【2】彼女の容量と、愛の真偽。
今回かなり短めです。
どうしてこうなった……。
心地良いのも考えものだと、その頃のことを思い返すたびに俺は後悔している。
「旦那様、いつまでこのようなことを続けられるのですか?」
痺れを切らした執事が何か言ってくるが、俺だって好きで続けているわけではない。
────シオンが、愛人を囲っても嫉妬しない。
始まりは、ふとしたときに起きた悪戯心からだった。
まだ未婚だった頃から寄って来た女たちを相手に遊ぶのが習慣付いていた俺はある日、うっかり女を屋敷に連れて帰って来てしまった。
使用人たちが顔を青ざめさせている中、シオンだけが平然とした顔でのたまったのである。
「おかえりなさいアロー様。今夜はお連れのお嬢様とお過ごしになられますか?」
見事なまでに、嫌味どころか裏表のない言葉だった。
こちらに伺いを立てるその姿は、妻にあるまじきもの。
────シオンは女を囲っても嫉妬しない? 煩く説教しない?
試したくなったのだ。
シオンが、どこまで俺を受け容れてくれるのか。
そうして気が付けば、五年もの間に数多の愛人を別の屋敷に囲う生活を送っていた。
「……ぶっははははははは! クズな上にバカだなァ、お前!」
「なあ、マル。どうしたらシオンは嫉妬してくれると思う?」
「それを私に聞くのか! つくづく頭の悪い男だな!」
ゲラゲラと嗤う、海色の髪の女。
俺が通っている高級娼館のオーナーは、普段閉じている糸目を薄らと開いてこちらを睨んだ。
「おそらくだが、お前の奥方は一生嫉妬なんてしないと思うぞ」
「どうしてだ?」
「そんなもん決まってる。お前を好いていないからさ!」
ギラリと光る瑠璃色の目は俺を蔑んでいた。
「そんなわけない。俺たちは夫婦だぞ」
「愛し合っていない夫婦なんて幾らでもいるだろうが」
「シオンは結婚を拒否しなかった。俺のことが好きだから受け容れたんじゃないのか」
「へえ? たったそれだけの理由で、お前は奥方に愛されていると信用できるんだな?」
実に愉しげに糸目が弧を描き、マルの顔は禍々しい笑みを象った。
「それなら、お前の代わりに試してやるよ。アロー=ガンシア公爵殿」
────お前の奥方が本当に、お前を愛しているのかどうかを。
海色をした糸目魔女、再び。
皆さんお気づきかもしれませんが、私はこの魔女が大好きです。
今後の作品に何度も出て来ると思います……。




