築が必要だが、精霊術は感覚で使用できる。その利便性を改めて実感した。


「あ」


 庭の石のベンチに座り、何かを熱心に読んでいる友人の姿を見つけ、プルメリスは駆け寄った。


「レンフィさん、何をしているの?」

「プルメリス様。お疲れ様です。えっと、これは……」


 レンフィは読んでいた紙の束を慌てて背に隠した。


「もしかして、リオル将軍、じゃなくてリオルさんからのお手紙かな? 見せてなんて言わないから、別に隠さないでよ」

「いえ、違います。ごめんなさい……これは、その、カルナ姫様からのお手紙で」


 その名を聞いて、プルメリスはレンフィが気まずそうにしている理由を察した。

 カルナ・ブラッド・ムドラグナ――ムドーラ王国の黒脈の姫は、つい最近婚約した。その相手がプルメリスにとって因縁のある男だったのである。


 シンジュラ・ブラッド・ルークベル。

 リッシュア戦線を禁魔法でめちゃくちゃにされ、妻にするために拉致されそうになった上に、最終的には呪いをかけられた。それ以上に許せないのは、愛しい男と家族同然の侍女にも怪我を負わせたことである。

 本当だったら殺してやりたいほど憎んでもおかしくない相手だ。

 しかし、時の精霊術で眠っている間に、プルメリスは奇妙な体験をして気持ちが変わった。


 夢の中でシンジュラの半生を視た。

 胸が締め付けられるような環境で育ち、徐々に灰色の亡霊に精神を蝕まれていくところを追体験したのた。恐ろしくて悲しい夢だった。

 目覚めてからは、シンジュラに対しては憎しみよりも同情心の方が大きくなってしまった。

 だから情状酌量の余地を認めた。

 彼の黒脈としての能力は高い。随分と反省しているとも聞いた。ならば、生かしておいた方がきっと世界のためにもなるだろう。


「シンジュラのことが書かれているの? いいよ、別に。まぁ、レンフィさんとわたしを妻にしようとしておいて、釈放されてすぐ別のお姫様と婚約なんて腹が立つけどね。ううん、どちらかと言えば心配かな。カルナ姫は、大丈夫そう?」

「……はい」


 レンフィは歯切れの悪い返事をした。プルメリスが不安を覚えると、今度は必死に手紙の内面に目を走らせる。


「あ、あの、本当に大丈夫です。姫様はとても楽しそうですよ。シンジュラさんとも仲良くて……あ、ここに書いてあります。『何もないところなので、わたくしが暇を持て余していましたら、彼がお庭にブランコを作ってくれましたの。とっても素敵なプレゼントでしょう? 毎日一緒に乗っています!』って」


 なにその可愛いエピソード、とプルメリスはときめきそうになったが、すぐに考えを改めた。

 一体シンジュラがどのような顔で姫とブランコに乗っているのか、想像するのが恐ろしい。


「も、もしかして、子ども扱いした仕返しなのかな? まさか、違うよね?」

「分かりません。でも、どちらにせよ姫様は楽しんでいます……」

「そっか。うん、分かった。心配は要らないね」


 レンフィは困ったように笑った。


「はい。カルナ姫様は、本当にシンジュラさんのことを慕っています。シンジュラさんも断らないということは、満更でもないのだと思います」


 ふむ、とプルメリスは一つ頷く。


「会ったことはないけど、カルナ姫は話を聞く限り随分と情熱的な方みたいだね。ああ、でも、牢の中の男に惚れて釈放させる辺りに、ものすごくシンパシーを感じるよ」


 実際に対面したら、カルナとは話が合うかもしれない。これと決めたらあらゆる手段を講じて願いを叶えようとするのは、黒脈の姫に通じる気質だろうか。


「それにしても、いいなぁ」


 無意識に呟いてしまった。王族として他人を羨むのははしたないことだと教えられてきたため、少し焦った。

 レンフィはただ首を傾げている。特に不快には思われなかったようで安心した。


「……プレゼントだよ。レンフィさんはリオルさんから何か贈られたことある?」

「いえ、食べ物やお手紙以外はまだ」

「まだ、というと?」


 照れたようにレンフィは俯いた。


「えっと、今度会った時に、婚約の品を贈ってくれるって……」


 リオルはムドーラ産の宝石を使ったアクセサリーを特注で準備しているらしい。

 ここにも羨望の対象がいた。プルメリスはため息を吐きそうになるのを堪え、祝福した。


「それは楽しみだね。彼なら素敵なものをプレゼントしてくれそうだ」


 サプライズで受け取るのも感激できるが、予めプレゼントの約束をしてもらえるのも嬉しいだろう。ずっとワクワクできる。

 離れている間、寂しくないようにレンフィとリオルはたくさんの約束を交わしているようだった。

 レンフィの話を聞く度に、愛されて大切にされているのがよく分かる。


「あの、プルメリスさんは、スグリさんからは……」

「何も」

「え、えっと……もらえるならどういうものだと嬉しいですか?」

「なんでもいいんだけどね。川に落ちてるガラス玉でも、木彫りの人形でも。究極のところ、プレゼントじゃなくてもいい。愛情表現? わたしのことがちゃんと好きだって分かればいいかな」


