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秒で諦める、その前に。   作者: 六十月菖菊
アロー=ガンシア
14/19

【END】諦めるのではなく、愛ゆえに。

アロー視点、完結ッ!

平和な後日談再び。



 奪っていた自由を返し、ひとまず出掛けることにした。

 二人で出掛けるなんて、結婚して初めてのことである。


「本を借りに図書館と、あと友人のレストランに食べに行きたいです」

「お前、本なんて読むのか」


 五年経って初めて知ったことが多くある。

 シオンは読書家だったらしく、図書館で大量の本を借りてきた。


「お待たせしましたアロー様」

「遅いぞシオン! 本を選ぶのに三十分もかけるな!」

「はい。次はもっと早めに選びますね」


 俺はこの図書館があまり好きではない。

 ここで働いている、赤いカチューシャを付けた司書が苦手なのだ。

 以前、可憐な司書が居ると噂に聞いて口説きに行って、ひどい罵詈雑言を浴びせられたことがあった。

 それ以来、図書館には一歩も入ることができていない。


「まあ、そんなことが」


 そのことを話すと、シオンは目を丸くして図書館を仰ぎ見る。


「とても可愛らしい御方でしたよ?」

「花には棘があるものもある」

「私にはありませんから、安心してくださいね」


 ニコニコと笑うシオンを見て、心から彼女が妻で良かったと思った。





「いらっしゃいませ……あら、シオンじゃない。旦那様もご一緒に?」


 シオンの友人ビルトゥが経営する店は客が少ない分、静かで居心地が良かった。

 どこか、シオンのような雰囲気だと思った。


「お前、ここの料理はちゃんと食べるんだな」

「アロー様、我が家のシェフには内緒でお願いしますね。私、偏食なんです」


 小食というのは嘘だったと、申し訳なさそうに語る。


「我が家の料理が素晴らしいことは事実なのですが……高級な食材は、私の喉を通りにくいのです」


 子爵家で虐げられていた後遺症なのだろうか。

 粗悪な食事ばかり摂らされていた彼女は、貴族にとって当たり前の味を受け容れられないのだという。


「それならば問題無い。内容を変えれば良いだけの話だ」

「でも」

「俺だってこの手の料理は好きだ。お前が好きなら尚更だ」


 事も無げにそう言えば、泣かれた。


「何故泣く!?」

「あーあ、泣かせた。旦那様、罪な男だねぇ」


 見咎めたビルトゥが囃したてるように言い残して去っていく。待て、置いていくな。


「嬉しい、です。アロー様、ありがとうございます」


 慌てふためく俺に泣きながら笑いかける。彼女の笑顔は涙に濡れていても綺麗だった。






「おう、公爵様じゃんか。お元気ー?」

「マル」


 街の往来の真中で出会った高級娼館のオーナーは愉しげに笑っている。

 その傍には、白銀色の髪と瞳を持つ美麗な黒服の男が控えていた。


「マル様、お久しぶりです」

「お久しぶりです、シオン様。その様子だと、私の勧誘は失敗したと見えますね?」

「はい。おかげさまで」


 にこやかに返すシオンを、マルは眩しそうに見つめている。


「おい、あまりシオンに慣れ慣れしくするな」

「男の嫉妬は醜いねぇ! 別に良いじゃん、今の私はオフだよ」

「オフ?」

「見てわかんねーの? デートだよデート」


 なぁ?と、傍にいる男に腕を絡めて同意を求める。

 黒服男はギロリとマルを睨んだ。


「何がデートだ。キビキビ歩け」

「ひっでぇ、それが久しぶりに再会した恋人に対するセリフと態度かよ」

「煩い。お前はオフだろうが、俺は仕事中だ。ほら行くぞ」

「うわ、ちょっと待てって。引っ張るなってば」


 半ば引き摺られるようにして、マルは黒服男により連れて行かれていく。

 緩く手を振って二人を見送っていたシオンがふと、思い出したように俺の顔を見た。


「どうした?」

「これは、デートですよね?」

「そうだが?」


 即答すると花が咲いた。


「ありがとうございます」

「……そんなに簡単に笑いかけてくれるのであれば、毎日デートに誘いたい」


 思ったことをそのまま声に出して言うと、またひとつ花が開く。


「それなら、これから毎日笑いかけてあげますね」

「……無理をするな」

「あなたが喜んでくれるのなら無理じゃないですよ? 愛ゆえに、なのです」

「ぐっ……止めろ、俺を悶死させる気か」


 心臓を抑えて蹲る羽目になる。

 俺の妻は、あらゆる意味で恐ろしい存在となった。




ここまで読んでいただき、まことにありがとうございます!!

アロー視点いかがでしたでしょうか?

少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。


この後は特に予定してません。

日常編とか、子どもとか、他キャラクターの小話とか書けたら良いなとは思っていますが……予定は未定です。

また別作品でお会い出来れば幸いです~(*'ヮ'*)

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