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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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いざ出発♪

 真夏の暑い日々も折り返し地点にきて過ごしやすくなりました。

 今日はいよいよ明日に迫った日帰り観光旅行の準備をしています。リリは今日までお仕事なので、リリの分も三巳が準備しています。

 三巳は事前に作った持ち物リストを見ながら、リュックの中に次々と用意した物を入れていきます。


 「ふぃー、よし。チェック項目は全部入れたぞ。後は明日用意するお弁当と水筒だけだなー」


 リュックがパンパンに膨らむ前に、飲食物以外の物が全て収まり、三巳は満足気に掻いても無い額の汗を拭いました。

 リュックを二つ並べてリビングに置いた三巳は、キッチンにお弁当の材料のチェックをします。


 「玉子はあるしー、ウィンナーもあるしー、お野菜もあるしー、ご飯はオニギリにするから海苔が欲しいけど……」


 三巳はキッチンの戸棚という戸棚を開けて海苔を探します。けれどもちっとも見つかりません。


 「むー無いかー。海は遠いしなー」


 最後の戸棚も奥に頭を突っ込んで探しましたが見つかりませんでした。

 耳をしょげさせて落ち込みますが、無いものは無いのでどうしようもありません。

 諦めた三巳は頭をプルプル振って切り替えます。


 「仕方ないから塩オニギリで良いかー」


 幸いにも塩は岩塩もあるので何とでもなります。

 メニューが決まれば後は明日を待つだけです。

 三巳は今日は何処にも出掛けずにソワソワしながらお部屋のお掃除を始めるのでした。




 翌日の早朝。何時もより早く目が覚めたリリは、薄っすらと明るい東の空を見てニッコリと笑いました。


 「ふふ、今日は良く晴れそう。きっとテルちゃんのお陰ね」


 見上げた窓枠には垂れ下がる白い物、三巳に教わって作ったハンカチのテルテル坊主がニッコリドヤ顔で揺れています。

 リリは「うーん」と背伸びをして、お着替えをします。

 ロキ医師がこの日の為にと用意してくれた山登り用の洋服です。可愛らしい洋服を見ると、きっと一生懸命選んでくれたんだとわかって嬉しくなります。実際は選んだ服を駄目出しされて店員さんに勧められた服ですが、ロキ医師が用意してくれたという事が既に嬉しい事なのです。


 朝の準備が終わったらキッチンに向かいます。

 下拵えは前日の夜に三巳が済ませていますが、三巳はまだ夢の中です。

 リリは三巳を喜ばせたくて、気合を込めて玉子を手に取りました。

 玉子焼きを作り、タコさんウインナーを作り、レタスとキュウリとトマトでサラダも作りました。

 オニギリも一生懸命握ります。

 後は唐揚げと煮物ですが、リリはまだ揚げ物を作らせて貰えません。油はねを心配するロキ医師と三巳が過保護になっているのです。村に来た当初の火傷を気にしているのです。


 「火傷位平気なのにな。大切な人達に会えなくなるのが一番辛いもの」


 天ぷら鍋を両手で持って竃に乗せたリリですが、火は焚べていません。準備だけです。

 隣の竃には普通の鍋が置いてあります。中には里芋と人参の煮っ転がしが入っています。

 リリは唐揚げ以外のオカズをお弁当箱に詰めました。

 詰め終わった所で寝起きの三巳がのそのそとやって来ました。


 「ふなぁ~良い匂いするぅ~」


 眠気眼に目を擦りながら鼻をヒクヒクさせる三巳に、リリは朝から心臓を撃ち抜かれました。


 「かっ、可愛い……!」


 プルプル震えながら胸をギュッと抑えつけています。

 寝起きに耳と尻尾の毛まで寝癖がついていて、ボケッとしている姿がツボにはまった様です。フラフラと三巳の元まで歩いて行き、ぎゅーっと抱きしめました。

 三巳もリリのモフ好きには慣れているので、ボーっとしたまま好きな様にモフられています。


 「そろそろ良いかー?唐揚げ作んないとなー」


 散々モフられた三巳は、リリが落ち着いて来た所で背中をポンポン叩いて止めました。

 正気に返ったリリは大満足のやり切った顔で頷きます。三巳から離れると、トレーに入った味付け済みの鶏肉を持って竃横で待機します。


 「油が跳ねるから危ないぞー」

 「大丈夫よ。火傷しても良く効く薬はもう作れるわ」


 心配する三巳ですが、リリは逞しくもドヤ顔で譲る気はありません。ヤレヤレと嘆息をする三巳は、リリの逞しさに舌を巻きます。


 (体の傷は治せるのにな)


 心の傷は深く、未だに回復の兆しが見えないリリを思うと、せめて好きな様にさせてあげたくなります。

 三巳は天ぷら鍋の前に立つと、油の温度を確認します。良い温度になったのを見計らって、リリの持つトレーから次々と鶏肉を油の中に投入させていきました。

 案の定油が跳ねますが、リリはそれすらも目を輝かせて見守るのでした。

 その様子に三巳は安心して揚げ物に集中しました。


 お弁当を作り終わったら水筒と一緒にリュックに仕舞っていざ出発です。

 ロキ医師はまだ寝ているのでそっと「行ってきます」と言って診療所を出ます。外へ出るとロダが準備万端で待っていました。


 「おおおおはよよよう!リリリリリリ!三巳」


 山ガールスタイルのリリに見惚れるロダが、安定のヘタレぶりを発揮しています。「三巳」の所だけ冷静で、三巳がジト目で見てきます。リリの姿をガン見していて気付いていないようですが。


 「おはよう。ロダ」

 「おはよー」


 ロダの奇行に慣れているリリは、ニッコリ笑顔で挨拶を返します。

 三巳もジト目で挨拶を返します。若干棒読みです。

 けれどもリリもロダもワクワク楽しそうな顔を見て、三巳も嬉しくなって嘆息を一つだけして、ニンマリ笑顔になりました。


 「それじゃー、いざ山巡り観光旅行にー」


 三巳はリリとロダの手を取って手の平を重ね合わせます。その下に自分の手を重ねました。

 思い掛けずリリの手の温もりを得たロダは、今にも心臓が爆発しそうですが、決して手を離したりしません。寧ろ全神経を手の平に集中させています。

 丁度真ん中に手の平を挟まれたリリは、ワクワクしています。ロダの挙動不審は何時もの事なので安定のスルーです。けれども良く見るとリリの耳朶が若干赤く染まっています。

 そんなリリとロダにお構い無く、三巳は言葉を続けます。


 「出ぱーつ進こー♪」


 そして勢い良く手を下から上に突き上げました。




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