前方注意 -アース-
アンは声を頼りに走った。
遠くで聞こえた助けを呼ぶ声は次第に近くなった。
『誰かー!誰かいないかー⁉︎』
アン
「どこー⁉︎どこにいるのー⁉︎」
アンは応えるように大きな声をあげた。
『誰かいるのか⁉︎ここだー!』
アンは声のする方に更に近づいた。
そこは地割れが起きて出来た草原の裂け目だった。
声は地割れの底からハッキリと聞こえてきた。
アンは四つん這いの体勢で恐る恐る地割れの奥を覗き込んた。
地上から10mほどの所で、突き出た岩に服が引っ掛かり助かっている人が見えた。
上からはヘルメットで顔が見えなかった。
アン
「大丈夫ー⁉︎」
「頼む!助けてくれー!」
助けを呼ぶ声は幼かった。
シャオ
「アン!」
後ろから追いかけていたシャオはアンを呼んだ。
アン
「シャオ!早く助けてあげないと、落ちちゃうよ!」
後からアンを追いかけてきたシャオとグリーデンがアンに追いついた。2人はアンと同じ体勢になって草原の裂け目の奥を覗き込んだ。
グリーデン
「よく、助かったな。ギリギリだぞ、あれ。」
シャオ
「グリーデン、″悪魔″はどこまで人に寄せれる?」
シャオは悪魔が自分達を嵌めるための演技ではないかと考えていた。
グリーデン
「…限りなく、人に寄せてるって話だ。俺が聞いたことがある″悪魔″はグールって″悪魔″だ。人の姿に化けて、人の言葉を話すことで相手を油断させて近づき、食べるらしい。」
シャオ
「見分けるのは難しいか。」
アン
「シャオ!」
アンは立ち上がり、見下ろす形になった。
アン
「あの子は″悪魔″じゃないよ!」
アンは拳を強く握りしめて、真っ直ぐシャオを見てアンは言った。
シャオ
「…分かったよ。助けよう。但し、少しでも怪しい行動をしたら…分かるね?」
シャオはゆっくりと立ち上がった後に答えた。シャオはアンに真っ直ぐな目で言われるとそれを無下にすることが出来なかった。横で見ていたグリーデンはシャオの弱点は分かりやすいと思っていた。
アン
「うん。」
アンはシャオの含みを持たせた意味を理解した。助けた後に自分達に危害を加えるなら、始末する。と言うことだとアンは理解していた。
グリーデン
「でもどうやって助ける?」
2人と同じように立ち上がり、シャオに問い掛けた。ロープの類は持っていない為、グリーデンは助ける方法が思いつかなかった。
アン
「ちょっと待っててねー!今、助けるからー!」
アンはまた、草原に出来た裂け目の奥を覗き込み、突き出た岩に引っ掛かった状態の幼い声の主に向けて叫んだ。
「頼むー!早く助けてくれー!」
幼い声の主は大きな声で答えた。
シャオ
「こんな事もあると思って。はい。」
シャオは細い木のツルを何束も編み込んだロープを腰袋から取り出してグリーデンにわたした。
グリーデン
「お前、いつの間にこんなの作ってたんだ?」
シャオ
「ここに来るまでに走りながら。」
グリーデン
「嘘だろ?」
シャオ
「…………。」
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シャオ特製の木のツルを編み込んで作ったロープで幼い声の主を助けた3人。
幼い声の主はアンやシャオと同じぐらいの歳の男の子だった。
頭には緑色のヘルメットをかぶり、背中には弓を携えて、腰には矢をストック出来る筒のようなホルダーを装着していた。
全身は緑の服装でまるでピーターパンの様だと一同は思った。
「助かったー。本当にありがとう!」
幼い声の主は目の前に並んでいる3人にお礼を言った。
アン
「良かったね。ねぇ、どうしてあんな所にいたの?」
ヘルメットを被った男の子
「言わないとダメかな?恥ずかしいんだけど…。」
グリーデン
「助けてもらったんだ!それぐらい言え!」
ヘルメットを被った男の子
「ヒッ!」
幼い声の主はグリーデンに怯えていた。大男に詰め寄られたことで体が硬直した。
アン
「グリーデン!怯えてるでしょ!」
アンはグリーデンを睨みつけた。
グリーデン
「悪かったよ。」
グリーデンは大きな体を小さくした。
アン
「無理にとは言わないからね。あ、そうだ名前教えて欲しいな。」
ヘルメットを被った男の子
「俺の名前はガンマ!
なんでなんな所に居たのかって話だけど、落としたおにぎりが転がっちゃって……追いかけていたら気付かずにそのまま一緒に落ちた。」
アン・シャオ・グリーデン
「……………。」
3人は顔と体が硬直した。
4人を沈黙が包み込んだ。
そして、風船が割れるように、包んでいた空気が割れた。
アン・シャオ・グリーデン
「ハッハッハッ!」
3人はお腹を抱え、倒れこみながら笑った。
ガンマ
「だから、言いたくなかったんだ。」
ガンマはヘルメットを深く被り、顔を隠した。その隙間から見える顔は真っ赤になっており、まるでリンゴのようだった。
優しく温かい空気が4人を包み込んだ。