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始まり -アース-


少女は母と一緒に買い物を終えて、コーヒーショップでゆっくりとしていた。



目の前には幹線道路が走り、往来する車で慌ただしい。

外にはテラスも設けられている。

いつもであればテラス席を選ぶのだが、今日はこの夏一番暑く、冷房がきいている室内を母親は選んだようだ。


母親

「やっぱり、ここのコーヒーは美味しい。アンはミックスジュース美味しい?」

アンの母親はにっこりと微笑みながら、アンに聞いた。


アン

「うん!美味しい。」


母親

「アンにはまだ、コーヒーは早いもんね。早く一緒に飲める様になりたいね。」


アンは一度、コーヒーを口にしたことがあったが、とても苦く、苦手であった。

母は何故この苦い飲み物を美味しそうに飲んでいるのか、不思議であった。


アン

「コーヒー嫌い。苦いもん。」


母親

「アンも大人になったら、コーヒーの美味しさが分かるようになるわよ。」


アン

「私は大人だもん。」


母親

「うふふっ。大人はだもん。なんて言わないのよ。」


アン

「んー!」

アンは上手く答えることが出来ずに頬を膨らませた。


母親

「もう少しここで、休んでから帰ろうね。外暑かったもんねー。」


アン

「あっ!今、もん。って言ったー!」

満面の笑みでアンは母親の方を見た。


母親

「んー?言ってない。」

母親は目を逸らし、幹線道路が映る窓の向こうに目を向けた。


アン

「言ったよ。今、言った!」

アンはこんな、たわいも無い親子の会話が好きだった。




母親

「言ってないってば。、、、あれなに?」




母親の瞳孔が開く。

アンはその目線の先に顔を向ける。






明るい空にはっきりと見える彗星が空を横断していた。







母親

「こんなの見たことないね。テレビでも彗星が来るなんて、言ってたかしら?」


アン

「すっごーい! とっても綺麗だね!」

アンは興奮気味に言った。


母親

「ねぇ。お母さんもあんなの初めて見たわ。」


明るい空に突如現れた彗星はビル郡の向こう側に消えていった。


数秒後、遠くのほうで大きな爆音が聞こえる。近くにカミナリが落ちた時の何倍もの音だった。


アン

「なにこの音!」

そう言うと同時に母親はアンに覆い被さった。子を守る壁となるように。


アン

「お母さん⁉︎重たいよ⁉︎」


母親

「いいから!このままでいて!」

アンはこんな母親の姿を見たことがなかった。普通ではない状況が起こっていることが、少女のアンにも理解出来た。






次の瞬間。

衝撃波が窓ガラスを割り、店内を通過していった。





アン

「お母さん‼︎怖いよー!」


母親

「いいからこのままでいて‼︎動かないで!」

母親はこの異常事態の中、娘の安全を第一優先として行動し続けた。そして、守ることで精一杯だった。






数秒間、静寂が店内を包み込んだ。





母親

「怖かったね?」

母親は覆い被さったまま言った。


アン

「お母さん重たいよ?アンは大丈夫だよ?」


母親

「うん。」

母親は娘の安全を確認して覆い被さることをやめた。


母親は周囲の安全を確認するため横を向き、衝撃波が来た方向に体を向けた。


アンは愕然とした。

母親の背中には大きなガラスが刺さっていたのである。


母親は背中に刺さっているガラスに気付いていない。アドレナリンの分泌によって一時的に痛みへの感覚が鈍くなっているのである。


アン

「お母さん?痛くないの?」

自然と出てくる涙を抑えながら、アンは母親に問いかけた。


母親

「ん?どうしたの?」


アン

「お母さん背中に、、大きなガラスが刺さってるよ⁉︎」


母親

「ガラス?、、痛っ!」

刺さっていることを認識してから、母親に痛みが襲ってきた。





「イヤーーー!」




ガラスは母親の右側の背中から突き刺さり、腹部を貫通する直前で止まっていたのである。しかし、母親はその大きなガラスを抜くことも出来ずに正面を見るしかなかった。





「お母さんーー‼︎」

アンはその場で泣き崩れた。



母親

「えっ⁉︎嘘でしょ、、アン‼︎、、、痛っ!」

先程と同じように娘に覆い被さろうとしたが、痛みで体を動かす事が出来なかった。





アン

「お母さん?」

顔を見ると恐怖で顔が引きつっている。そして、アンは母親の目線の方に顔を向ける。





衝撃波によって割れたガラスの向こう側には轟音と一緒に土砂が波の様に迫って来た。







そして、アンと母親、その場にいた人達は全員飲み込まれた。






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