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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
62/372

ロダとミナミ

 サラマンダー対応隊、別名挨拶し隊が結成された翌日の事です。

 何時もの様に村の池で飲料水作成の練習をしていたロダを、ミナミが気軽に片手を上げて訪ねてきました。

 ロダは練習を一旦止めてミナミに向き直ります。


 「どうしたの?」

 「あー、うん。いやさ、挨拶し隊に選ばれたのは誇らしいんだけど……。

 飲料水作成出来るのミア姉だけじゃん?だから、さ。教えてくれないかな」


 ミナミがモジモジとさせて上目遣いで聞いてきます。ロダを差し置いて選ばれた事が未だに後ろめたいのです。

 

 「ああ、なんだ。そういう事なら全然良いよ。今から始める?」


 ロダはミナミの後ろめたさを気付いてか、気にしていないとでも言う様に朗らかに笑って首肯しました。

 ミナミはホッと息を付いて「よろしく」と安堵の笑みを見せました。

 

 「ロイドに良いトコ見せたいもんね」

 「んな!?そ、そういうつもりじゃないわよ!?」


 安堵の笑みを見たロダが更に含み笑いで言うと、ミナミは真っ赤になって照れ隠しにぷんすか怒ってしまいました。


 「そう?僕が同じ立場なら絶対リリに良いトコ見せたくて頑張っちゃうけどな」

 「!うぅ」


 ロダは照れ隠しなどお見通しとばかりに、穏やかに目を細めて笑います。

 ミナミは素直じゃなかった自分が逆に恥ずかしくなって口籠ってしまいました。


 「頑張ろう?」

 「わかってるわよっ」


 ロダに促されてミナミは水魔法の練習を始めます。


 「ところで何で私がロイドの事好きって知ってたの?」


 ミナミが池の水を操って空中に浮かせながら真っ赤な顔で聞きました。 

 ロダはキョトンとして目をパチクリさせています。そして何かを思案するように宙を仰ぎ見た後に、同情の目を向けました。


 「僕の例からわかると思うけど……。山の民全体に知れ渡ってるよ」

 「?!??いやああああ!!うそおおおお!?」


 どうやら川開きの一件で、聞き耳を立てていた者達によって、話は可及的速やかに拡散されていた様です。

 そしてその噂によって同世代の少年達の一部が暫くお通夜の様な落ち込みを見せていましたが、そうとは知らないミナミがその少年達を慰めるといった更なるカオスが起きていました。本当にミナミは知らずに心配と親切心で行った事ですが。

 それを間近でつぶさに見ていたロダがその後さらに慰め、愚痴聞き役に徹していた事もミナミは知る由もありません。


 「ロイドには話が言ってないからそこはまあ、自力で伝えるしかないっていうか」

 「当たり前よおおお!!人伝に知られてたら何それどんな罰ゲームよおおお!!」


 見事に取り乱したミナミは、折角作った空中の水の塊を池にリリースしてしまいました。

 その様子を「ああ、自分もそんな風に狼狽えていた時期があったなー」と感慨にふけって生暖かく見守るロダです。最近は慣れてきたのか、周囲の生暖かい目が気にならなくなっていた自分にちょっとビックリしています。

 山には娯楽が少ないので恋バナは大人達にとって恰好の話の種なのです。年頃の青少年が必ず通る青春の一ページなのです。


 「まあまあ、ミナミも僕の恋バナで盛り上がってただろ?」

 「う゛。それを言われると弱いわ」


 こうして同じ恋バナの餌食になった二人は、結束を強くして練習に明け暮れました。


 その後ろ姿をたまたま通ったリリが見掛けていたとも知らずに。




 その日の夕餉の時間。リリがボーっとした面持ちで白米を口に含んでモゴモゴさせていました。


 「どおしたー?何かあったかー?」


 それを目聡く察知した三巳が心配気に耳を垂らして聞いてきます。

 三巳に「きゅーん」と鳴きそうな目で見られたリリは、ハッと意識を浮上させました。


 「あ、うん。何って訳じゃ、無いんだけど……ね。

 ロダとミナミが二人でいて、池で、寄り添っていたのを、見掛けてね」


 ゆるりと箸を置いて、何時もの様に今日あった出来事を話そうとします。けれど上手く言葉が紡げなくて、途切れ途切れになってしまいました。顔も笑っている様で何処か頼りない感じです。

 そんなリリの様子に三巳は「おや?」と耳をピンと立て何かを感じ取りました。


 (これはもしかして、もしかするとロダにもワンチャン有り……かな?)


 三巳が落ち着かない様子で耳をピクピク動かしながらロキ医師を見ると、ロキ医師も優しい笑みで三巳を見返し一つ頷きました。


 「うちの子は生半可な覚悟ではやらんぞい」


 ただの父性に目覚めた親馬鹿でした。

 穏やかに笑って親馬鹿振りを発揮するロキ医師を何とも言えない顔で見た三巳は、リリに向き直りました。

 リリはロキ医師の言葉が耳に入っていない様子でまたボンヤリしていました。


 「二人って、好きあってるのかな……」


 ポツリと無意識に発した呟きは、三巳の耳にしっかりと聞こえています。ミナミの好きな人の噂がリリの耳には届いていないのでしょうか。

 三巳は無心で「うん」と頷くと外に視線をやり、ロダに向かって「がんばれ」と念じました。

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