33 Douglas ⑧
「オリバー!戯れが過ぎる!」
王が王太子を叱責する。しかし王太子は微笑んだまま。
「戯れではありませんので御心配なく。そもそも父王が判断を間違ったゆえにこんな混乱を引き起こした。初めから、エメリーン嬢を私の婚約者にしておけば、コンラッドのように隙も作らず、エメリーン嬢を大事に大事に囲い、王家はますます繁栄するはずだったのです」
そこにエメリーンの意思など、どこにもない。
「たらればを言っても仕方ない。もう既にエメリーンはうちの嫁だ。王太子殿下、くだらぬことを言って我々の忠誠心を削がないでくれ」
公爵閣下が何の熱も感じない声で忠告する。
「悪いけど、君らの忠誠心などいかほどのものか?〈運〉に比べればどうってことない!」
「オリバー!!!」
「何ですか?父王であるあなたもどれだけエメリーン嬢が価値があるか、わかっていたから囲い込んだんでしょう?可笑しいと思ったのだ。何故たかが伯爵令嬢に、王であるあなたが度々謁見し、幼い彼女の手を握りしめていたのか。彼女の〈運〉に少しでもあやかりたかったのでしょう?ふふふ、私も全く一緒です!」
「小僧!!!」
公爵閣下がクワッと目を見開いた!
「この国の繁栄のためには仕方ないよね、貴族とは、そういうものだ。ランスロット、離婚を命ずる」
「お断り致します」
ランスは躊躇なくそう答え、冷ややかに王太子を見つめる。
「やっぱり〈運〉を手放したくないの?先程の言葉は強がりで、〈死〉を恐れているのかな?」
「〈死〉の〈祝福〉を恐れていないなどと強がりは申しません。ただ、エメリーンは私のもの。たとえ王太子殿下であっても、髪の毛一本触れさせるつもりは、ない」
「へえ、ランスロットにも執着心のようなものがあったのか。いつも何か諦めた顔をしていたものね。ますます欲しい。衛兵、我の命に背いたランスロットを捕らえよ!」
「ならん!」
王が声を荒げる。
「ランスロットとエメリーンは余の命で婚姻した。オリバー、不敬ぞ!!!」
「おやおや、ご自分のことは棚に上げて……では勝手にもらいにいくとしよう」
「オリバー!」
「そうだ、私の〈祝福〉は〈完璧〉なんだ。エメリーンを手に入れることで、私の未来の王政は〈完璧〉なものになる」
そう言うと、王太子は微笑みを残して煙のように消えた。
「いかん!ケイン、スタンに急げ!」
ケイン様はバルコニーに走り、甲高い口笛を吹いた。数秒でアラバスター家のハヤブサが飛んでくる。ケイン様は足に赤い布を括り付け、素早く飛ばす!
赤の伝令の意味は『危険!すぐに退避』
「王よ、いざとなればアラバスターは全ての要職を投げうちランスロットと共にキアラリーに引き、立て篭もり、〈完璧〉に兵と金と物を整えよう。襲い来る敵国とも手を結ぶ。ディルガーにも奴の国の軍を動かすよう伝令を出す。覚悟せよ!」
公爵が王に言い放つ。王は目を見開いて、絶句する。
「息子よ!今の王太子の術は王族固有のもので、城内の安全なポイントに退避する術だ。そこから王太子は真っ直ぐにキアラリー領に向かうだろう」
「王太子は各地に手駒を持っているから、馬を使い潰しては乗り換えて走り、最速でキアラリーについてしまうはずだ。ランス!もう行け!公爵邸の必要なものは何でも持ち出して構わない」
ケイン様が紙に細かく書き記しながらそう言った。おそらくスタンへの第二信。
「父上、兄上」
ランスはお二人に軽く頭を下げ、最後に息子の所業に未だに茫然自失状態の王に向く。
「エメリーンも私も……道具ではない。血の通った人間です」
ランスロットは小声でそう言うとくるりとむきを変え、大股でドアに向かった。俺たちも後に続いた。




