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30 Douglas ⑤

「珍しいな、エムちゃんが見送りに出ないなんて」


 日はようやく昇って、気温が上昇していくなか、俺とランスは並走して走る。前方には信頼できる部下が豆粒のようになっており、すぐ斜め後ろをロニーが守る。

 前回と同じ道を倍のスピードで駆け抜ける。


「エムは、疲れていて……まだ朝早かったからな。ちゃんと部屋で見送ってくれた」


 ロニーが一気に前に出て、ランス様の横についた。


「ランス様!ようやく本懐を遂げられたわけですね!おめでとうございます!!!道理で今日のランス様ちょっぴり浮かれてる!いやー、エムちゃん鈍感の極みだし、ランス様ヘタレだし一時はどうなるかと……グハッ!」


 ランスに横腹を蹴られ、ロニーが馬諸共ズルズルと後退していく。アホか。


 それにしても、エムちゃん……ランスの全てを受け入れてくれたんだな。傷だらけの身体も、心も。


「よかったな、ランス。エムちゃんは俺たちにとって、()()()()()だ」


 何故か、ランスの、いつもよりちょっぴり緩んでいた顔が強張った。

「……エムはエムだ。小さくて、突拍子のないことして、心の広い……俺の妻でしかない」


「そう……だけど?うん。エムちゃんはちっちゃかわいいランスの奥様だ」

「……ああ」

「おおー!ランス様から女の惚気が聞けるなんて!この道中雨降るんじゃ?」

 ランスが再び蹴ろうとするが、ちょうどいい距離をロニーは開けている。ランスを冷やかしながらも、どこかほっとした様子。こいつも間違いなくランスの幸せを願っている。


「とっとと終わらせて、早くエムちゃんの待つ、我らキアラリー領に帰ろうぜ」

「ランス様が黙ってグルリと睨みつけてたら、会議、五秒で終わりますよー!」


 ランスが穏やかに笑った。初めて見る表情で、何故か切なくなり息が止まるかと思った。




 ◇◇◇




 馬を休ませては出発する……の強行軍で、四日目で王都に到着する。それぞれ王都にある実家で一日休み、ランスの実家であるアラバスター公爵家に迎えに行く。


 案外早い時間だったのだが、俺とロニーは何故か公爵閣下の書斎に通された。

 重厚な机の向こうに、お年のせいで少し小さくなった公爵閣下がゆったりとアームに肘を置き頬杖をつき、次期公爵である、ランスの長兄ケイン様が手前のソファーに座っていらした。


 お二人とも王家の血がまごう事なく入っていることがわかる眩く輝く金髪で、俺の金髪がまがい物に見える。涼やかな緑の瞳は先の先まで見通している気がしてならない。

 ちなみに次兄のディルガー様は昨年隣国に婿入りされた。ディルガー様は俺と同い年で24、ケイン様は二つ上だから26歳だ。公爵夫人は俺が出入りする時には既に亡くなられていた。俺が知るのは既に男子が三人いると言って閣下は再婚しなかったことだけ。


 ケイン様は武の名門アラバスター家にありながら、華奢な骨格でランスより頭一つ小さく、全く武芸の才能がない。そのかわり、恐ろしいほど頭が切れる。ケイン様は血の繋がらない弟を、俺の代わりに軍人になってくれて助かったといい、次兄のディルガー様とともに可愛がっている。自分たちの末っ子ランスの地盤が固まるまでは結婚もしないし爵位も継がない、動きにくいから、と堂々とおっしゃる。養子であるランスの立場を気にかけてらっしゃるのだろう。