 思わず遠くを見てしまった。

 分かっている。スグリは不器用で物静かな男だ。恋人だからと言って、過度の期待をしてはいけない。自分の伝えた好きの気持ち百に対して一返ってくれば良い方だ。

 そのことを責めるつもりはないのだ。プルメリス自身も、女に素っ気ない態度が気に入っているくらいである。


 しかし焦る。

 レンフィもカルナももう意中の相手と結婚の約束をしている。年下に先を越されて、内心穏やかではいられなかった。

 せめて何か恋愛的な進展があれば良いのだが、夜に会うこともやんわりと断られている状態だ。やはりまだ身分差を気にしているのか、あるいは。


「あの、スグリさんは、プルメリス様のことが大好きです。一緒に乗馬されている時とか、とても柔らかい表情をされていますし」

「……ありがとう。うん、今は一緒にいられるだけで十分幸せだよ。レンフィさんもリオルさんが来てくれるまで、あと少しの辛抱だね」


 レンフィは礼を言いつつも、少し心配そうにしていた。






 プルメリスは事務員として働いているが、スグリはまた別の形で協会に雇用されていた。

 その一つが馬の世話である。アディニの集落でも持ち回りでやっていた仕事なので、ここでも特に問題なく働けているようだ。

 他にも、たまに近くの森に狩りに出かけて肉を獲ってくるので、若い精霊術士たちに喜ばれている。

 特定の誰かと仲良くしている様子はないが、馴染めてはいるようでプルメリスは安心していた。


「あれ?」


 ある日、仕事の合間に顔が見たくなって厩舎を訪れたが、馬たちはいるのにスグリの姿がなかった。近くにいた者に聞いたところ、白指会の集会所の方へ向かったという。何をしにいったのかは分からない。

 スグリが聖人たちに個人的な用があるとは思えない。何か仕事を頼まれたのだろうか。気になってプルメリスは追いかけることにした。

 今日は会議の日ではない。ならば集会所に近づいても問題なかった。


「違いますって。だからそこは――」

「ごめんなさい」

「ああ、レンフィさんに言ったんじゃないです!」


 集会所の一室に人の気配がある。漏れ聞こえた声で、中にレンフィがいることが分かったので、思い切って扉をノックする。


「失礼します。プルメリスです」

「え!?」


 室内の中で慌ただしい物音がした。異変を感じて、プルメリスは扉を開けた。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫です……!」

「ど、どうされましたか、プルメリス姫?」


 中にいたのは、レンフィとフリージャだけだった。机を挟んで何か書類を見ている。もっとたくさんの気配があったのだが、他には誰もいない。

 二人の引き攣った苦笑いが気になる。


「お邪魔してしまってごめんなさい。スグリを探しているのだけど、見かけなかった?」


 レンフィは青ざめた顔で答えた。


「厩舎の方に飛ば――じゃなくて、えっと、厩舎ではないですか?」

「いなかったよ。こちらの方に向かっていくのを見た人がいたんだけど……」


 フリージャが咳払いをする。


「僕が以前、時間があるときに見守りをしてほしいと頼んだからでしょう。しかしこの建物の中までは入らないと思うので、ぐるっと回って別のところに行かれたのだと」

「ふぅん? そうですか。ありがとうございます。別の場所を探してみます」


 一応理屈の通った説明である。プルメリスは納得したフリをしつつ、微笑んで問いかけた。


「ところで何をしていたのかな? 若い男女が部屋に二人きりで」

「なっ!?」


 フリージャは即座に動揺を示し、レンフィはやや遅れて息を呑んだ。


「いかがわしい言い方はやめてください……ああ、怖い怖い。浄化巡礼の報告書を少し直していただいていただけです。仕事ですよ仕事。男女が同じ職場で働くのは素晴らしいことだと思いますが、時折このような勘繰りをされるのが難点ですね……困ったものです。いや、でも、確かに男女が密室で二人きりで何も起こらないというのも不健康な話ですがね。特にレンフィ様のような可憐な女性と一緒だというならなおさら……しかしながら! 僕とレンフィ様では天と地ほど人間としての格差がありますし、この僕が敬愛するレンフィ様を卑猥な目で見るはずないじゃないですか。白と黒の神々と十指の精霊に誓って何もありませんでした。レンフィ様の名誉を汚さないでいただきたいです……!」

