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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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雪解け

 長い冬が終わり、また春が訪れる季節になろうとしています。

 冬は毎年雪に覆われて、村から出る事も少なく、山の民達は冬籠りをしていました。三巳は新雪に埋まったり、雪崩でサーフィンしたりと遊びの限りを尽くしていましたが。そして時折巻き込まれる生き物達の救出もちゃんとしていました。

 そんな冬も終わりを告げて、雛祭りで作った雪の階段も最早解けて辛うじてその跡を残すのみとなりました。


 「あったかいどー」


 ポカポカ太陽を燦々と浴びる三巳が、気持ち良さそうに尻尾をフサリフサリと振っています。


 『ぬくぬくだぞ~』


 その隣でネルビーも同じく尻尾をフサリフサリと振っています。

 茶色い土が見え始めた村で、三巳とネルビーと並んで一緒にお散歩です。


 「ふわぁっふ」

 『くぁぁ~っ』


 余りの温もりに欠伸も出て来ます。


 『もう直ぐ春の芽吹きが出てくる頃か?』

 「そうだな~。今年は暖かくなるの早かったし、もう出てるセッカチな芽も有るかもなー」


 ネルビーが雪解け水で泥濘む土をカシカシ掻いて、それを見た三巳も真似して土をクリクリ弄ります。


 『何も無いな』

 「そりゃここは村の道路だしな。

 村で出るなら土が固まったこの辺より端側だから、まだまだ雪に埋まって出てこないな」

 『そうか』

 「そうだぞ」


 まったり。ポカポカ。

 暫くボーっと道の端に積まれた雪山を見つめます。


 『そうか。まだか』

 「そうだな。まだだな。

 新芽が気になるなら麓まで足伸ばすか?」


 ネルビーが耳を垂らして三巳を見上げました。

 三巳はその垂れた耳ごとネルビーの頭をわしゃわしゃ撫でて提案します。

 ネルビーはちょっと期待で鼻をピスピス動かしました。でもちょっと考えます。


 『獣の神と行き違いにならないか?』


 獣の神は三巳の母獣です。

 夏頃にサラちゃんからの伝言で、三巳に会いに来る筈でした。


 「んー冬の間待ってたけど来なかったしなー。

 父ちゃん?も一緒らしいし、もしかしたら雪が苦手な種族なのかも?」


 三巳もそれはもう楽しみに待っていましたが、全くの音沙汰がないまま冬を越してしまいました。

 三巳はお父さんの事を知りません。つい最近存在を知ったばかりです。だからきっとお父さんは冬眠する種族なんだろうと想像を膨らましていました。


 「だからまだ雪ある内は来ないと踏んでる」

 『そうか。寂しいな。早く来ると良いな!』


 三巳は平然とドヤ顔で言いますが、耳と尻尾は正直者でした。

 ソワソワ、アワアワ不規則に揺れる毛並みを見たネルビーは、三巳を励ます様にそっと鼻面を押し付けます。


 「うん」


 三巳はニパリと笑い、ネルビーと鼻をコツンこと合わせました。


 「それじゃ麓まで行ってみるかー」

 『わふぅ!どうせなら競争するか!?楽しいぞ!』

 「お?それも面白そうだな!」


 ネルビーの提案に、面白い事好きの三巳も大賛成です。

 解けた雪でビチャビチャの道を、元気にパシャパシャ駆けて行きました。

 村の出入口に着いた三巳とネルビーは“位置について用意”の姿勢を取ります。

 春の風がヒュウヒュウ吹く中、互いを意識しつつ息を整えています。そしてピタリと風が止まった瞬間、一斉に走り出しました。


 「やっふー!」

 『わうぅん!』


 山の斜面は解けた雪が流れていて、雪の川があちこちに出来上がっています。そんな滑りやすい斜面をスケートの様に滑り降りたり、途中に生える木々をお猿さんの様に伝ったりと、両者一歩も譲らぬハイスピードで駆け下りて行きます。


 『ぬぬぅっ。三巳やるな!

 流石に子供でも獣の神だけはある!』

 「何の何の~。ネルビーもワンコながらに守護獣に進化しただけあるな!

 それは強化魔法だろ?一見使ってる様に見えない位自然に使ってるの凄いな!」


 互いに技を駆使して駆け下りていると、目の前の雪がパックリと消えている場所に出ました。


 「何のー!」

 『とおっ!』


 それでも三巳もネルビーも止まりません。

 互いの技を興味深く観察し、褒めたたえながら全速力で駆け下ります。なんならスピード上げて駆け下ります。


 「むむ!?」

 『ぬぅぅ!?』


 お互いの考えている事が同じと分かったのか、目に闘志を漲らせてお互いの顔を伺いながら駆け下ります。

 つまり余所見です。余所見運転ならぬ余所見走行です。


 「てあ―――!」

 『ふんぬぅぅ!』


 雪のパックリ割れギリギリの縁を、お互いの顔を見ながら同じタイミングで大ジャンプをしました。


 「ほぶぅぅ!?」

 「きゃいいん!?」


 そしてそのままの勢いで、ボグゥ!!っと鈍く大きな音を立てて何か大きなものにぶつかってしまいました。

 コメディそのものの格好で間抜けな悲鳴を上げた三巳とネルビーは、間抜けな格好のままピクピク体を震わせています。


 『前方不注意。危険。止める』


 三巳が埋まった顔をズボリと良い音出して抜くと、上方から男の子の様な甲高いけど何処か低い声がしました。

 声の方を向くと、真っ白な丸い雪の塊に付いている黒くて小さな二つの点と目が合います。


 「おー。雪だるまの雪男だったかー。

 ゴメンなー。駆けっこに夢中で気付かんかったー」

 『ゴメンなさい』


 声の主は大きな大きな雪だるまでした。生きてる雪だるまです。モンスターです。冬眠ならぬ夏眠に向けて巣穴の準備中だったのです。

 三巳とネルビーは無防備だった雪だるまの背中に埋まる形で激突してしまっていたのでした。

 冷静になった三巳とネルビーは素直に謝ります。


 『僕。良い。でも。他。駄目。怪我だけ。済まない』

 「う゛。気を付けます。本当にゴメンなさい」


 雪だるまの雪男に男の子特有の可愛らしい声で「めっ」と叱られて、流石に三巳も土下座で反省の意を示しましたとさ。



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