人を選ぶということ
「さて、みんな集まった様だ。
これより緊急会議を始める」
唐突ですがロウ村長宅にて緊急会議が始まりました。議題は地獄谷のサラマンダーについてです。回覧板にて山の民には情報が行き渡りましたが、対応は話合わねばなりません。
「早速だがサラマンダーへの挨拶へ行く者を選別したい。
ワシは行くとして他に誰を連れ行くかだが」
ロウ村長は集まった山の民が見渡せる位置で話します。
集まっているのは代表の大人達の他、経験を積ませる意味で厳選された少年少女の年長者数人です。中にはロダも含まれています。
代表者は毎回其々の職業別にあみだくじを引いて事前に決めています。
それでも結構な人数が集まるのでロウ村長の応接間では入りきりません。応接間とは別に会議室があるのでそこで行います。
大人達が会議を進めて行く様を、少年少女達は固唾を呑んで見守ります。
「今後の綱渡しの事も有る。若いモンは行かせるべきだろう」
「うむ。そうだな、では一人は少年少女の中から選ぼう。他には」
ポンポンと決まった事に、少年少女達は戦々恐々と冷や汗を掻きました。いくら三巳のお墨付きが有ってもサラマンダー相手は怖いのです。
「これ!行く前からそげんに怖がるでねえ。
ええか、聖霊様は心を見透かす。そげに怖がっちょると返って不興を買うでな」
少年少女達が怖がっていると、村の中でも一際農家然としたお爺さんが窘めました。農家の中の農家なお爺さんで、良く農業の相談を受ける頼りになるお爺さんです。
嗜めると言ってもドッシリと構えて歯抜けの有る顔で言われると、何だか素直に頷いてしまいます。
「それでええ。
ほいで残りの人選やがな」
少年少女達が落ち着きを取り戻したら会議の続きです。
「護衛……は、ロウ村長に必要かは兎も角。一応つけた方がいいだろう」
「そうね、ロウ村長がいるから後方支援型が良いんじゃないかしら」
「んだんだ。ロウ村長がいっぺな。ロイドで決まりでねえか?」
ロウ村長の扱いが守護の非対称なのは兎も角。会議はトントン拍子に進んで行きます。
「男だけなのも不安だし、ミレイも行くか?」
「いや。ロウ村長が行くならアタシはいらないだろ。行くなら魔法特化型にしときな」
「「「あー、確かに」」」
ロウ村長の意見も聞かずにトントン拍子に決まって行きます。
その間ロウ村長はうむと頷き否定の言葉も無い様です。
「相手がサラマンダーなら水魔法特化型は不敬かもしれん。行くなら火魔法特化か総合系にする様に」
異論は無いけど助言はするロウ村長に、集まった山の民達は神妙に頷きました。
「熱対策や水分補給を考えるなら総合系になるのう」
大人達が話し合っている側で、少年少女達はお互いに顔を見合わせました。
彼等の中では総合的に卒なく出来るのはロダになります。ロダには竹の子狩りでの実績や、水魔法での水分補給の知識などが有るので、今回も選ばれるんじゃないかと思っているのです。
「総合系だとロザイヤかミアだね」
「んだな。ミアを連れてぐなら若えモンはミナミがええでねえが」
しかし話に上がったのは少女ミナミでした。
ロダが選ばれると思っていた少年少女達、取分け選ばれたミナミは両目を大きく開けて驚きます。
ミナミは自分を指差して口をパクパク開閉させて言葉が出ません。そして申し訳なさそうに、でも選ばれて嬉しそうに、複雑な心の葛藤を表しながらロダを見ました。
他の少年少女達もミナミを見た後に、何とも言えない複雑な顔でロダを見ます。
ロダは選ばれなかった事に悲しみは有るようですが、どこか納得した顔で苦笑してみんなを見回します。
「僕ばかり実践積んでも村の力にならないよ。
それに精霊相手ならミナミの方が気配りが出来て良いと思う」
ロダが冷静に状況分析するので、周囲で聞いていた人達は感嘆の声を上げました。
「うむ、ロダの言う通りだ。
今回の人選はワシの他、ロイド、ミア、ミナミとする。
日時はサラマンダーの帰還を以って決める事になるので、各自準備は怠らぬように」
ロウ村長が最終判断をして、会議を締めくくります。
集まった山の民は居住まいを正し、思い思いの了承の意を発しました。
「では解散!」
最後にロウ村長が両手でパン!と小気味よい音を奏でて緊急会議はお開きとなりました。
みんなが思い思いに帰路に着く中、ロダはロウ村長に呼び止められます。
訝しみながらも早足で向かうと、ロウ村長はニッコリ笑ってヨシヨシと、ロダの頭をガシガシ撫でました。
「うん」
ロダの頭をグルングルン回す勢いで撫でたロウ村長は、そう一言言って部屋を出て行ってしまいます。
「?!??」
一人残されたロダは意味が分からず、混乱の渦に飲み込まれて立ち尽くしています。
一方部屋の外ではロウ村長が一部始終を見ていた山の民と話しています。
「将来有望だな」
「ああ」
大人達に一目置かれた事に気付かず、ボンバーした頭を撫でて尚も混乱から抜け出せないロダ。その様子を微笑ましく見守りながらロウ村長達はその場を後にしました。




