セミの運命を知って、生命の尊さに気づくが、すぐ忘れる。
「誰が師匠だ?」
「シン=グリード。」
「アイツか…」
ニックの師匠は腕組みをしたまま、天井を見上げた。そして、そのまま暫く部屋の中に沈黙が空間を支配した。
ニックの師匠はゆっくりと天井を見上げていた顔を下ろして、トールを見た。
「アイツ、一体どんな修行をつけているんだ。まあ、アイツが弟子にした位だ。よっぽど、期待したんだろな。お前、名は?」
「トール。」
「そうか。トール。先程も言った通り、紋章魔法をお前に教えることは出来ない。が、お前が見て、勝手に覚える事は問題じゃない。」
「ッ!…分かりました。」
トールは少し眉を上げた。トール自身も気づいたのだろう。直接の指導は出来ない中で、何かを自分自身に伝えようとする意思はトールもしっかりと受け取っていた。先程まで睨みつけていたその目は、何かを受け取った硬い意思を示す真っ直ぐな眼差しをしていた。
(いい顔になったな。感も良い。ただの馬鹿じゃないらしい。)
「自己紹介はまだだったな。私の名前はリアン=マティッチだ。ニックの師匠をやっている。お前の師匠とは、古い関係でな、知らない仲じゃないとだけ言っておこうか。昼から協会からの依頼に行く。ついて来るか?」
「行きますッ!」
トールは満面の笑みで答えた。
「ハハッ!良い返事だ!」
「師匠…いいんですか?危険ですよ?」
ニックは心配そうな顔でリアンを見た。
「ああ、こんな世界だ。危険はどこにいても付き物だ。ハハッ!それに死んだら、自己責任だ。そんな事、コイツは分かっているよ。」
「魔法も使えないんですよ?」
「悪魔を倒せるのは魔法だけじゃないからな。自己防衛は覚えておいて、損はないだろう。」
(本当に師匠は子供に優しいな。僕にも少しは分けて欲しいな。)
「さぁ、ご飯ですよ。食べましょう。お昼から忙しくなりますからね。」
ニックはお皿にパンとサラダ、卵焼きを乗せて、リビングのテーブルに並べた。トールはいつ焼いたんだ?と疑問を覚えたが、お昼からの事を考えると、聞くよりも、先に手が食事へと伸びていた。トール自身も気づかなかったが、空腹になっていたらしい。そんな、トールをリアンもニックは見て、微笑ましく思った。特にリアンは希望に満ち溢れている子供を見ると、何かに満たされる感覚を覚えた。それは、直接関係の無い子供であっても抱く感情なんだろうと、リアンは思い耽っていた。
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Marty




