表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

母なる娼婦の話③

うーん、消化不良!

ざまぁって難しいですね!!!!


 幼子の泣く声が聞こえる。

 か細く弱々しいそれを頼りに、やがてひとりの子どもの前に辿り着いた。


「よぉ」


 声を掛けると、涙でグシャグシャになった顔で見上げてくる。


「ひっでぇ顔」


 ケラケラ嗤って屈み込んで、服の袖で拭ってやった。泣き過ぎて腫れてしまった目元を、なるべく擦らないように気を付ける。

 子どもは泣くのを止めて、じっとこちらを見つめてきた。


「シオン、君にペルラたちから贈り物だ」


 小さな手のひらに、持ってきたそれを握らせる。

 真珠、雲母、紅玉が連なった指輪である。

 とんだ奇抜なデザインだ。造ったのは他ならぬ私だが。


「このまんまだと連中に取り上げられるからな、呑み込め」


 始めシオンはキョトンとしていたが、手の中で煌めく宝飾品に目でも眩んだのか、言われた通りに口の中へと放り込んだ。


「良い子だ。魔術を掛けてやる」


 喉を掴んで直接魔力を注ぎ、食道を広げてやる。呑み込まれた指輪は嚥下され、ゆっくりと喉を通り抜けると、シオンの体内へ無事に進入を果たした。


「シオン。私は悪い魔女だからな、君を助けることはしない」


 語り聞かせるその言葉を、幼子が理解できるはずがない。

 それでも私は。邪悪を体現する、人でなしの魔女は。

 悪どい笑みと共に、残酷に告げるのだ。


「これから不幸に、不運に弄ばれるだろう。実の父親はエバへの恨み辛みを君に向け、継母たちは君の存在を疎んじて虐げる。貴族社会の誰もが君を蔑み、妾腹の子だと指を差して嗤うだろう」


 死人のように白い己の手を、シオンの腹に添える。


「死にたくなる程に、辛い生涯になること間違い無しだ。…………それを嘆いた馬鹿どもが、お節介にも君に加護を与えた」




 ────ペルラからは心身の清らかさを守る力を。


 ────ミカからは生きるための力を。


 ────ルビーからは困難に屈しない強さを。



 真珠、雲母、紅玉。

 魔女と契約して人間に化けていた娼婦たち。

 それぞれが持つ力を全てシオンに与えるために、彼女らは元の物言わぬ石塊へと戻った。


「ああ、本当に。君は可哀想な奴だなぁ」


 そんなもの貰っても、状況は大して変わりなどしないというのに。

 中途半端に守られるくらいなら、いっそのこと死んでしまった方がマシなんじゃないのか。

 悪どく嗤う。この幼子が、あまりにも憐れだった。


「あう」


 ふと、シオンの手が伸びて、私の頬に触れた。





 ────もう、いいよ。





 唐突に聞こえた幻聴に、嗤いが滲み出る。




「…………ハッ、アハハッ! さすがはエバの娘だな!」


 自分を蔑ろにすることを厭わないお人好し。

 諦めが早くて、直ぐに死に逝く。


「何度も何度も、死にたくなるぜ。それほどに、これから君を取り巻く環境は劣悪だ。それなのに抗うことも無くもう諦めるのか。子どものくせに、なんて諦めの早い────いや、違うか」


