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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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食欲の秋

 「あーきは収穫の秋ー♪

 昨日は秋刀魚の蒲焼きー♪でも秋刀魚大きいから切り身なんだよー♪

 一昨日は大学芋ー♪胡麻のアクセントが良い感じー♪

 果物ーも美味しいんだよー♪リンゴシャリシャリ蜜が旨ー♪」


 今日も元気な三巳が真っ赤に彩る雑木林を軽快に歩いています。

 時折当たる秋の日差しに目を細めながら、どうしても調子が外れる歌を全く意に介さず歌っています。

 足元には落ち始めた落ち葉がフカフカのジュータンを作り上げ、三巳の足場を優しく迎えます。


 「およ?この匂いは!」


 鼻腔をくすぐる香りが三巳の耳をピンと立たせました。

 歌も中断して匂いの元を辿ると、とある枯れ木からピョコンと生える黄色い傘を見つけました。


 「エノキタケ!やった!今日は鍋だ!

 あ、でもパスタも捨てがたい……。でもロキ医師のトコだとパスタ無いんだよなー」


 他の家に作って貰おうか思案する三巳は、ジュルリとヨダレを垂らしながらエノキタケを次々採っていきます。


 「いやいや、秋は食欲の秋と言う!なら両方食べても良いよな?うん良いよ!」


 ピカリと閃いた三巳はエノキタケを持って早速村に戻りました。

 村の穀物屋に行くと、パスタを作る為にデュラム小麦を受け取り診療所に帰ってきました。

 そして早速スパゲティの麺を作りました。

 夕方になると鍋も用意して中には次々と秋の味覚を入れていきます。

 リリとロキ医師が帰ってくる頃には作り終わり、みんなで囲んで美味しく頂きました。


 「ふわ~っ、宝箱みたいに素敵な鍋ね!」

 『キャベツ!おれキャベツ食べたい!』

 「ほっほっほ、これは嬉しいのう。

 ありがとう、早速頂きます」


 其々好きな物を摘んでお口に入れると、熱いのかハフハフしながら食べました。

 ネルビーがただの犬だった頃には食べれなかった人間の食べ物も、守護獣となった今では普通に食べれる様になっています。人間の食べ物の味わい深さの虜になったネルビーは、犬一倍沢山食べています。

 みんなが沢山食べたので、あっという間にお鍋は空になりました。

 キノコスパゲティもありますが、和風に仕上げたのでこちらもあっさり完食しています。


 「こんなに美味しくてつい食べ過ぎちゃうから太っちゃうわね」


 お年頃のリリは美味しいの誘惑に負けて、お腹周りのお肉を心配しています。

 三巳は二マリと笑うとそっと後ろからリリのお腹を摘みました。


 「きゃあ!?」


 ビックリしたリリが、思わず上から抑えます。

 尚もモミモミお肉を調べる三巳は、初めて会った頃のリリを思い出して感慨深くなりました。

 いっぱい食べて遊んで寝て。今では普通に少女らしいふくよかさに包まれています。


 「ははっ。うん。そうだな、今のリリは平均的だぞ?

 三巳的にはもう少しふくよかでも良い位だ」

 『そうだな!昔はもう少しフニフニだったぞ?』


 三巳が嬉しそうにはにかんで後ろから抱きしめたら、ネルビーもリリの足に顎を乗せて追付いしました。


 「ええ?そうだったかしら。覚えてないわ(そんな事無い……わよね?)

 でもそうか~、まだもう少し食べても平気よね」


 昔の自分を思い浮かべたリリは、そういえばあの頃は今より食べていたと思い出します。

 その時のお肉事情を……リリは思い出せなかった事にしました。


 「おうっ、もっとたんと食え」


 リリの誤魔化した乙女心を知らない三巳は、ニッカリ笑顔でバサリと尻尾を振りました。

 それより問題は三巳の言葉に目を輝かせたネルビーでした。


 『良いのか!?おれもっと肉食べたい!』

 「「ネルビーは食べ過ぎ」」

 「きゃいん!」


 和やかに微笑み合う二人でしたが、一匹でエンゲル係数を上げてくるネルビーに、声を揃えてダメ出しをしました。

 幸せ過ぎて食欲が溢れて止まらないネルビーは、お外にお散歩する度にいろんな人からオヤツを貰っているのを二人はちゃんと知っているのです。さらにお家でもご飯をしっかり食べるネルビーに、それこそお腹の膨らみを心配し始めているところでした。

 心配する二人にお預けを食らったネルビーは、哀しみのあまり鳴き声を上げるのでした。






 「……乙女の会話は入り辛いのう……」


 テーブルの隅ではお茶を啜りつつボヤくロキ医師が、普段より一回り身体を小さくして大人しくしていました。


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