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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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三巳の恐怖と開き直り

 三巳を震源地とした局地的地震は、静かに、緩やかに波状に広がっています。

 そうと言われなければ気付かない様な震度ではあれど、三巳の震えは第三者から見ても明らかなものです。

 密着しているリリは勿論、隣にいるロダの耳にも、三巳の「あわあわ」する声が聞こえています。


 「結局くるのか!?ていうか父ちゃん存在したのか!?会いたいけど説教もこあい!」


 涙目の三巳は恐慌状態で悲鳴を上げます。

 リリはどうにかして落ち着かせようとしきりに背中をポンポン叩きます。


 「よくわからないのだけど、もし三巳のお母様が怒っていたとしても、私頑張って三巳がとっても良い子だって説明するわ。

 それでもダメなら一緒に怒られるから、だから一人で怖がらないで?」

 「あぅあぅぅ」


 揺れる瞳でリリを見上げる三巳は、自分よりうんと年下の女の子が、自身の方が大変なのに慰めてくれる優しさに、「大人としてこれはいかん。如何ともし難い」と自分を奮い立たせます。


 「だい、大丈夫っ。流石にっ、山は生き物の数が多いしっ、天変地異まで起こしたりはしないっ!筈。多分。そうだと良いなー……」


 自棄っぱちな笑顔で鼓舞しますが、最後は自信なさげに尻すぼみになってしまっています。

 とは言え、久し振りに母獣に会いたいのも事実です。ここは一つ覚悟を決めて迎えようと、腹を決めました。何より存在そのものを知らなかった父親も、とっても気になって仕方が有りませんでした。


 「よし!」


 三巳は自身の顔を挟む様にパチンと叩くと、清々しく気分を変えました。


 「今来てない事は今クヨクヨしてたってしょーもない。

 今日は楽しい観光旅行なんだ。最後まで楽しんでこー!」


 要は三巳は開き直ったのです。

 にゃはにゃは自棄っぱちに笑い飛ばしてリュックから玉子を二つ取り出しました。


 「ジッとしてても日が暮れるだけだし、せっかく来たんだ温泉卵作ろう!」

 『モー!ご飯モー!草食べたいモー!』

 「グルゥォォ!」


 三巳に乗ってきたのはタウろんと熊五郎です。

 実は何とも立ち入り辛いシリアス展開に、体育座り(熊五郎はテディベア座り)で視線だけ追いながら待機していたのです。

 やっと動けるとばかりに両前脚を天高く上げて喜びます。

 熊五郎なんて鳴き声なのか腹の虫なのかわからない声をあげています。


 「三巳は凄いな~」

 「三巳ってば自分の事は余り深く考えないだけだと思うよ」


 尊敬の眼差しで感じ入るリリの手を握り、軽い笑い声を上げながらロダは言います。その繋がった手をネルビーが鼻面押し付けて匂いを嗅いで来たので、ロダは頭を撫でて三巳の後に着いて行く様に促します。


 『ふんふん。なんだか落ち着く匂いだ。リリの新しい友達か?ならおれとも友達だな!』


 歩きながらも熱心に匂いを嗅いでペロリと舐めるネルビーが、繋がった手を頭に乗せる様に割り込みました。


 「ふはっ、人懐こい犬だね。あ、守護獣だっけ。

 何か話してる気がするけど、ごめんね、僕には言葉が通じないみたいだ」


 ロダが申し訳なさ気に眉尻下げてネルビーの首筋を撫でます。

 その言葉にネルビーは口をアングリと開けて呆然とします。


 『わうん!?おれの言葉わかる様になったんじゃないのか!?』


 折角お話出来ると思っていたのに、出来てない事実にショックを隠せません。リリとロダを交互に見て必死に「わんわん」話をします。


 「ふふふ、守護獣って言っても色々いるのよ。万人に言葉が通じる子から、守護する相手にしか言葉が通じない子まで」

 『そうか、じゃあ人間はリリとしかお喋り出来ないのか』

 「そんな事はないぞー。ネルビーは動物から守護獣に進化してる。三巳の知る限りじゃ前例がないんだ。

 しかもネルビーの進化はまだ発展途上っぽいから、これからどうなるかわからないぞ」


 リリに言われて素直にしょんもり諦めたネルビーに、話が聞こえてた三巳が寄ってきました。両手の玉子はもうありません。既に籠に入れて熱々の温泉の中です。

 ネルビーはこれで終わりでは無いと知って嬉しそうに舌を垂らします。呼吸も「へっへ」と楽し気です。そして尻尾を振りまいて飛び跳ねました。 


 『そうか!みんなとお喋り出来る様に頑張る!

 獣の神も後から来てくれるしな!』


 尻尾を振りまいて踊るよ様に飛び跳ねるネルビーに、リリも「頑張って!」と声援を送ります。

 それを微笑ましく眺めながら三巳も尻尾を振っています。けれど懸念も少しあるようで、どうしたものかと空を仰ぎました。


 「うーにゅ、神族に挟まれて変な風に変質しないと良いけど」

 『それは獣神様も重々承知していらっしゃるでしょうし、大丈夫だと思いますよ』

 「それもそうだな。母ちゃんなら大丈夫か」


 サラちゃんに言われて母獣の事を思い出した三巳は、ケロッとして笑い飛ばしました。

 なんの憂いも感じなくなった三巳は、リリとロダの背を押して村のみんなの分まで温泉卵作りに没頭するのでした。



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