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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
64/372

ちびっ子達が暇を持て余しています。

 さて、リリの次のお休みまでまだ日があります。

 三巳は旅行日程を吟味しつつ当日の持ち物表を作成していました。


 「んーと。お弁当と水筒は当たり前として、ハンカチだろー、チリ紙だろー。

 他にはー、オヤツ!大事だよなー。しかも貨幣がないこの村じゃ、三百円まで!なーんてこすい事言わないしな。好きなだけ詰め込んで行ける♪」


 あれやこれやと考えながら書き込む三巳の後ろでは、楽しそうにフワモフ尻尾がゆさんゆさんと揺れています。

 その背後に忍び寄る小さな影が沢山います。

 ソロソロと近寄る影は、尻尾に手が届くとこまで来ると、一斉に飛び掛かりました。


 「「「三~巳~姉~ちゃん!あ~そ~ぼ~!!」」」

 「きゃう!?」


 小さな影、山のちびっ子達が三巳の尻尾にもふん!やらぼふ!やらの擬音を発してしがみ付きました。

 旅行の事で頭をいっぱいにしていた三巳は、完全に無警戒で油断をしていたのでビックリしてしまいます。耳をピンと伸ばし、尻尾の毛はザワリと逆立ってしまいました。


 「珍しい~!三巳姉ちゃんがビックリした!」

 「凄~い!毛がザワザワしてる!」


 何時もと違う三巳の様子に、ちびっ子達は大はしゃぎで歓声の声を上げています。

 三巳はバクバクと音がなる胸に両手を当てて、深呼吸で落ち着かせます。耳と逆立った毛が徐々にヘニョリと垂れ下がり、やっとこ後ろを振り返る事が出来ました。


 「にゃはー、情けないとこ見せちゃったなー」

 「えー?可愛かったよー。ねー」

 「うんっ、毛がモサーってなってザワザワーっだった」


 眉尻を下げて苦笑いをする三巳に、ちびっ子達は思い思いに凄い、楽しい、可愛いとキャラキャラ笑って尻尾をモフります。


 「あーうん。楽しかったなら良いんだ。

 それで何だ?遊びに来たのか?」

 「うん!」

 「もふもふ!」


 元気いっぱいに答えるちびっ子達に、三巳は持ち物表を引き出しに仕舞ってから改めて向き直りました。


 「よーし、それじゃあ何して遊ぶ?」

 「今何しまったのー?」

 「紙だったよ!」


 けれどちびっ子達の興味は三巳が仕舞った紙に行ってしまいました。

 三巳の尻尾に掴まりながら引き出しを指さしてはしゃぐちびっ子達に、三巳はちらりと引き出しを見て思案します。


 (言っても良いんだけど、ちびっ子達も行きたくなっちゃうんじゃないかなー)


 流石に三巳一人でちびっ子達を村の外に連れ出す訳にもいきません。

 尻尾を揺らしてキラキラお目々のちびっ子達を困った笑顔で見つめます。


 「うん。まあ、あれだ。リリと山にお出掛けするからその準備を書いていたんだ」


 結局、誤魔化さずにいざとなったら諭す事を決意して正直に答えました。


 「山ー?」

 「そう、山」

 「リリ姉ちゃんと二人きりー?」

 「うん、その予定だな」

 

 質問に正直に答えていたら、ちびっ子達は大口開けて驚いて尻尾をギュウっと握りしめてきました。


 「ロダ兄ちゃんは……?」


 震える声でちびっ子が聞いてきて、三巳は首を傾げました。


 (一緒に行きたがると思ったのに、違う方向にベクトルが行ったなー。助かるけど)


 「ロダかー、自分から来れば一緒に連れてっても良ーけどなー。ヘタレにリリは任せらんないって言うか」


 腕を組んでむむむーっと唸っていると、ちびっ子達は互いに顔を見合わせて頷きました。そして一人ロハスがピョンと尻尾から離脱します。


 「オレロダ兄ちゃんとこに行ってくるー!」


 そしてター!っと走り出して行きました。

 残ったちびっ子達は「がんばれー!」「いけー!」と手を振って見送っています。

 それを三巳は微笑ましく見守りました。


 (うんうん。ロダもこの子達位の行動力を発揮して欲しいものだなー)


 「それじゃぁ、あたち達も連れてって!」

 「行きたい行きた~い!」


 (うん。結局そこには行きつくんだー)


 折角避けられたと思ったちびっ子達のおねだり攻撃に、三巳は冷や汗を流して静かに瞑目しました。


 「大人無しで山に行くなら最低でもロダやミナミ位強くならんとなー」

 「えー!?そんなの無理だよぅ!」

 「ロダ兄ちゃん頼り無いのに強いんだぞー!」

 「そうだ!そうだー!頼り無いのに頼りになるんだー!」

 「ミナミ姉ちゃんなんて兄ちゃん達が束になったって敵わないんだ!」

 「この前だって兄ちゃん達手も足も出ないで涙目だったんだよ!」


 無情な現実に、ちびっ子達がブーイングの大合唱を起こしました。何気にロダが慕われている事もわかりました。そして少年達が涙目だったのは失恋相手に慰められたからでしょう。

 三巳は思いがけず知った少年達の青春に、心の中で合掌を送りながらちびっ子達を宥めます。

 フワモフ尻尾でさわさわ、こしょこしょ体を撫でられたちびっ子達は我慢なりません。


 「もふー!」

 「ふわー!」


 へそを曲げてたちびっ子が、直ぐにご機嫌で尻尾に戯れました。


 「まずは三巳の尻尾の誘惑に勝てる様にならないとなー。

 山は危ない誘惑が常にみんなを狙っているぞ」


 カラカラと愉快そうに笑いながら更に尻尾の誘惑を続けながら三巳が言います。

 ちびっ子達は悔しそうに、でも誘惑に勝てずにぶー垂れながら笑顔で尻尾に戯れました。


 「まあでも大人達と一緒なら山登り体験も良いかもなー」

 「ほんと!?」

 「やったー!三巳姉ちゃん大好き!」


 ふと思った事を口にした三巳ですが、あまりに嬉しそうに食い付いたちびっ子達に、苦笑を漏らしつつも首を縦に振って答えるのでした。


(ロウ村長に要相談案件が出来たなー)


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