「…………」


 フリージャに関わると、追及するのが途端に面倒くさくなる。


「それは失礼。でも、気をつけた方がいい。変な噂がリオルさんの耳に入ったら……フリージャさんの命が危ない」

「気をつけますっ」


 首に手刀を当てるジェスチャーをすると、フリージャはぶるりと震えた。






 そんなことがあってから数日後。

 協会本部内の居住区域の一室に人が集まっていた。掃除をする者、家具を運ぶ者、ベッドメイクをする者がそれぞれ仕事をこなす。

 プルメリスの他はほとんどが聖人――とても豪華なメンバーであった。

 レンフィが、見る見るうちに整っていく部屋を見て感激して礼をした。


「皆さん、ありがとうございます……!」

「いいんだよ。新しい仲間のお部屋だからね。歓迎の意味も込めて、手の空いている時はみんなで準備を手伝うべき。うん、これは協会の暗黙のルールにしちゃおう」


 ウツロギがのんびり述べた。

 新しい部屋の主はリオルである。明日か明後日には到着すると報せがあり、急いで部屋の用意を完了させようとしていた。


「全く、ウツロギ殿が『レンフィと続き部屋にしてあげよう』などと言い出さなければ、このように慌てることもなかった……」


 グラジスがはたきを指揮棒のように振りながらぼやいた。

 急遽石の壁をぶち抜いて扉を作る工事をしたため、予定よりも部屋の準備が遅れたのである。レンフィは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「だって、人目を憚らず会えた方がいいよね」

「良くありません! まだ結婚前なのに……!」


 フリージャが涙目になりながら窓ガラスを磨き上げている。

 しかし蜜月の恋人同士を三か月も離れ離れにしてしまった負い目からか、結局は強く反対しなかった。誰も彼もレンフィに甘い。


 プルメリスは窓辺に花を飾り、満足げに頷いた。

 次は衣類をチェストに入れようと引き出しを開けると、きらりと光るものが転がった。


「ん? これは……?」

「あ、それは私のものです」


 レンフィが使っていたチェストをリオルの部屋に持ってきたものの、中身を抜き忘れていたらしい。

 プルメリスはくすんだ金色のくるみボタンをレンフィに渡した。ぎゅっと大切そうに握りしめている彼女の様子を、不思議に思った。


「それ、何か思い出の品なの?」

「はい。覚えていないんですけど……記憶を失った時に握りしめていたものなんです。もしかしたら、オークィさんのものかも」


 誰のものかすら分からない謎のボタン。

 レンフィが記憶を奪われた後、教国で最後に話した人物は空理の聖人オークィだと推測される。もしかしたら、空間転移で飛ばされる直前、レンフィがオークィの服から引きちぎってしまったのかもしれない。

 レンフィにとってたった一人の血縁者の遺品だとしたら、なるほど大切なものだろう。そうでなくても記憶喪失前の自分の唯一の持ち物である。捨てられないだろう。


 ウツロギがボタンをちらりと見て、小さくため息を吐いた。


「そのボタン、前にも見せてもらったけど、やっぱりダメだね。時の“再生”ができればどういう経緯でレンフィが手に入れたのか分かるのに、残念ながら条件が揃っていないみたい。ごめんね」

「大丈夫です。何も分からなくても、これからも大切にします」


 宝物を見るようなレンフィの視線に、プルメリスは改めて気づかされた。

 レンフィが全ての記憶を失ってから、一年も経っていない。この数か月で目まぐるしい体験していたとしても、まだまだ心の容量が空いている。一つ一つの思い出が大切で仕方がないのだろう。






