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秒で諦める、その前に。   作者: 六十月菖菊
アロー=ガンシア
8/19

【0】盗み聞き、泣きべそをかく。

ボロ雑巾ヒーロー、アロー=ガンシア視点がついに始まりました。

原稿は完成してますが、最終確認しながらゆっくり投稿していきます。

相変わらず深夜のテンションで書きました。

ご賞味くださいm(*_ _)m



 それはただの偶然。魔が差しただけ。

 いつもならこんな、コソコソとしたマネはしない。


「こんな時間になってごめんね、シオン」

「大丈夫ですよビルトゥ。昼間は営業時間ですから、仕方ありません」


 敷地内の庭にある東屋で、妻とその友人が茶会を開いていた。何故か真夜中に。


「あの家を出てから傷が癒えたのは良いけれど……あなた、前にも増してやつれたわね」

「そうですか? 一日三食付きの優良物件ですよ?」

「その三食をまともに食べているのかって聞いているのだけれど」

「元々小食ですし」

「ちゃんと食べなさい。その内倒れるわよ」


 気遣う友人に対する妻の返答に、俺は小さな衝撃を受けていた。

 ガンシア家のシェフが作る食事は、他の追随を許さない程に素晴らしいものだ。

 それをまともに食べていないというのだ、我が妻は。なんてもったいないことをする。


 ────折角、あの地獄のような場所から助けてやったというのに。


 自尊心を傷付けられた気分だった。


「結婚して五年だっけ? 早いものね」

「ええ。よくここまで続いたものです。直ぐに追い出されると思っていましたのに」

「……前にも言ったけれど、もしそうなったら私のところに来なさいよ。うちのシェフもそうしろって言ってくれてる」

「ありがとう、ビルトゥ。私は善き友人を持ちました」


 追い出される? 何を言っているのだろう。

 追い出すわけがないのに。


「そういえば、ゴタゴタしていてまともに聞けていなかったけれど、公爵様との結婚ってどうやって決まったの?」

「側仕えにされるつもりが、成り行きで気が付けば妻になっていました」

「経緯が雑過ぎじゃない?」


 友人の呆れた声が上がる。

 俺は茂みの中で、再び衝撃を受けていた。


 ────好きだから結婚してくれたんじゃないのか。


 無感情に経緯を雑に語った妻は更に言う。


「語るのが面倒になりました」


 面倒。

 面倒だと言ったのか、この妻は。

 俺との結婚話を、面倒だと。




「そろそろ行くわ。あまり夜更かししては駄目よ」

「はい。おやすみなさいビルトゥ」


 そうこうしている内に、妻たちの夜の茶会は終わったらしい。

 気付かれないように立ち去ろうと動いた瞬間、潜んでいた茂みを揺らしてしまった。


「どなたかいらっしゃるの?」


 息を顰めて、必死に存在を消した。

 少しずつ、少しずつその場から離れようと動き出す。


「逃げたのかしら」


 ようやく茂みから大分離れたところで、妻のそんな声が聞こえた。


「卑怯者と詰っても構わないかしら」


 その言葉に、心臓を抉られたかのような痛みを覚えた。

 卑怯者? この俺が?

 動揺のあまり転んでしまった。


 ────ひどく惨めだ。


 泣いたのは子どもの頃以来かもしれない。

ヒーローが惨めで目も当てられない(ガン見)

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