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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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ロダの成長③

 「大丈夫?これお水、飲める?」


 陽が沈む夕方の事です。

 ロキ医師のお宅で三巳諸共ちびっ子達に揉みくちゃに遊ばれたロダが、リビングでグッタリ倒れていました。

 仕事から帰ったリリがそれを見て心配しています。コップを手渡せば、ロダはノロノロと起き上がって有り難く受け取りました。


 「ありがとう、リリ」


 お礼を言ってゆっくりと飲み干すと、やっと一息つけた様です。気が抜ける様に息を吐き出しながら、ロダは背凭れに沈みます。


 「ふふ、ロハス達がいっぱい遊んで貰ったって嬉しそうに話して行ったわ。お疲れ様、ロダ」


 リリに天使の微笑み<注:ロダ視点>で労られれば、疲れなんてあっと言う間に吹き飛んでいきます。


 「ありがと。リリもお仕事お疲れ様」


 その一連の様子を見ていた三巳は、


 (夫婦の会話みたいだなー)


 とニヤニヤ笑いでお茶を啜りつつ傍観しています。

 その横で同じくお茶を啜るロキ医師は、


 (むむ。今日はヘタレておらんのう)


 と、ロダの成長を嬉しく思うのと同時に、


 (だがまだまだそんな事ではウチの子はやれんぞい)


 と、ホケホケ笑いながらも目は笑っていませんでした。

 そんな大人?の二人の視線も目に入らないのか、もう一杯お水を貰ったロダはふと喉越し爽やかな味わいに気付きました。


 「これ、ただのお水じゃない。何だろう……あ、ミントだっ、ミントの味がするっ」


 そうです。リリが差し出したお水は、ミントウォーターだったのです。


 「凄い!こんなの飲んだ事ないよ!美味しい!」

 「ふふ、ありがとう」

 「おーい、昼間三巳が渡したのも同じものだぞー」


 感動してリリを褒め称えるロダに、リリは嬉しそうにお礼を言います。その向かい側で三巳がポツリと漏らした非難の声も、ロダには聞こえていない様です。

 この村でミントはお茶同様、お湯で入れて飲んでいます。それとは違うミントウォーターのさっぱり爽やかな味わいに、ロダはどうやって作るのか熱心に聞いています。


 「そんなに難しくは無いわ。お水にミントの葉を入れて冷やすだけ」

 「入れて冷やすだけでいいの?」


 「そうよ」と頷くリリに、ロダはカルチャーショックを受けて手元のミントウォーターを凝視します。


 「そうか、これならあの魔法が完成するかも……」


 ブツブツと呟いて、今熱心に改良を重ねている魔法工程を思い浮かべています。リリ抜きで見ればロダは頼りになる少年なのです。

 リリはいつもと違って頼もしいロダの顔に、トクリと鼓動が脈打つのを感じました。けれどもトラウマの影響か、それを意味する事を理解出来ずに胸に手を当てて首を傾げました。

 その向かい側では三巳が生暖かく見守り、ロキ医師がさっきよりも一層笑み深く見守ります。ロキ医師の手元のお茶が手の振動を伝って微かに波紋を描いています。


 「ありがとうリリ!リリのお陰で魔法が完成しそうだ!」


 ロダはリリの手をギュッと握って笑顔でお礼を言いました。

 それに驚くのはリリです。ロダに、いえ男の人にこんなに熱烈に手を握られた事が無かったのです。ビックリし過ぎて声もなく顔を真っ赤に染めて、重なり合う両手を凝視しています。

 様子の可笑しいリリに気付いたロダも、やっと自分が何をしているか理解が追い付きました。全身真っ赤に茹で上がらせて、湯気を上げて体を縮こませます。ゆっくり手を離すとチロリとリリの顔色を伺います。でもリリも俯いていて顔色はわかりません。辛うじてわかるのは耳が赤い事だけです。


 「あの……急にごめん」

 「う、ううん。大丈夫。ちょっと、ビックリしただけ……」


 解放された手を胸元で握りしめるリリに、ロダは居た堪れずに謝りました。

 リリは離れた手が寂しく思い、人肌がそんなに恋しかったのかと、早鐘を打つ胸を押さえました。


 「メロドラマかな」

 「しっ。し~じゃよ三巳」


 あまりにもピュアッピュアな小さな恋のメロディに、三巳も関係無いのに照れてしまいます。お煎餅を食べながら目が離せません。

 ロキ医師も心の葛藤を抑えつつ、二人の世界を邪魔しない様に口に人差し指を当てて静聴を促します。

 けれど三巳とロキ医師の会話はバッチリとリリとロダの耳に届いていた様です。ビクリと肩を跳ねさせて、手をモジモジさせながら目を泳がせました。


 「え、え~と。そ、そうだわ、ロダは私に何か用事あったのよね」

 「う、うん。そうだよっ、今度の休みに山に遊びに行くって聞いて僕も一緒に行っても良いかなっ?」

 「うん!一緒に行こう!」


 場の空気を誤魔化す様にリリが問えば、ロダもそれに乗る形で、すんなりと今日一重要なミッションをコンプリートさせていました。言った本人はそれまでのアレコレの方が恥ずかしかったのか、すんなり言えた事に気付いていません。満面の笑顔で許可を貰えたことで、やっと自分から言えた事にはたと気付きます。実感が伴うにつれて、徐々に顔がニヤけていきました。


 「やった―――――!!」


 そしてふつふつと沸き起こる喜びと達成感に、お腹にぐうっと力を入れてから両こぶしを突き上げて飛び跳ねました。

 あまりの喜び様に、リリも何だか嬉しくなりました。飛び跳ねて喜ぶロダを眩しそうにニコニコ見つめます。


 「勢いって大事だけど、これも言えた事にカウントしていいものかどうか」

 「この状況で水を差すのも無粋な気がするしのぅ。良いって事にしてはどうかのぅ」


 向かい側の三巳とロキ医師は対照的に、スンとした面持ちでお茶を啜るのでした。 

 

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