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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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ロダの報告会

 遣り遂げた達成感で一皮剥けた男の顔をしたロダが、今日もミナミに魔法を教えています。

 終始輝く様に眩しい笑顔を振りまく姿に、ミナミも自分の事の様に嬉しくなります。ただちょっと度が行き過ぎていて、時折口端が引き攣っていますが。


 「その様子だと無事一緒に行ける事になったみたいね。

 で?勿論自分で言えたのよね?」


 同じ片思い同士気持ちがわかるので、度が過ぎても苦笑一つで許容しています。


 「お陰様でね。ちゃんと自分で言えたよ」


 ニコニコ、ニコニコ。ロダは小躍りでもしそうな雰囲気で、鼻歌交じりに池に魔法を放っています。

 完成した魔法を見て、ロダは満足した様に頷きました。

 ミナミもロダの魔法を見て感嘆の声を上げています。


 「完成したのね」

 「まあね。って言ってもリリのお陰なんだけど」


 鼻頭を掻いて苦笑するロダに、ミナミは興味津々に詳細を聞き出します。そして聞き出した後で、生暖かく可哀想な者を見る目で黙ってロダの両肩をポンと叩きました。

 ロダは何故そんな目で見て黙って首を横に振るのかわかりません。憮然としつつも自分がいない間の練習の成果をミナミに尋ねました。


 「ふっふっふー♪私も遊んでなんかいなかったわよ」 

 

 ミナミは自信たっぷりに「見てなさい」と言って、昨日の自主練の成果を披露します。

 ミナミが発動した魔法により、空中に空気の球が作られます。そして池の水が空気の球に吸い込まれていき、空気の球の半分程まで溜まったら、今度はその上にもう一つ空気の球を作って繋げました。最後に集めた水を沸騰させて蒸気にし、上がった蒸気が球と球の間の層を経過して上の空気の球の天辺に到達して集まる事で水に戻っています。戻った水は下に落ちる事無く上に溜まり続けて下の球から水が無くなると、下の球が弾けて消えると同時に落下しました。


 「どう?」

 「うん。完璧だね。やっぱりミナミは魔法のセンスが良いなぁ」


 この魔法は水魔法だけではなくて、風魔法と火魔法も同時に発動しています。ロダはこれを使いこなすのに何十日も掛かったのですが、ミナミはたったの数日で会得してしまいました。

 得意そうに胸を張るミナミに、実力差をわかっていてもロダは舌を巻きます。


 「ありがと。でも私はロダみたいに武術に優れてたかったけどね」


 ウィンク一つで快活と笑うミナミでしが、後半の言葉にはどこか自嘲めいたものがありました。

 ロダは魔法は人並みですが、代わりに武術が優れているので、自警団的な存在のロイドやミレイに師事している事が多いのです。

 けれどミナミは弓が上手く使えないので、ロイドに教えて貰えるロダが羨ましくてなりません。「男の子に嫉妬しても仕方無いんだけどね」が最近のミナミの口癖です。

 そんなミナミの様子にロダは心底不思議そうに首を傾げました。

 

 「そう?ミナミも下手って訳じゃ無いと思うけど」

 「でも主戦力になる程では無いわ」


 ミナミも山の民なので、山の民の人並みには武術を一通りこなせます。でもやはり人並みでしかないのでそれを当てには出来ません。

 ミナミは現実を思うと口を尖らせて拗ねてしまいます。


 「ううん……それ言ったら僕の魔法も主戦力になる程じゃないけど、でも発想と閃きで補おうと思ってるよ」

 「ああ確かに。今回の魔法がそうだものね。

 そうか、そうよね。ロダだって発想と努力で魔法を自分のものにしているのよね。私も見習ってちょっと考えてみるわ」


 ロダの前に進む努力をする姿勢を見て、ミナミもやる気を出して両こぶしをむんと握りしめました。

 「その意気だ」とロダが笑えば、ミナミも健康的にニッと白い歯を覗かせて笑いました。


 「さて、ミナミも飲料水確保出来るようになったし。練習会は今日で終わりかな」


 一頻り笑いあった後、ロダが背伸びをさせながら言いました。

 

 「そうね、当日に向けた準備も進めなきゃだし。

 って言ってもサラマンダーが戻って来ないと出発は出来ないのよね」

 「僕達が行く時に戻ってたら良いんだけど」

 「ずいぶんサッパリした物言いだけど、ロダはサラマンダーが怖くないの?」

 「え?ミナミは怖いの?だって精霊だよ?しかもドラゴンだよ?むしろ早く会ってみたくない?」

 「……そうだったわ。最近のヘタレ振りで忘れ掛けてたけど、ロダって私達の年代で一番戦闘系だった」


 他の少年少女達が委縮していた中、ロダだけは実は目を輝かせていました。竹の子狩りのチームに選ばれるだけあって、実は割と冒険に憧れる普通の戦闘少年なのです。好戦的で無いだけで。何せ気迫だけで熊を撃退する、筋骨隆々のミレイに匹敵する実力があるのですから。

 ミナミに半眼で見られてるのに気付かず、恰好良いドラゴン精霊を想像したロダは、少年らしくワクワクしていました。



 

 「ところでリリは私とロダの事誤解してないよね」

 「え゛?」


 しかしロダのワクワクは、ミナミの投下した爆弾発言によっていとも簡単にあっと言う間に霧散しました。

 そんな可能性をちっとも考えていなかったのです。

 

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