「ただいま」と「おかえり」
二頭加わって、地獄谷での観光旅行も楽しんだ三巳達は、村に帰って来ました。
行きはワクワクでいっぱいだった思いも、帰りは楽しかった分終わってしまう事が寂しくて、殊更お話を弾ませていました。
あれが楽しかった、コレが楽しかった。楽しいはそれぞれあって、話している間は思い出して楽しさが蘇りましたが、それも家に着いたらお終いです。
熊五郎は出会った場所で別れて森に帰ってしまいました。実は森の動物界ではリリを見守る会が発足されていて、今回の同行も熾烈な争奪戦を勝ち取って来たのです。帰ってみんなに報告するんだと言ってお別れしました。
村に着いたら更に終わった感が募ります。
物寂しい思いを抱きつつ、ロウ村長のお家に向かいます。ネルビーとタウろんと橙の妖精を山の民に迎える許可を取らねばなりません。特にモンスターであるタウろんは、流石に勝手に人間の村に住めません。何せ本来ミノタウロスは怖いモンスターなのですから。
「お前達は旅行に行っただけではなかったか?
仲間を増やすのは冒険だろう」
ロダが事情を説明すると、ロウ村長は呆れて苦笑を漏らしました。
タウろんを見ると「ふうむ」と為人、ではなくモンスターなりを図ります。長年の経験と勘から、タウろんの気配が草しか生えていない事を悟りました。悟りましたが意味がわからず一瞬真顔で黄昏ました。そして両眼を指で揉んで改めてタウろんを見ます。
やっぱり気配が草でした。
それも鬱蒼と茂る物では無く、何故か子供が描く草原の絵の様な気配です。しかもキャベツやらほうれん草やらまで見えてきます。
ロウ村長はウンウン頷くと濁った魚の目で理解する事を諦めました。
「まあ、脅威は無い様だし、構わんだろう。
他の民の了承は得なくてはならんし、野菜が欲しくば何らかの仕事はして貰う事になるがな」
ロウ村長の言葉にリリとロダが声を上げて喜びます。
タウろんに通訳すると、タウろんも
『頑張るモー。力仕事なら任せるモー』
と力瘤を作って喜びました。
「問題は住処だな。
今日のところはワシの家に泊まると良い。
明日以降はみんなと相談してからだな」
流石にみんな纏めてロキ医師の家に厄介になる訳にもいきません。沢山あるお部屋の殆どは患者さんの為のものです。
リリはロキ医師が娘、ないしは孫として迎え入れる気満々なので、その家族のネルビーは一緒です。
『モー。草が食べれれば何処でも良いモー』
「……。そうだな、先ずは畑の草は勝手に食べれない事から教えないとな」
涎を垂らして体を揺するタウろんに、最悪の事態を想定した三巳が警戒を示す様に尻尾を上げました。
三巳がタウろんに簡単に説明している間に、リリ達は地獄谷での事も報告を終えていました。
サラちゃんが戻っているなら挨拶にいかねばなりません。ロウ村長は神妙に頷きました。
ロウ村長にタウろんと橙の妖精を預けて、ロダも家に帰る為に別れて、賑やかだったのが一気に静かになってしまいました。
「ああ、今日が終わってしまうのね。楽しいはあっという間だわ」
しょんもり項垂れて、軽くなったリュックを揺らしました。
落ち込むのはそれだけ楽しかった事の証です。
三巳は自分の立てた企画が大成功を収めたと確信してニンマリ笑顔です。しかも最後は予期せず報告する前にネルビーがやって来たので、サプライズは予想以上の大成功を収めたと言っても過言ではないとほくそ笑んでいます。
「そうだな。今日の楽しいは後は思い出の中だ。
でもこれからの楽しいは無限大に作っていける。
ネルビーもいるし、次は泊まりがけの旅行も良いかもな♪」
夜空に浮かぶまん丸お月様を背景に、三巳は両手を広げて沢山を体で表現します。
その姿が本当に楽しそうで、リリも寂しいけれど、次があるのが楽しみになってきました。
ニッコリ笑顔で三巳に抱きつきます。
「帰ったらロキ医師に思い出話いっぱいしたいな」
「そうだな。新しい家族も紹介しなきゃだしな」
「家族……。良いのかな。私、新しい家族を求めて……」
失ったと思っていた家族が、ネルビーだけでも戻って来ました。
失う事が怖かったリリに、ネルビーという勇気が伴って、一歩前進する気持ちを湧き上がらせました。
リリに寄り添って首を傾げるネルビーの頭を撫でて、ポッカリと開いていた心の穴が埋まっていくのを温かい気持ちで感じます。
「ははっ。ロキ医師はもう随分前から家族だと思っているよ。
後はリリが思うだけで良いんだ」
その、優しい空気に、リリは泣きそうになって、でも堪えて笑って、笑った事で結局涙が溢れました。
そんなこんなで診療所に帰って来た三巳とリリ。そして今日からはネルビーも。
みんなで一斉に、
「「ただいま!」」
と元気にお家に入って行きました。
中に入るとロキ医師がホケホケ笑って、
「おかえり」
と迎えてくれて、何だかその全てが、リリはとっても愛おしく感じるのでした。




