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41 good luck!

 イブおばあさんにバスタブに放り込まれ、全身ガシガシ洗われる。

「これはこの地方の女がとっておきの日に纏う香りだよ?」

 そう言って香油を肌に髪にグリグリ刷り込まれる。


 母に容赦なくコルセットをグイグイ引きしぼられる。

「エメリーン!いくらランスロット様がお優しいからといって、このお腹は何ですか!たるみ過ぎです!」


 マダムアリアにランス様の赤……紅と朱の混ざったような……のドレスを被せられる。

「ふふふ、私の最高傑作ですわ。思った通り、領主様の赤にエムの黒髪が映えること!敢えてエム様の純朴さが伝わるように、シンプルなデザインにしましたの。でも、袖口とスカートの裾は流行の繊細なガレリアレース!」


「はあー、エム様綺麗……」

 クレアが私の巻髪を梳かしながらため息をつく。


「ほら、エム、眼を瞑って!」

「タルサさん、私化粧は……」

 かつて化粧しても地味だとコンラッド様に貶された。


「わかってる。ほんのちょっと紅をさすだけだ。エムが妖艶な美女に変身したら、旦那様が倒れちまう」


 私の黒い髪はようやく肩に付くかつかないか。短いために、ますますカールがクルクル巻いている。その頭に、

「はい」

 クレアがあの丘に咲いている野花たちの花かんむりを載せてくれた。

「何度も練習して、可愛く出来るようになりました!」

 クレアがにっこり笑う。


 赤いハイヒールを履き、鏡の前に連れて行かれる。そこに映っているのは王都の婚約破棄のパーティー以来の正装した私。


「どういう……こと?」


「エメリーン、私が公爵閣下にお願いしたの。〈祝福〉や色々な思惑ありきのご縁だったけれども、想い合っているのなら、幸せな娘の花嫁姿を見たい、と」


 おかあさま……。


「エメリーン……幸せ?」

「っはい!これ以上なく!」


 お妃教育で、涙は許されていなかった。私は初めて……母の胸でほろほろ泣いた。


 一緒にいた四人の女子も、オイオイ泣いた。





 ◇◇◇




 外のガゼボに、ランス様はいるらしい。クレアからひたすら優しく可愛らしい野花のブーケを受け取り、階段を降りて玄関ホールに出ると、正装をした父が待っていた。


 いつも厳しい顔をしていた父が一気に涙目になり、クシャリと笑った。

「私の可愛い愛するエメリーン。これまでの分も、ランスロット様と幸せになるんだよ」

「はい……お父様」

 私たちはそっと抱き合った。


「さあ、行こう」

 父と腕を組み、ゆっくりと歩く。領主館の玄関の扉を開け、外に出ると、領民ほぼ全員が待ち構えていた。


 わあああああ!!!!!


「エムちゃーん」

「エム坊ー!」

「おめでとー!」

「エムーきれいだー!」

「おくさまーおひめさまみたーい」


 この一年の城下町生活で、私は領民全てと知り合った。みんなが手を振って笑っている。


「エムー!いっぱいご馳走あるからなー!」

 たくさんのパーティー料理の奥で、ニルスさんが細い目を更に細めてニヤリと笑ってる。


「エム……愛されているな」

「ランス様の、おかげです」

「間違いなく……英雄だ」

 父の言葉に頷いた。


 ゆっくり人垣に沿って歩くとガゼボの右側に公爵閣下。左側に母とキースが立っていて、ガゼボの中心にケイン……王がシンプルな紺のスーツで立っている。その右にランス様。


「ランス様ー笑って!」

 ギルドのお姉さんが叫ぶ。

「領主様ーオッカナイってー!」

 エプロン姿のブラウンさんが野次る。

 ピィピーーーイ!!!

 武器屋のロイさんが指笛を鳴らす。


 ますます、ランス様の顔が強張った!

「「「「「ひぃっ!」」」」」


「ランスーぅ!リラックスーぅ!」

 ダグラス様。

「ランスロット様、そこでバルト伯に一礼です!」

 ロニー様。

「エム!可愛いよ!花かんむり似合ってる!」

 ワイアット様。

「姉さーん!馬子にもいしょー!」

 キースめ。


 公爵閣下の後ろから、お三方は歯を見せて大きく笑みを浮かべ、私に手を振る。ああ……最初の最初から私を信じて守ってくれた……私の愛するお兄様たち……と弟よ!


