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20 lucky?

 夢の中で、まさかの守護精霊との遭遇……


「……どうして姿を現してくれたの?」

『この世界の人間はね、守護精霊って存在を知らないの。知らないものを呼ぶことなんてないできない、想像もできない。でもエムは知ってる。だから嬉しかった。退屈だしね。でもエムの心が安定して、長く熟睡してくれなきゃチャンスなかったの』


 ここのところ、安眠できなかったから……ランス様が戻られ落ち着いた今日なのか……。


「えっと……なんとお呼びすれば?」

『名前?呼ばれることなかったからそんな発想なかったなあ……。何か前世の知識でつけてみてよ」

 むちゃぶりだわ……前世から決してセンスのいい方ではないのに……。

 でも、想いを込めて、

「ラック、と呼んでもいいかしら」

『……前の世界で幸運って意味ね!エムの必死さが伝わるわ!ははは!いいわよ!』

 気に入ってくださったようだ。セーフ。


「えっとあの……ラックの……その気質は私にどういう影響を及ぼすの?」

『さあてね。私は他の精霊よりも運命の振り幅は大きいけれど、運なんて、所詮そんなものでしょう?良いことのあとには悪いことがある』


 人間万事塞翁が馬……か。

 うん確かに、私の『振り幅』大きいよね……。前世から激動の人生送ってるわ……そもそも転生っていうのが破天荒……。


『エムの人生に賛同したら、ちょっとオマケつけるくらいはできるけどね』

 それってとっても大きいんじゃないの?


「じゃ、じゃあ、私がとっても善行を施したら、幸運授けてくれるのですか?」

『急にグイグイきたね、ちょこっとだけよ?』

「それ、譲渡できる?」

『なにそれ、せっかくの私の幸運を他人に渡すっての?バカにしてるの?』

 ラックの纏う空気が一気に不穏になる。


「バカになどしてない!気を悪くしたなら謝ります!ただ、ランス様の〈祝福〉を少しでも弱くできればって……」

『……あーそういうこと、ちょっと呼んで聞いてみる?』

「は?」

『だからエムのダーリンの根暗な精霊?』

 根暗?

「できるの?」

『できるも何もこんだけピットリくっついてりゃ、ここにいるよ。ねえちょっと!エムが会いたいって!』

 ピットリ?


 ラックの横に光が集約され、弾けた!するとそこにやはり手のひらサイズの真っ赤な髪を逆立てた金の瞳の少年っぽい妖精?が現れて、私をギロリと睨んでいる。なんだかその表情、とっても馴染み深い。


「なんだか……ランス様に似てる。髪の毛も表情も」

『守護精霊の髪は守護する人間にもらうから、そりゃあ一緒だよ。表情は付き合い長いと似ちゃうんじゃない?』


 髪の毛をもらう?〈祝福の儀〉で髪の毛を使うからかしら?


「あの、ランス様の精霊さん、〈死〉ってどういうことですか?〈死〉が身近にあるってこと?〈死〉が近いってこと?……〈死〉を呼びやすいってこと、ですか?」


 ランスの精霊は手のひらを突き出し私を吹き飛ばした!

 胸に直撃し、息ができない!夢なのに。

「ゴホッゴホゴホゴホ……」

『ちょっと!うちの子に何すんのよ!まだ熱あんだから!』


『……エメリーン、お前が言ったんだ。〈死〉など平凡だと。その言葉をランスロットは心に刻んでいる。〈死〉は全ての人間の身近にあるものだ。当然だろう?』

「はあ……はあ……はい」


『俺がいるせいで、人よりも〈死〉を意識せざるをえないだろうが、早死にするのか、人殺しになるのか、それはランスロットの生き様だ。必ずしも長生きが()()()訳ではない』

「おっしゃる通りです。でも、人はどうしても〈死〉と言われると怯えてしまいます」

『エメリーンはさして怯えてないだろう?』

「怯えていますとも!」

 今世の誰よりも!!

 前世、絶命するとき、あまりの痛みに悶絶した。自分がユージ先生の傷になることに激しく失望した。


『……ならば、良い死に方をするように励むことだ』

「私が励めば、ランス様も良い死に方ができるように、ラックにオマケしてもらってもいいですか?」

『お前の()を、ランスロットに使うのか?』

 ランス様の精霊が怪訝な顔をする。


『エム、お人好しー!自分だって散々辛い目にあってるくせにーい』

 私は思わず苦笑した。

「前世を思い出しちゃったら……色々吹っ切れたのです。ここからの人生ごと私にとってオマケみたいなもの。こうしてラックにも、ランス様のカッコいい精霊にも会えましたし」


 とにかく私が真っ当な生き方をして、少しだけでもランス様の心を軽くしてもらおう!

 そもそも曲がった生き方などするつもりもない。出来もしない。

 私はもうこの世界で悪役令嬢としての役目を終えた。これからはこれまで苦労されてきたランス様の心の痛みを軽くするために生きることこそ、生きがい、私の役目だ。


『俺にも……』

 ボソリと真っ赤な髪の精霊様が呟いた。

「はい?」

『俺にも名をつけてくれ』


 私を睨みつける金の目。真剣だ。

 ラックのように〈祝福〉を捻ったものにするわけにはいかない。口に出来ない。では……


「レッドでどうですか?」

『……ランスロットの色か……エムはランスが好きなんだな』


「もちろん尊敬しています」

 私は自信を持って親指を立てた。

『ふん、自覚なしか。いや、怯えているのか?再び愛することを……』

『既に夫婦なんだから、そのうちどうにかなるって!』

 ラックが私の肩でぴょんぴょんジャンプする。


 そういえば、コミックのヒロイン……セルビアだっけ?彼女も守護精霊と会ったのかしら……

 ラックとレッドの会話がだんだん遠くなる…………




 ◇◇◇




 非常に中身の濃い夢を見てしまった……と思いながら、目を開けた。


 窓から射す光は赤く、夕暮れ時のようだ。

 ベッドの上で、胸の下に大きな腕が回されていて、ランス様に後ろから抱きかかえられて寝たのだとわかった。

 温かい。一人じゃない。


 静かに後ろを振り返ると、ランス様が寝息を立てている。

 紅い髪の人はまつげも眉毛も紅いのだと大発見した。


 そのランス様の肩の上で、紅い髪の妖精風?と黒い髪の妖精風?が何やらガチャガチャ言い争っている。



 じーっと見つめると、私の視線を感じたのか?二人がこちらに振り向いた!


「『『……あれ?』』」



「ん……エメリーン?どうかしたのか?」

「い、いえ?」

 ランス様が私の首に手をあてる。

「熱は……随分下がった。よかったな」

「はい……うっ、ゴホゴホっ……」

 起き抜けはどうしても咳が出る。

 そんな私をランス様は正面に回して抱き寄せ、フーゥと息を吐き、私の頭を撫でてくださった。

 そうされながらも、私はランス様の肩の、二人組から視線を外せない……。


「『『…………』』」






 私はラックとレッドという二人の守護精霊を、通常モードで見えるようになってしまった。










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