 子どもだからこそ、諦めるのか。


「……解った。よく、解った」


 収まらない嘲笑を無理やり押し込み、別れの言葉も無く幼子の前から消える。






「────アハハッ、アッハハハハ!」


 月の下、魔女が嗤う。

 海色の髪を振り乱し、瑠璃色の眼を見開き、だらだらと涙を垂れ流して、嗤っていた。


『我が符名はマレフィカス・ブルート! 邪悪を体現する、“人でなし”なり!』


 闇夜に躍り、高らかに詠唱する。


『我が身に湛えし災厄を此処に! 堰を切り、内より決壊せよ!』


 屋根の上に立つ自身の足元から水が溢れ出す。

 それらは青黒く濁りきっており、確かな意志を持って屋敷全体へと染み渡り、端から端まで侵食していく。


『満ちる【悪】は、齎されたもの。故に、ここに返上する。己が得た業に溺れて沈め!』


 罵るように締め括り、レシグナ子爵家への呪詛を完成させる。


「さぁ、欲に落魄れるヒトども! この“人でなし”に、愉しい見世物を観せてくれよ!」


 深まった夜に響く哄笑は誰の耳にも届かない。

 それでもいい、呪いは既に成してある。

 満足した青色の魔女は、闇に溶け込むように消え去った。











「また王宮で盗人が現れたらしい」

「またですか」

「宝物庫に収められていたほとんどが盗まれてしまったとか」

「王宮に出入りできる貴族が疑われているそうですよ」

「騎士たちが血眼になって犯人を探している」

「捕まれば、確実に命は無いだろう────」


 貴族社会で流れ始めた、とある噂話。

 次々と流れ込んでくる不協和音があまりに愉快で。少し耳を傾けていただけだった私は、我慢できずにその輪の中へ押し入った。


「そう言えば……レシグナ子爵家には時折、目を見張るほどの素晴らしい品が流れ着くことがあるそうですよ」

「ほう」

「それはそれは」


 不協和音は、少しずつ形を整えていく。


「子爵夫人にも困ったものです。売り物ならまだしも、私たちの身に付けている宝飾品にすら手を伸ばしてしまうのですから」

「貸してほしい、と何度も縋られましたわ」

「一度貸したら無くしてしまったと言って、返してくださいませんでした」

「まだ結婚もしていない三人のご令嬢たちは、大層お遊びが過ぎるようで」

「妻子あるなしに関わらず殿方を誘って、毎夜のように愛を乞うているとか」

「まあ……」


 目に見える【悪意】が、凝り固まっていく。


「以前から財政難にお悩みで」

「レシグナ卿は資金繰りに奔走されているとか」

「花街では借金子爵だなんて呼ばれているらしい」

「同じ貴族として恥ずかしい限りですわ」


 クスクス、クスクス。

 嘲笑を湛えた同類どもが、噂の枝葉を伸ばしていく。

 私はただ、それに便乗して嗤うだけだ。






「ロズ」


 使い魔が苛立たし気に、昔の名前で私を呼ぶ。


「どうしたリュシー」

「どうしたもこうしたもあるか。なんだその格好は」


 言われて自分を見下ろす。

 肩が出るタイプの、青色のマーメイドドレスだ。

 髪は面倒なので元より短く、特に飾るものも無い。


「何って、流行りのドレスだが。似合わなかったか?」

「肩を出し過ぎだ。見苦しい」


 そう言って私の肩にショールを掛けてくる。

 どこで用意してきたんだか。


「このくらいの露出で文句言うなよ。せっかく高級娼館のオーナーらしく気合い入れたのにさ」


 使い魔の眉間に、深くシワが寄る。


「お前は、ロズだ」

「はいはい」


 使い魔を頭から爪先までじっくりと見る。

 普段の黒服ではない。あれよりも上等なもので仕立てられている、騎士の正装だ。


「ふーん、その姿もなかなか様になっているじゃないか。仕事の方はどうだ?」

「上手くいっている」

「そっか」


 それは何よりだ。


「……ロズ」

「何だよ」

「シオンは、無事か」

「ハハッ、無事なわけねぇだろ? この間、義姉どもに丸々三日ゴミ箱に閉じ込められて、危うく衰弱死するところだったぜ」

「助けたのか?」

「いいや? “お人好し”ちゃんが、まるでヒーローみたいに現れて保護していったぜ」

「ああ、あのビルトゥとか言う……」


 言葉を切り、使い魔は私の顔をマジマジと見た。


「……やけに上機嫌だな。お前が気に入る程なのか?」

「うーん? まあ、そうだな?」


 適当にはぐらかし、身形の美しい使い魔に手を差し出す。

 

「ほら、外にエスコートしてくれよ騎士サマ」

「もういいのか」

「ああ、水遣りは充分やった」


 浮かべた淑女らしからぬ笑みは、この社交場に相応しくない。

 

「今回は育ちが良い。咲くのが愉しみだ」

「……そうか」


 白銀の美青年と、青髪の女が華やかな大広間から出て行く。

 悪目立ちする男女を気に止める者はいない。

 くるり、くるりと踊り続ける。

 撒かれた【悪意】がより大きく育つように、注がれた水がより馴染むように。


 ────噂話は急速に、王宮内に広まって行った。









「お許しください、お許しください!」

「これは何かの間違いです!」

「いやぁ! 私たち、何もしてない!」

「そうよ、あの人が勝手に……!」

「離して、離してよ!」


 騎士に捕らえられ、レシグナ子爵家の人間たちが連れて行かれる。

 屋敷からは数多くの宝飾品が見つかり、鑑定の結果、全て王宮の宝物庫から盗まれた品々であることが判明した。

 子爵たちは無罪を主張したが、聞き入れられることは無かった。








「────やあ、レシグナ卿!」


 軽やかに牢獄の前に降り立ち、中で絶望に打ちひしがれてる子爵家の面々を見下す。

 綺麗な服やら宝飾品やらは剥ぎ取られ、今は汚ぇ囚人服を着ている。似合い過ぎていて、抱腹絶倒しそうになるのを何とか堪えた。


「マル……!」

「こんなところで奇遇だねぇ! 一体何をしでかしたんだ?」


 含みのある嘲笑を向ければ、その顔色は瞬く間に真っ赤に染まる。

 鉄格子を強く掴んで、激しく揺らす。獣か何かかな?