「お久しぶりでございます」

 俺とロニーは膝をつく。

「堅苦しいのは無しだよ、ダグラス。ロニー、先日は父君ラドクリフ侯爵にお世話になった」

 ケイン様が俺たちに座るように指示する。

「ランス様は?」

「ランスには君たちがもう着いていること、まだ言ってない。聞きたいこと聞いた後じゃなきゃね」

 ケイン様が優雅に笑った。


「昨夜、ランス自身からあれこれ聞いた。もちろんスタンからも逐次報告はある」

 机の向こうから閣下が声をかけてくださった。

「閣下!スタンじいよこすなんてあんまりです!」

「くくっ、ダグラス、スタンが邪魔ならば、とっととまともにあっちの屋敷を運営しろ!さすればスタンは自分から出て行くさ」


 閣下はお茶目にウインクをした。

「さあ、ではランスの嫁について、報告せよ」


 あっちの屋敷での話はスタンによって筒抜けだろうから、領地に向かう旅の様子を二人に語る。

「子供服を買って男乗り……バルト伯は極めて真面目な人柄なんだが、面白い娘に育てたな」

「ランスがずっと、壊れ物みたいに抱いてるって?うわー見てみたかったなあ?」


「で、ダグラス、エメリーン嬢の人となり、どう思う」

「とにかく、王子の婚約者として深窓の令嬢だっただけに、善良そのものです。ですが、あのような婚約破棄をくらってますので……心に傷があることは確かで……だからこそ人の痛みがわかる人物かと」


「ロニー、君は?」

「私もダグラスに同意です。私としては心も体もすり減らしたランスロット様を幸せにしてくれるだけで天使と思ってます。当初ランスロット様が騙されているのか?とも疑いましたが、金も使わず自分で稼ぐ有様で、いずれ傷モノの自分は追い出されると思ってる節があるので、必死に皆で繋ぎとめようと努力しているところです」


「傷のあるもの同士、二人して傷を舐め合ってるの?」

 ケイン様が眉間にシワを寄せる。

「いえ、お二人とも、新しい領地に根を下ろそうと、前向きに働いておられます」


「ふーん……そんなに心酔している女性を一人、武器屋に行かせて弓と剣を護身用に買わせたらしいね?お前達。呆れてものも言えない」

「面目次第も……ありません」


「……父上?」

「ふむ、もう良い。どうやらランスの言うように()()()嫁のようだ。これでもしランスが騙されているのであればあれの自己責任だな。それはそうと、うちの嫁は料理が上手いと聞いたが……」


 バターン!


 重い扉が観音開きに開いた。タイムアップだ。

「父上!兄上!私のいないところで何をコソコソと……」


「ふふ、ランスロットとエメリーンがいかにラブラブか、ロニーに聞いていたとこだよ?」

「ロニーーー!」

「ケイン様!私をあっさり売ったーー!」


「父上!エムの料理って何だ?」

「ん?スタンは二日に一回はエメリーンの料理を食べていると報告があったぞ?スタンの胃袋を掴むとは、ランスの嫁、なかなかの策士だな!」

「私は食べていない!スーターンー!」


 ランスがガックリと膝をついた。

 そこに戦鬼と呼ばれる将軍の面影はなかった……


「まあよい。ランスロット、今日は俺もケインも当然登城し同じ広間にいるが……嫌な予感がする」

 百戦錬磨の公爵閣下の勘、バカになど出来ない。


()()()嫁の噂は今もって王都では面白おかしく語られていて……ランスとの結婚も退屈な貴族の恰好の的だ。その退屈な貴族の筆頭が第二王子とその取り巻き。ランスロット、くれぐれも挑発に乗るなよ?そうだ、ランスは時間ギリギリに入れ。その方が付け入る隙を与えない。いい子ぶって早めになど行く必要はない。ランスほどこの国に貢献した人間などどこにもいない」

「はい、兄上」

 先程までの雰囲気と打って変わり、神妙な表情で父と兄を見つめるランス。二人の言葉に嘘やごまかしは一切ないから。

「会議の後の懇親会も陛下に挨拶したらとっとと帰れ。辺境伯に社交は不要だ」


「……とりあえずバルト伯は俺が守る。安心しろ」

「ありがとうございます、父上」


 俺とロニーも主人とともに、強烈な守護者であるお二人に頭を下げた。





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