「レンフィさんにはずっと幸せでいてほしいな。心からそう思う」


 夕方、プルメリスはスグリに今日の出来事について話し終え、そう締めくくった。

 スグリはリオルの歓迎会に備えて肉を狩りに行っており、部屋の準備には参加していなかったのだ。


 一日の終わり、厩舎のそばのベンチで語らうのが唯一の恋人らしいひと時であった。と言っても、喋っているのはほとんどプルメリスである。

 しかし、今日はいつにも増してスグリの口数が少ない。


 プルメリスはスグリの顔を仰ぎ見た。スグリもまたじっとプルメリスを見下ろす。夕焼けの光の中では男前がより際立つようで、思わず見惚れてしまった。


「スグリ? どうしたの?」


 よく見れば、スグリの頬が少し赤くなっているような気がした。鋭い切れ長の目もどことなくそわそわと落ち着きがない。

 ここは目を瞑った方が良いだろうか、とプルメリスが胸を高鳴らせていると、目の前が真っ白になった。否、目の前に白いものを差し出され、視界が覆われた。


「……お前にやる」

「え、なに?」


 受け取ったそれは、白い封筒だった。どこからどう見ても手紙である。

 宛名は“親愛なるプルメリス”になっていて、差出人はスグリと書いてあった。


「え!? どういうこと?」


 突然のことにプルメリスは軽く混乱した。


「もしかしてこれ、スグリが書いてくれたの?」


 頷いてから、照れたように顔を背けるスグリに、プルメリスの体温が一気に上がった。

 スグリは、「文字は少し読めるが、書けない」と以前言っていた。練習してくれたのだ。自分に手紙を書くために。


「ありがとう! 読んでいい? 今ここで」

「やはり返せ。形に残すと、後悔するような気がしてきた」

「絶対イヤ」


 奪われないように胸に抱きしめると、スグリは手出しできなくなった。諦めてため息を吐く。


「……後で読め。目の前で読まれるのは、耐えられない。絶対に、誰にも見せるな」

「分かった。でも、いつの間に文字を覚えて……」

「レンフィに相談して、フリージャに習った。年が近くて頼みやすかった」


 その時ようやく、以前のレンフィとフリージャの怪しい様子の謎が解けた。あの時、部屋の中にスグリもいたのだろうが、プルメリスの来訪にレンフィが慌てて空間転移させたのだ。

 スグリはまだ恥ずかしいのか、地面を見つめたままぽつりぽつりと呟いた。


「俺はお前の顔を見ると、伝えたいことも、言えなくなってしまう。だから手紙にした。ずっと、お前が喜ぶようなことをしてやりたかったが、俺には何もかもが難しい……それでもちゃんと、気持ちが伝わることを」


 一人で悩んでいたら、偶然行き会ったウツロギが見透かしたように言ったのだという。


『愛しい人を想って努力した時間は、かけがえのないものだよ。絶対に力になる』


 それで文字を覚えることを閃いた。文字が書ければ、少しはプルメリスの仕事を手伝えるかもしれない。

 まずは今までの感謝を伝えるため、手紙を書くことにし、レンフィに指南を頼んだ。彼女がムドーラの人間とよく手紙のやり取りをしていることを知っていたからだ。特にリオルからどのような内容の手紙をもらうと嬉しいのか参考にさせてもらった。

 しかしレンフィも知識に自信がないというので、博識なフリージャを巻き込んだ。どうせ教わるのなら、正しい手紙の作法を学んだ方が良い。


「文面は、自分で考えた。あの二人にも見せてない。だから、間違えているかもしれないが……」

「そう。じゃあわたしが初めて読むんだね。嬉しい」

「……」


 スグリは知っていた。

 プルメリスがレンフィのことを羨ましがっていたことを。リオルは真っ直ぐで素直な性格なので、恥も外聞もなくレンフィに愛を告げるだろう。

 そんな彼らの再会の場面に立ち会えば、羨望はますます強くなる。


 だからその前に、手紙を渡したかったのだという。

 自分なりの方法で、愛を伝えたかった。


「スグリ、ありがとう……本当に嬉しい。生まれてから今までで一番だ」

「そうか」

「一生の宝物にする」

「まだ読んでもないのに」

「でも、スグリが初めて書いた記念すべき手紙だから……!」


 いつの間にか、プルメリスの瞳から涙がこぼれていた。手紙を汚さないようにと、まごついていたら、スグリの指が涙をすくってくれた。


「泣くな。泣かせたかったわけじゃない」

「うぅ、泣き止むから、わがままを言ってもいい?」

「……内容による」

「読んだら返事を書くから、また書いてくれる?」


 毎日のように顔を合わせるのに文通するなんておかしな話かもしれない。だけど、この繋がりを大切にしていきたい。


「ああ。それでお前が喜んでくれるのなら」


 二人の間にいつになく甘くて優しい時間が流れた。


 初めてのスグリからの手紙には、感謝の言葉が並んでいた。

 今生きていられるのも、楽しい気持ちを持てるのも、全てプルメリスのおかけだと。

 ずっと一緒にいてほしい。

 その最後の一言でプルメリスは救われた。


 その日から、プルメリスとスグリの手紙の交換は続いた。

 何年も、何十年も、愛と感謝の言葉は途切れることはなかった。



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[一言] ……可愛いなあ、2人とも。
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