「ふざけるな! お前が! お前のせいで、俺たちは……!」

「いいや? これは完全にお前らの自業自得だ」


 首を傾げてすっとぼける。


「私はたまたま拾ったガラクタを、目の前にぶら下げて欲しいかと聞いただけだ。それを売り飛ばしたりせずに王宮に進言なりすれば済んだ話を、ここまでややこしくしたのはお前ら自身だ」


 私が持ってきた王宮の宝を嬉々として受け取り、売り飛ばしては金を得て贅沢三昧。そんなやり取りをこの十数年の間に何度も行い、最終的には宝そのものをコレクションにし始めた。


 聞こえてきたクズどもの弁明の中に、既に私の名前は挙がっていた。

 しかし、花街の娼館オーナーごときに侵入を許すほど騎士たちは怠けていない……と、王宮騎士の反感を買ってしまい、弁明は狂言として揉み消されている。


 ────まあ、揉み消したのは私の使い魔なのだが!


「散々やることやった後だぜ? 今更、私がやったなんて言ったって、誰も信じねぇだろうよ」


 ああ愉しい。虐めるの超愉しい。


「ねぇ助けて、助けなさいよ! お金でも宝石でも、何でもあげるから……!」


 酷い顔をした女どもが傲慢に助けを乞う。


「へぇ、何でもくれるのか? どうしようかなぁ?」


 そう言って考え込む素振りをすると、直ぐに調子に乗り出す。


「あ、ああそうだ! ここから出してくれれば、貴様の望むものを何でも与えよう!」

「何がいいの? 宝石? ドレス? 必ず用意するわ!」

「素敵な殿方をご紹介するわ! だから、私たちを助け……」





「そっかぁ。じゃあ────精々苦しんで死んでくれよ!」




 にこやかに吐き捨ててやれば、揃いも揃って馬鹿みたいに硬直する。


「この国はどの時代も容赦が無くてなぁ。盗人の死刑はただの首吊りじゃあ終わんねぇ。全身嬲られて、外も中身もじっくりズタズタのボロボロにさせられてから、最期の最期でやっと赦しの縄を与えられるんだとさ! この世に絶望しながらゆっくりと殺される! ああ、さぞかし好い見世物になるだろうよ!」


 みるみるうちに色が消えていくクズどもの顔は見物だった。

 少しだけ見えた希望に縋り付いて振り落とされた、最高のアホ面。

 もっともっと、愉快にその顔を歪めて欲しい。その一心で、地獄に叩きつけるための言葉を振り翳す。


「それで私が満足できたのなら、助けてやるよ! 生きる苦しみってやつからさぁ! アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」





 混ざり合う悲鳴と怒号。鉄格子を揺らし、叩く音。

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ声がまだ、遠くの牢獄から聞こえてくる。

 まもなく潰える命が、まさしく必死で藻掻いている。

 そのことに内心で涎を垂らし、私は上機嫌で花街へと帰っていった。

 








