窮地 -アース-
「守りに入ればやられる。責め続けろ。」
細身の男が味方に発破をかけるように言った。
「分かってる。命令ばっかするなって。」
肥満体型の男は不満そうな声を出して答えた。
「遅いわ。」
マリアは一瞬のうちに間合いを詰めた。マリアは肥満体型の男の目の前に立ち、剣を抜いた。目にも止まらない抜刀術だった。
しかし、その剣は止められた。
「あら?これは。」
細い糸が肥満体型の男の前で張り巡らされていた。
男の顔には汗が流れた。
「そう。糸ねえ。」
マリアは細身の男を見て笑みを浮かべた。その顔はまるで玩具を買い与えられた子供のようだった。
「助かった。」
肥満体型の男は細身の男に礼を伝えて一歩下がった。
「でも、厄介ね。」
マリアは糸を警戒して後ろへと飛んだ。
「がら空きだ。」
背の低い男は後ろに飛んだマリアの着地を狙い、ナイフを振りかざした。
マリアは着地と同時に体を回転させて、更に後ろに回避して振り抜かれたナイフを避けた。
、、、はずだった。
マリアの頬には薄っすらと切り傷が出来ていた。傷口から溢れ出てきた血を指で拭って、それを見て確認した。
「あら?これは。おかしいわね。」
マリアは確かに避けたはずだった。
『別の武器?見えない角度から?いいえ。他に武器は持っていないわ。では、別の方かしら。糸は見えなかったわね。ふふっ。不思議。』
「なら、分からないまま死んでくれ。」
やつれた顔の男はマリアを真っ直ぐ見て言った。
「ぐふっ。」
マリアは腹部に鈍い痛みを感じた。腹部を見るブーメランが腹部を抉っていた。
(肋骨、何本折れたかしら。ふふっ。)
「ふふっ。ふふっ。なるほど。貴方達ホルダーね?」
マリアは強烈な痛みの元となる木製のブーメランを手に取り、足元へと捨て置いた。
「ああそうだ。だったら、どうする?」
細身の男は言った。
「ふふっ。楽しいわ。興奮が止まらない。」
「変態が!」
細身な男は眉間にシワを寄せて叫んだ。
「おい、ライン。コイツ、雰囲気がまた変わったぞ。」
肥満体型の男は細身の男に向かって言った。
「分かってるよ。フート、あの女から目を離すな。」
細身の男はフートの目の前に張り巡らせた糸を回収した。
「ああ。」
フートは一歩、二歩と進み、臨戦体勢を取った。
その姿はまるで猪を彷彿とさせる体勢であった。
「ライン、この女相手だと長く持たない。能力が割れる前にやるぞ。」
背の低い男は細身の男に向かって言った。
最前線でマリアと対峙している彼にはマリアの異質な何かを感じ取ったのであろう。
対峙しているだけで、重苦しく、体力が激しく消耗していることを感じていた。
「ノートン、武器の回収も頼むよ。」
やつれた顔の男は背の低い男に向かって言った。
「メランコリー、お前な。これが終わったら、武器変えろ。」
背が低い男のノートンはやつれた顔の男メランコリーを睨みつけていた。
「ははっ。頼むよ。」
口元だけ笑みを作り言った。
「意外とお喋りなのね。今は言葉を交わす時ではないわ。刃を交える時よ。」
マリアはやつれた顔の男メランコリーに向かって走り出した。
「やらせるか!」
ラインはマリアに向かって糸を放った。細い体をしならせて、全身を使って放たれた攻撃だった。
それはとても早く、鋭かった。
「無駄よ。貴方の武器はピアノ線ね?見えていれば、避けることに造作はないわ。」
マリアは伸びてきた、ピアノ線をヒラリと避けた。避けた後、速度を維持したままやつれた顔の男メランコリーに向かってまた、走り出した。
「来たな。頼むよ。」
細身の男は言った。
「ああ、武器なしは下がっていろ。」
ノートンはメランコリーとマリアの間に滑り込むように移動した。そして、マリアと刃を交えた。
(瞬発力はこの4人の中でズバ抜けているわね。)
「よくその短いナイフで私の剣を止めることができるわね。それもホルダーの能力かしら?」
「さあな、馬鹿正直に言うわけないだろ。」
ノートンはマリアの剣を弾き返した。ノートンは更に踏み込んでもう一度ナイフを振り切った。
『キーーンッ』
金属が触れ合った、高い音が鳴り響いた。
「これでも駄目か。噂通りだな。」
ノートンの顔からは汗が滴り落ちていた。
(全ての攻撃が早く、重たい。どこからそんな力が出てくるんだ?)
「ノートン!下がれ!」
そう言うとラインは長いピアノ線をマリアに向けて放った。マリアはノートンから離れ、ラインの攻撃を回避した。
「ここだっ!」
マリアは突然現れたフートに殴られ、数m後方まで飛ばされた。
「ふふっ。折れているわね。」
マリアの左腕はブランっと垂れていた。
「もうその腕じゃ戦えないだろう?降参して、プレートを渡すか?俺たちの目的はプレートだ。」
ラインはマリア言った。
「ふふっ。冗談。折角の楽しい時間をもっと楽しみましょう。まだまだここからよ。」
「噂通りのイカれた女だ。」
「間違いなく折れているはず。なんで平然としていられるんだ?」
フートは迷わず立ち上がってくるマリアを凝視した。
フートにとって今の攻撃は会心の一撃と言って良いほどの攻撃だった。しかし、目の前の女は元から左腕など無かったかの様に振る舞っていた。
「不思議なこともない。この女ならな。」
ノートンはフートを気遣った。
(今の攻撃でもダメなのか!)
「この女、ホルダーか?」メランコリーは言った。
「さあな。」
「さて、片腕を無くしてどこまでやれるかしら?ふふっ。」