 ランス様の元に到着し、父は深々とランス様に礼をして、私を引き渡し、母の隣に下がった。

 ランス様の肘に右手を置き見上げると、目が合った。ランス様は真っ赤な髪を後ろに撫で付け、私が裏地に鳳凰を刺繍したブラックスーツに紫のタイ、正直カタギには見えない。でも、

「ランス様、素敵です」

 惚れた弱みでぼうっとなる。


「エム……この場でそれは……勘弁してくれ」

 ランス様が天を仰いだ。


「ランスロット、ここはエムをお前も褒めるとこだろう。エム、うちのバカが朴念仁で本当に申し訳ない。では、皆、始めるよ!」


 ザワザワとした空気に、ピンと緊張が走る。これが〈王〉の声。

 後ろに控えていたスタンさんがケイン陛下に王たる証、王錫を渡した。




「我が国の英雄にして最愛の弟であるランスロット・キアラリー。これからも我がガルバン王国を支えること。そしてここにいるエメリーン・キアラリーを生涯愛し、守り抜くことを、神ではなく、兄であり、このガルバン王国の次代の王である私に誓え!」


「敬愛する兄に、生涯の忠誠を、最愛の妻エメリーンに生涯の愛を誓います。二度と先のような失態は犯さぬとお約束します」


「我が妹エメリーン・キアラリー。ランスロットへの生涯の愛と、夫と共にキアラリー領の発展に尽くすことを兄であり、王である私に誓え!」


「ランスロット様を生涯愛し、キアラリー領の優しい領民の皆様を愛し、ここで力を合わせて生きていくことを敬愛する兄上様と、ここに集まって下さった皆様に誓います」


「この婚姻は王命。そして、今、二人は愛で結ばれた!この婚姻に異議のあるもの、今すぐ申し出よ!」

「「「「「異議なし!」」」」」


「二人は()()()夫婦であることをここに王自ら宣言する。これ以降、キアラリー夫妻に手を出すものは、この私に剣を向けたことと同じことであると言いそえる」


 わあああああ!!!!!

 歓声が沸き起こる。ケイン様に促され、ランス様と二人後ろに向き直すと、老いも若きも全ての人が拍手し、泣き笑い、喜んでくれていた。


 ケイン様がそっと後ろからランス様に囁く。

「ランスロット、お前が掴み取った幸せだ」


 その通りだ。死神と呼ばれたランス様は領民皆に慕われて愛されている!涙が浮かびそうになり、慌てて瞬きして押し留め、思わずブーケをグッと握り込む。









 ふと、天からヒラヒラと花びらが落ちてきた。桜?まさか?思わず空を仰ぐ。


 可愛らしく、それでいて荘厳な、この世ならざる声が大勢重なり合い天空より降り注ぐ。


 《〈祝福〉に打ち勝った者たちに、永遠の幸せを》



 猛烈な花吹雪が巻き起こり、ラックが、レッドが、ラフが、それ以外のまだ見たことのない守護精霊が大勢現れふわふわと舞い、私とランス様の頰に次々とキスをする。見えているの、私だけ?いいえ、皆あっけに取られている。皆見えている!


「精霊か……」

 後ろでケイン様が呟いた。


『エム、おめでと!』

「ラック!!!」

『エム、ランスを……よろしく』

「レッド!!!」

『エムちゃん、キレーイ!』

「ラフ……」


 唐突に出てきた精霊たちはキアラリー領内全てに花びらを振りまいて、すうっと陽光の中に溶けるように消えた。


 色とりどりの花びらを頭に肩に載せ、たった今、精霊たちのいた空間を茫然と見つめるランス様……


「今のは一体……」

「ランス様……」


「〈祝福〉に……打ち勝ったと、言ったか?」

「……はい!」


「っ!エム……」

 ランス様はグイと私を引き寄せかき抱き、目を涙で潤ませ、上から覆い被さるように、キスをした。


 ドオーーンと大歓声に包まれた。






 ◇◇◇






 東の辺境の地、キアラリー


 死神が守護し、精霊が彩る、平凡で小さな、運命の乙女の住む楽園。







本編完結です。

番外編が一話続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夫婦水入らずじゃなくて省略してた結婚式の支度だったのね^^; しっかしまあおそらくこの世界では最上級の祝福に包まれての式ですな。 ここまでされたら、もうおかしな干渉もなく幸せな生涯となるでし…
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