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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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節分

 三巳の前世では二月最初のイベントは節分でした。

 昭和生まれの三巳もご多分に漏れず節分は良いイベントだと思っています。

 けれど山の民には「鬼は外、福は内」を浸透させていません。

 だって今の三巳は鬼さん達もみんなお友達ですからね。鬼さんは手のなる方に呼んだら一緒に遊び倒す相手です。追い出すなんて以っての他なんです。

 節分の鬼の意味で言うなら有っても良いとは思いますが、鬼に変わる物が思い付かないので保留中なのです。


 「お豆ーは大豆にピーナッツに色々ある♪

 だけど三巳は落花生が一番好きなんだよー♪」


 節分当日。

 三巳は数種類のオヤツお豆を小袋に入れて持ち歩いていました。それも沢山です。

 何をするかと言うと、


 「お、よしココなら見つけ難くてでも見つけられる場所だな」


 村の家屋横に設置されている樽裏に、小袋の一つをそっと隠しました。

 隠してる間は誰もいないのを確認済みです。

 一つを隠し終わったら次に向けて歌いながら散策します。


 「今年ーも歳の数だけ食べるんだよー♪」


 調子っ外れに歌う三巳ですが、声は抑えています。

 何故なら今はまだ夜明け前だからです。

 山の民達が起きる前に小袋を全部隠すのです。

 でも冬とはいえ早起きしない人がいない訳ではありません。


 「あ、やば」


 人の気配を察知したらサッと雪山に隠れんぼです。

 ドキドキしながら山の民が通り過ぎるのを待って、見えなくなったら散策再開です。


 「このドキドキが堪らんー♪」


 気分はミッションインポッシブルです。

 気配を消し、されとて歌は止まらずに、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。村中あちこちに小袋を隠して行きました。


 日が昇る頃には山の民達もチラホラ起き始めます。

 三巳も最後の一個を隠し終えて満足顔です。


 「よーし。後は最後の仕上げだっ」


 テッテケ軽い足取りで広場の中央までやって来て、魔法を展開して四方にスクリーンを出しました。


 「お、今年はまた沢山隠したな」

 「ふっふっふー♪

 今年は仲間が増えたからな。張り切った!

 頑張って歳の数だけ探してくれ」


 近くを通りかかった山の民に、三巳はドヤ顔で返します。

 スクリーンには三巳が隠した小袋の数と、山の民の名前がズラッと並んでいます。名前の横には0の数字も有ります。


 「こりゃ楽しみだ」


 通りがかりの山の民は、不敵な笑みを浮かべると闘志漲る足取りで去って行きました。


 陽も上がり、積もった雪が太陽光を反射して光り輝く頃、広場に山の民達が集まり始めました。

 各々スクリーンを確認しては、腕を鳴らしたり準備運動したりしています。


 「よーし!今年も豆探し開始だぞー!」


 山の民が揃った所で間髪入れずに三巳は上空に花火を打ち上げました。

 それを合図に山の民達は一斉に散り散りに駆け去ります。

 大人達は個々に、子供達はパーティを組んで駆け回っています。


 「あった!これよね?」


 開始早々に小袋を見つけたのはリリでした。

 見つけた袋をロダとミナミに見せて確認しています。


 「うん、そうだよ」

 「凄いじゃない。リリが一番乗りよ」


 ロダとミナミに褒められて、リリは嬉しそうに破顔しました。

 リリがいる場所はまだ広場から然程離れていない為、スクリーンが良く見えます。

 確認すればリリの名前の横が、数字の0から1に変わっていました。変わりに小袋の総数が1減っています。

 そう。これは豆で鬼退治出来ない変わりなのです。撒いた豆を誰が歳の数だけ拾えるかの、宝探しゲームだったのです。

 雪で出来る事の少ない冬の一大イベントでもあり、毎年中々の賑わいを見せています。

 特に大人は豆の数が多いので、みんなあの手この手で探しています。


 「くっふふー。今年は特にふかふかの新雪が積もったからな。みんな苦労している様だなー」


 ランキング用のスクリーンの真向かいには、山の民達にスポットを当てたスクリーンが有ります。

 三巳は苦戦する山の民達をしてやったり顔で頷きました。尻尾をブンブン振って楽しんでます。


 「さあーて。今年は誰が一番乗りで集めるかなー」


 三巳は落花生と大豆をポリポリしながら観戦しています。歳の数だけ食べるにはちょっと量が多いので大変です。


 「お?やっぱりロウ村長が一番速いなー」


 ロウ村長の活躍に、三巳は尻尾をワサワサ振りながら「ひゅー」っと口笛を吹きました。

 同じくスクリーンを見ていたリリ達もその驚異的なスピードに泡を食っています。

 リリの一番乗りが霞む勢いで、ロウ村長の横の数字が跳ね上がっていきます。


 「毎年毎年本当に大人げないわよね」

 「せめてもの救いは歳の数まで集まったら抜ける事だね」


 ロウ村長の人を食った様な高笑いを聞いて、ミナミもロダも苦虫を噛みました。

 リリは素直にロウ村長を尊敬の眼差しを向けています。

 

 「っと。そんな事に気を取られてる場合じゃないわよ」

 「だね。せめて他の大人達には勝ちたいしね」

 「うんっ。頑張ろう!」


 ミナミの一言にハッとしたリリとロダは、直ぐ様気を取り直して駆け出しました。

 

 「ちょっと三巳ーっ、この遊びはオイラには不利ってモンだよ」

 『そうだモー。草の方が良いモー』

 

 消えたリリ達に代わって橙の妖精とタウろんが戻って来ました。

 手には小袋が握られています。


 「三巳達は長生きさんだからなー。全部集めたら日が暮れちゃうもんなー」


 だからこそ一番参加しそうな三巳が不参加でもあるのですが。

 橙の妖精とタウろんも途中で脱落して観戦に回りました。

 スクリーンでは大人達が大人気ないデッドヒートを繰り広げています。子供達も大人に負けない様に力を合わせて大人の目を掻い潜っていきます。それを横目に高笑いしながら小袋を見つけていくロウ村長に、流石に橙の妖精が「うわー……」と何とも言えない顔をしました。

  

 賑わいを見せたこの年の節分も結局ロウ村長の一番乗りで終わりを迎えました。

 けれど山の民達はイベントそのものを楽しんでいたので、みんなお豆をポリポリしながら隠し場所を語らい良い福笑いで幕を閉じたのでした。

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