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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
72/372

観光プランA

 小鳥の囀る山道を、三巳達一行は熊の熊五郎に乗って進みます。

 熊五郎たっての希望で先頭はリリです。

 その後ろに本当は三巳を乗せたかった様ですが、残念な事に尻尾が後ろを占領してしまうので出来ませんでした。

 そんな訳で真ん中はロダです。

 熊五郎は三人乗せても力強い足取りで進んで行きます。


 「モフモフな乗り心地。好きだなー」

 「ふふ。熊五郎が気を付けてくれるから揺れも少ないしね」


 普段はモフられる側の三巳も、今日はモフる側になってご満悦です。尻尾を揺らして喜びます。

 リリも嬉しそうに熊五郎の背中を撫でて熊五郎を労っています。本気で撫でたら熊五郎が弛緩して動けなくなってしまうので、手加減して撫でています。

 真ん中のロダは最初こそ粗相をしないように気を張っていましたが、熊五郎の乗り心地に次第に楽しむようになりました。


 「あ、熊五郎そこの松の木を支点に右斜め上に向かってくれ」

 「ぐぉ」


 熊五郎は基本真っ直ぐ進みますが、三巳の指示で進行方向を変えています。

 山の中は殆ど道がありません。他の村との交流を絶っている山の民には必要無いのです。

 進む道は決して平坦なものではありません。時には急な斜面もあります。

 普通の人なら転がり落ちてしまう場所でも、三巳もロダもへっちゃらです。

 リリだけはそうもいかないですが、後ろのロダがしっかり守っているので大丈夫です。


 「こうして熊の背に乗ってると金太郎になった気分だなー」

 「キンタロウ?」


 三巳がふと思った事を口にしました。

 それに疑問を持つのはリリです。金太郎は地球のお話です。リリが知らないのは当たり前なのです。

 そうとは知らないロダが首を傾げます。


 「?金太郎のお話聞いた事無いの?」


 山の民は小さい頃に三巳が沢山地球のお話を聞かせていたので知っているのです。

 寧ろこの世界に無いお話という事を知りません。


 「少なくとも私の故郷では無いわ」


 リリの言葉に三巳は(そりゃそうだ)と思いました。

 ロダは三巳に代わって金太郎のお話を朗読劇の様に語って聞かせました。勿論童話の方の金太郎です。

 お話を聞いているリリは、どんどん目を輝かせて夢中になります。

 だって動物が沢山出て来ますからね。

 しかも熊の背に乗るシーンなんて今の自分に重なって、三巳同様にちょっと金太郎の気分になっていました。


 「まあ金太郎は男の子だから、この場合はロダが金太郎かもな。

 相撲みたいに負かしたし」


 三巳の言葉にはロダも「ああ」と頷きました。

 リリなんてもうロダが金太郎にしか見えなくなっています。


 「キンタロウ……」


 ロダを振り返りウットリ見てくるリリに、ロダは複雑な気持ちになりました。


 「ぐお?」


 そうこうしている内に目的地に着いた様です。熊五郎がどうするのか聞いています。

 三巳は熊五郎の背から降りて辺りをキョロキョロさせました。


 「およん?何時もならこの辺で草食べてるのにな」


 到着したのは地獄谷近くの高原です。

 三巳はミノタウロスのタウろんを探しているのです。けれど近くにタウろんの姿は見えません。

 仕方なく三巳は耳と鼻の感覚を最大限まで上げました。

 耳をピクピク、鼻をヒクヒクさせると直ぐにタウろんの居場所がわかりました。


 「タウろん見ーけ!」


 見つけた三巳は満面の笑顔で一足飛びにタウろんの元に向かいました。

 取り残されたロダは誰を探してたのか疑問に思っています。

 リリは着いた場所から大凡の見当は付いたので、楽しみにワクワクと三巳を待ちます。


 三巳が向かったのは高原にポッカリと空いた窪地でした。

 タウろんは窪地に隠れて三巳達の様子を見ていたのです。


 「何でそんなとこ隠れてんだ?」


 三巳は心底不思議そうに聞きました。


 『人間いるモー。人間怖いモー。

 それにあの人間の女の子ユトの加護があるモー。

 脅威は退けられるモー』


 タウろんは泣きそうな顔で、声を震わせて言いました。

 得心がいった三巳は、「アチャー、そうかー」と頭を掻きました。そして人間が怖いと言っていた事も思い出して、テヘッと舌を出して謝ります。


 「まあでもリリの加護はタウろんには関係ないと思うぞ?だって脅威じゃないし。

 タウろんベジタリアンじゃーん」

 『そうかモー』


 三巳に指摘されたタウろんは、ジッとリリを見つめた後でコクリと頷きました。

 でも隠れたままです。


 「うーん。いい機会だからちょっと話してみたらどうだ?二人とも良い子だぞ?

 それに今ならロダが朝採れ新鮮草持ってるぞ」

 『村の草モ―――!』


 どうやらタウろんにとって、人間怖い<超えられない壁<村の草。らしいです。

 小ちゃなお目々を極限まで大きく輝かせて涎をふんだんに撒き散らして突進して行きました。余程嬉しいのか突進しながら小躍りしています。

 それにビックリするのは勿論ロダです。

 凄い顔で凝視されながら突進されたロダは、思わず及び腰になって逃げ出したくなりました。けれど近くにリリがいるので足を踏ん張って耐えます。

 ロダが救いを求める様に三巳を見ると、何やら手でメガホンを作って叫んでいます。


 「え??草?朝採れ?……あ、もしかして三巳に言われて用意したアレの事?」


 ちゃんと声が聞こえたロダは、何とか言いたい事を理解すると、リュックから取り出した物をタウろんに放り投げました。

 ちょっと高めに上がったソレを、キラーン!と目を光らせたタウろんが見事な跳躍で口に取りました。

 大きく開けた口いっぱいに入った丸い緑の物体を、心底美味しそうに噛み砕いています。

 地面に着地する頃には綺麗サッパリ胃の中に消えていました。


 『村の草美味しいモー!!!』


 咆哮の如く叫んだタウろんに、ロダは口をヒクつかせます。ロダはタウろんの言葉がわかりませんが、何となく今迄の流れから言ってある事を察したのです。


 「草……ていうか、キャベツ……」




 そうです。ロダが投げたのは草ではなく野菜。キャベツです。

 村の草とは葉物野菜の事だったのです。それはもう雑草より美味しいのは当たり前なのです。


 「ええっと、他にも野菜あるけど……」


 言うなりロダはリュックからいくつかの野菜を取り出しました。

 ほうれん草に春菊、チンゲンサイ。ブロッコリーもあります。


 『みんな好きモー!』


 その緑色の数々を目にしたタウろんは、大感激で両手を広げて近寄ります。そしてロダの前に来るなりお行儀良く正座をしました。

 目の前に大人しく座り、尻尾を振るミノタウロスが、ロダは可愛く見えてきました。

 ちょっと意地悪で野菜をタウろんの視線から外そうとしましたが、タウろんの視線は野菜に釘付けで、顔ごと野菜を追い掛けます。


 「ロダ?」

 「ごめん。可愛くてつい……」

 「うん。私もやりたい」


 ジト目で見つめてくるリリに、反射的に謝ったロダですが、続けて言われた言葉に黙って野菜を進呈しました。


 「うん、まあ仲良くなったよーで何より……なのか?」


 タウろんに餌付けして楽しんでいるリリとロダに、ゆっくり戻って来た三巳は乾いた笑みで一人呟きました。



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