「ねぇねぇ知ってる? レシグナ子爵のお話!」

「知ってる知ってる! 王家のお宝を盗んだ、不届き者!」

「盗んだお宝で借金返済!」

「盗んだお宝でパーティパーティ!」

「奥様もお嬢様たちも贅沢三昧!」

「ついに騎士たちに捕まっちゃった!」

「捕まっちゃった!」

「あはは、あはは! おバカな子爵家!」

「盗人はたっぷり折檻されて、最後に首吊りだ!」

「泣き喚きながら仲良く愉しく処刑台へ!」

「あはは!あはははは!」


 噂話を歌う、薄汚れたネズミたちが横を通り過ぎていく。

 走って来た方角を見てみれば、野晒しの処刑台があり、五人分の死体がぶら下がっている。

 その死体を前に、ひとり立ち尽くす人影を見つけた。

 金茶色の髪を三つ編みにした、黒縁眼鏡の女。手を組んで祈りを捧げているその姿はまるで聖女サマのようだ。


「“お人好し”ちゃん。こんなところでどうしたんだ?」


 振り返った女────ビルトゥという名の“お人好し”は、私を見るなり顔を顰めた。

 どこぞの使い魔と似ていて、なんだか愉しくなる。


「こんにちは、“人でなし”さん。今回は随分と忙しなく動き回っていたようね」

「すげぇ愉しかったぜ?」


 ニヤニヤと死体を見遣りながら答えると、溜息を吐かれた。


「シオンにもあなたの【災厄】が降り掛かるところだったわ」

「それは無いって。あの坊ちゃんが耳に入らないようにしていたし。あの馬鹿どもの加護も、イイ感じに効いてただろう?」

「…………あの子たちはまだ、シオンの中に居るの?」

「ああ。まあ、そろそろ消えそうだがな」


 十年近く休まず働かせた加護の力は、年々小さくなってきている。

 あと一押し衝撃を与えれば、簡単に砕け散ってしまうだろう。


「……あの加護のおかげで、シオンは五年も初夜を免れたわ」

「そりゃ滑稽だ! あのガンシアの放蕩息子が手を出さずじまいだなんて、とんだ醜聞じゃねぇか!」

「あなた、シオンを取られたくなかっただけでしょう?」

「あったりまえだろう!」


 怒鳴るように嗤い飛ばす。


「元々あの子は私のものだったんだ! 上手く行けばこのクズどもを陥れた後に回収できたってのに、その前に横から掠め取られた! まったく、【運命】ってのは厄介なことこの上ないよなぁ、エルエスティア!」

「……その名前で呼ばないでちょうだい、マレフィカス・ブルート」


 黒縁眼鏡の奥、金茶の瞳が物憂げに眇められる。


「シオンはガンシア公爵家の庇護下よ。……引き取るのは、諦めなさい」

「アハッ、ひっでぇ話! 産まれた時に立ち会ったのは私なのにさァ!」

「心にも思ってないことを言うものじゃないわ。あの時から、あなたはただ観ていただけじゃない」


 面白可笑しく愉しく、悲劇を観ていただけ。

 何も出来ずに、身の内に【悪意】を溜め込んだだけ。


「エバの死で溜め込んだ【悪意】を、子爵家への報復に使い切ってしまったでしょう。…………今のあなた、空っぽだわ。そんな状態で【権能】を使ったらどうなるか、分かるわよね?」

「……さぁ、どうなるんだろうな?」


 嗤って誤魔化すが、見透かした顔でまた溜息を吐かれた。


「…………はあ。警告はしたわよ、“人でなし”さん」


 三つ編みを揺らして“お人好し”ちゃんは去っていく。

 その後ろ姿が完全に見えなくなってから、私は子爵一家の死体をもう一度見た。

 首吊り刑の死に顔は実に醜い。私好みの、苦悶の表情だ。


「やあ、レシグナ卿。私がやったガラクタは高く売れたかい?」


 親しみを込めてにこやかに問い掛ける。


「子爵夫人。あなたを飾り立てる美しい装飾品は、どこまでその心を狂わせた?」


 高らかに罪状を歌い上げる。


「お嬢様がた。金に目が眩んだ、見目だけは麗しい男どものお味はどうだった?」


 恭しく頭を垂れ、仲良く並ぶ死体に唾を吐く。


「────最高に愉しい見世物をどうもありがとう!」


 ゲラゲラと盛大に嗤い、喜劇の立役者たちに背を向けて観客席から飛び降りる。

 愉しいことはあっという間に終わってしまって勿体無い。それでも、なかなかに愉しめたので良しとしよう。




 満足して処刑場から離れて歩いて行くと、リュシーと“知りたがり”ちゃんに合流した。


「 “人でなし”ちゃん、お疲れ様ー!」


 “知りたがり”ちゃんが目を輝かせて、ブンブンと大仰に両手を振っている。楽しそうだ。


「“知りたがり”ちゃんもお疲れ様。手伝ってくれてありがとな」

「えへへ〜、“人でなし”ちゃんの役に立てたなら何よりだよ」


 リュシーと“知りたがり”ちゃんを両脇に従えて再び歩き出す。


「あーあ、愉しかった」

「良かったねぇ」


 伸びをする私を見て、“知りたがり”ちゃんがにこにこと笑う。私と違って、この子の笑い方は完璧なようでどこか作り物めいている。

 ひと仕事終えた後はとても気分が好い。そう言えばと、明日から休みを取っていたことに気がついて、使い魔を仰ぎ見た。


「おいリュシー、明日デートしに行こうぜ?」

「は?」

「やることやってオフになったからヒマなんだ。久しぶりに付き合えよ」

「……今回の件でまだ事後処理が残っている。明日も仕事だ」

「仕事だぁ〜? お前いつからそんな真面目になったんだよ」

「そもそもお前が原因で増えた仕事だ。文句があるなら手伝え。事務仕事は得意だろう」

「別にいいけど、それ終わったらデートしろよ」

「えー、ズルい! 私も一緒に行きたーい!」

「来ればいいじゃん?」

「行く行くー! 仕事が終わったら、“お人好し”ちゃんのところに集合ね!」


 鼻を突く死臭は、距離を取れば取るほど薄れていく。

 長らく執拗に聞こえていたクズどもの怨嗟の声を思い出し、止める間もなく口端から嗤いが溢れてしまった。




「────ああ、愉しかった」


 そしてもう一度、噛み締めるように呟いたのだった。

次回で母なる娼婦の話はおしまいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