27 lucky?
その日の夕方、ランス様たちが戻られた。
「皆様、おかえりなさいませ!」
「エム、近寄るな!煤と灰だらけだ!」
随分と不機嫌なようだ。二階に一気に駆け上がる。この母屋で寝起きしているダグラス様と、私の直属上司ロニー様もヨロヨロとご自分の部屋に向かわれた。
「山火事、手強かったのかしら」
「自然相手はいつもと勝手が違うでしょうな。空気が乾燥しておりますしね……まあでもご無事で戻られて何より。ランス様は食べて酒を飲めば元気になりますよ!」
スタンさんはそう言い残して、食堂に歩いていった。私もその後を追い厨房へ。
「旦那様が戻られたのか?」
「はい、でもとってもお疲れのご様子で。夕食は胃に優しいものがいいんじゃないかと思うんだけど」
「エム、大きな間違いだ。お疲れだからこそ、男はドッカリモッタリだ!」
ニルスさんがきっぱりはっきり言い切った。
「エムー!どこだー!」
ランス様のハスキーな声が二階から響き渡る。
「厨房でーす」
◇◇◇
お風呂に入り、サッパリされた御三方は馬のように食べる。そうか、まだ三人とも20代前半だもんね。ニルスさんが次々焼く肉を私はどんどんダイニングに運ぶ。
いつも丸いまま出すパンは薄くスライスしてチーズを乗っけてコショウを振ってこんがり焼いた。
「エムちゃん、なんで今日のパン薄いの?」
と、ちょっとお腹が落ち着いたダグラス様が、私に聞く。
「主食というよりおつまみです。今日はお酒を飲まれると聞いたので。本当はナッツを上に載せたかったんですが……今度どこに生えてるかブラウンさんに聞いてみよう」
「エム様、森に拾いに行かなくてもナッツなら雑貨店に売ってますよ」
「そういえばそうね、ワイアット様」
目を合わせてニコっと笑った。
「随分とワイアットと仲良くなったな……」
ランス様が何故か下から睨みつける。
「はい、ここ数日大変お世話になりました。あとスタンさんにも!」
「スタンと同列なのか?ならば問題ないのか?」
「ランス様、全く問題ありませんので。強いて言えば大事な末の妹です。というか、ランス様頑張って!私が気がついた問題点、明日にでもご報告致しますので」
「なんかあったの?」
ロニー様がグラスを片手に首を傾げる。
「御夫婦間の壮大な認識のズレが、明らかに……」
「くそう、やはり!」
ランス様がドンとテーブルを叩く!
「今更な気がするけどな?」
ダグラス様がモゴモゴと呟く。
「あの、あの?何の話ですの?」
一緒のテーブルで私だけ会話外すのはマナー違反と思う。
「さあさあ、皆さま、とっておきの赤を開けましたよ!」
スタンさんが皆様のグラスにワインをなみなみと注いだ。
◇◇◇
ランス様は酔い潰れた。意外だった。まあロニー様も潰れてたけど。
ワイアット様に運ばれて、ベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
「エム……いるか……」
「はーい」
ベッドに腰をかける。
「疲れた……」
「あまり眠れなかったのですか?」
「一睡もしていない!みんなして英雄英雄言いやがって……山火事相手に英雄もクソもあるか!」
「ランス様、新米の領主様として、頑張ってこられたんですね。そりゃあお疲れになります!上手く演じきりましたか?」
「エメリーン……ハハ、ああ、頑張ったな。多分」
「お疲れ様でした」
私はごそごそとベッドに乗り上げ、どかっとランス様の腰に跨った。
「エ、エメリーン?」
「私、新米の領主の妻として、疲れた夫をマッサージして差し上げます」
私はランス様の背中をそっとさすり……
「ひっ!」
背骨のすぐ脇の、凝り固まっている場所を見つけて、両親指を目一杯押し込んだ!
「ぐわっ!」
「痛気持ちいですか?」
「はっ、これは、痛気持ちいのか?ひっ!」
コリが取れるまでゴリゴリと両親指を回す。
「えむ、えむ、何で普通は非力な癖に!こんな強く押せる⁉︎」
「ツボとコツです!」
前世の技である!
「ぐえっ!」
コリを見つけてはほぐし、を繰り返し、背中の張りがなくなったなあ……と思って、ランス様の顔を覗くと、すぅーっと寝息をたてていた。
顔にかかった紅い髪を後ろに撫で付ける。
「期待を一身に受けて……休まる暇もないのね」
『今は雑念なく熟睡してるぞ?』
レッドがぴょこんと飛び出した。
「レッドもお疲れ様。きっと鎮火にそっと協力してくれたんでしょ?一緒にゆっくり休んで?」
『精霊に疲れを労うなど……エムは変なやつだな』
『エムー!エムに付き合う私の方が疲れてるしー!』
「えー!どしてよ!」
私は明かりを小さくして、久々に狭くなったベッドの端に滑り込んだ。
「ラック!レッド!おやすみ」
『……おやすみ』
『エムー、また明日ねー!』
「ランス様、おやすみなさい」
◇◇◇
「うわーーーーあ!」
奇声に飛び起きると、ランス様が頭を抱えている!
「ら、ランス様!いかがされました?」
「夜が明けてるーー!何のために昨日のうちに帰りついたとー!」
「?」
「酔い潰れるとか、不覚!俺は何やってんだ……」
「ら、ランス様、おはようございます?」
何故か、英雄が打ちのめされている!
自然災害……恐るべし!!!
『エムとの夜……楽しみにしてたの?』
『それだけをご褒美に頑張ってたな……』
『英雄哀れ……』
朝日がさんさんと窓から差し込むいい一日の始まりなのに、ランス様はどんよりされている。二日酔いだ。
精霊二人がランス様を痛ましそうに眺めていた。




