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秒で諦める、その前に。   作者: 六十月菖菊
アロー=ガンシア
13/19

【5】一緒に生きたいと、あなたが泣くから。

旦那様は権力を振り翳す暴君タイプです。

え? 知ってた?


 ある日、その事件は起きた。

 かつての愛人たちが屋敷に乗り込み、シオンを襲ったのである。

 使用人からの報せを受けて急いで戻ると、シオンが首を絞められていた。


「────シオン!」


 倒れるシオンに間に合わなかったあの日のことを思い出した。

 今度こそはと、駆け寄る。そうして愛人たちを払いのけて腕に抱いた妻は、泣いていた。


「シオンが、泣いている」


 呆然とした。

 彼女が泣いているところなんて、初めて見た。


「許さない」

「アロー様?」


 立ち尽くしている女どもを睨みつける。


「シオンを泣かせたお前らを、俺は絶対に許さない」




 女どもは全て拘留所に叩き込んだ。

 貴族の出の娘は勘当させた。

 表向き、拘留期間を終えたら解放することになっているが、そんなことはさせない。

 殺してやる。シオンを泣かせた女どもは一人残らず全員殺す。


「だから起きてくれよ、シオン……!」


 意識を失ってから三日間。ずっと眠り続けている妻の手を握り締めて語りかける。


「死ぬな馬鹿! 死んだら俺も死ぬぞ!」


 祈るようにというよりは、呪いの言葉を吐くように。

 ずっとシオンの傍で言い続けた。






「……あ、ろ」


 きゅ、と。弱々しくあったが、握っていた手に力が込められた。

 ハッとして顔を見れば、瞼が震えている。


「シオン? シオン!」


 必死で呼びかければ、ゆっくりと瞼が上がっていく。


「あ、ろー、さま?」

「シオン、俺が分かるか?」


 俺の姿を捉えた瞳が、ゆるゆると安堵に染まる。


「アロー、さま」

「ああ、シオン……!」


 嬉しさのあまり涙が出た。

 ゆっくりとシオンの手が伸びて、俺の涙に触れた。


「アローさま、また泣いて……?」

「だ、だってお前が、なかなか起きないから……!」


 詰るように責め立てると、久しぶりにシオンが笑った。


「心配、してくれたんですね」

「当たり前だ馬鹿!」

「私、ちゃんと生きてます」


 ────だから。


「アロー様も、一緒に生きてくださいね」


 今、一緒にと言ったか。


「私と一緒に、生きてくださいね」


 笑いながら、シオンは泣いていた。


「だって、私たち、夫婦なんですから」


 ────自分も死ぬだなんて、言わないでください。


 震える声で、そう嘆願した。


「……聞こえていたのか?」

「ずっと、ずっと聞こえておりました。起きるのが遅くなって、ごめんなさい」


 ぽろぽろと涙を流しながらシオンは言う。


「私、恐かった。あなたが死んでしまうって考えたら、自分が死ぬことよりも恐かった」

「シオン……」

「死なないでアロー様。私、ちゃんと生きますから。だから」

「……分かった。分かったから、もう泣くなよ」

「はい……」


 ぐずぐずと泣き続ける妻を抱きしめた。





 シオンに愛人たちのことを話すと、妙に勘の鋭い彼女は俺の考えを感じ取ったらしく、止めるように説いてきた。


「彼女らをこれ以上罰しないでください」

「いやだがしかし」

「何でも言うことを聞きます。お願いですから、私なんかの為にひどいことをしないでください」

「今何でもって言ったか!?」


 何でも、言うことを聞く。

 それを聞いただけで、女どもへの殺意は遥か遠い彼方へと飛んでいった。

 俺には、そんなものよりも、喉から手が出るほど欲しいものがあったから。


「俺を愛してくれ!」


 シオンからの愛が欲しい。

 嬉々と、それでいて必死の形相でそう願い出ると、彼女は愛らしく目を丸くした。

 そして、初めて会ったあのときのように、花のような笑みを見せてくれた。






「はい、愛しております。アロー様」


どうでもいい名前の由来


シオン=レシグナ

→レシグナシオン……スペイン語で「諦め」


アロー=ガンシア

→アロガンシア……スペイン語で「傲慢」


ロクな名前の付け方じゃないですね、名付け親の気が知れない。

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