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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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山の巡回-帰宅

 あらかた山の巡回が終わった三巳が村に戻って来ました。

 リリにサプライズをしたい三巳は、ソワソワしながら診療所の入り口を潜ります。


 「ただいまー」


 ヒョッコリ顔を出したキッチンダイニングでは、リリが最近覚えた玉子のスープを作っていました。最近やっと玉子の殻が混ざらなくなったと喜んでいたのが記憶に新しいです。


 「おかえりなさい。もう時期出来るから手洗いうがいして待っててね」

 「はーい」


 エプロン付けて振り向くリリが、なんだかとっても誇らし気に見えました。

 三巳は尻尾を揺らしながら洗面台に向かいます。


 「さーて、どうやって切り出そうか」


 手をパシャパシャ荒いながらうーむと楽しそうに唸りました。


 テーブルに着くと、そこには既にロキ医師が作った肉じゃがとほうれん草のお浸しが並んでいました。七輪の上ではイワナが香ばしい香りを放っています。


 「はい。三巳の分」

 「ありがとー」


 目の前に白いご飯と玉子スープが並べられます。

 リリも席に着いたら両手を合わせて「いただきます」と食べ始めました。


 「おお、リリ料理の腕上げたな。

 玉子スープにパセリもあわせてきたかー♪」

 「ありがとう。この間ミナミに教わったのよ」


 嬉しそうにニッコリと笑うリリに、三巳もロキ医師も慈愛の笑みを浮かべて喜びます。


 「もうすっかりリリも山の民じゃのう」

 「へへへ」


 好々爺然とロキ医師が目元のシワを深くして言えば、リリも照れてほっぺを赤く染めました。


 「医学も大分覚えてきたし、どうじゃろう。ここらで本格的にワシの家族にならんかのう」


 突然のロキ医師の提案に、リリはビックリです。

 もの凄く嬉しそうに顔を抑えたと思った次の瞬間。感情が抜け落ちたように、固まってしまいました。


 (家族……。父様。母様。……ネルビー。

 私が大切に思う家族はみんな遠くへ行ってしまった。

 ロキ医師もそうなったらどうしよう……!)


 蒼白な顔で震えるリリに、三巳とロキ医師は困ってお互い顔を見合わせてしまいます。


 「リリ……?」


 心配そうにリリの目を除いて問えば、はっと気付いて所在なさ気に視線を揺らしました。


 「あ、ははは。ゴメン、なさい。ちょっと、疲れてたのかな。

 ……あの、今の、お話……」


 一見微笑んでいるようですが、声は震えているし、汗も掻いているし。何より焦点が上手く合っていない様に見えます。

 ロキ医師は優しく、穏やかな笑みを浮かべると、そっとリリの手に節くれた手を乗せました。


 「ビックリさせてすまなかったのう。

 これはリリにとって大切な事だろう。直ぐに答えを出さんで良いから、ゆぅくりと考えてみてくれんかのう」


 静かに揺れる波間の様な穏やかさで、リリの目を優しく見つめて落ち着かせる様に言います。

 リリはどこからか込み上げる苦しさと、暖かな思いに、どうしようもなく泣きたくなってしまいました。

 俯いて震えながらもコクリと頷きを返したリリを見て、三巳とロキ医師はホッと胸を撫で下ろしました。


 「じゃあそーいう事で、次のお休みは観光しよー」


 三巳はリリの気持ちを向上させるべく、計画を実行に移します。

 ニマンと歯を見せて笑う三巳に、リリもロキ医師もキョトンとします。


 「何時も突然じゃのう」


 ロキ医師は慣れているのか直ぐにホケホケ笑って言いました。


 「実はいい場所発見したんだ。

 これはもうリリに見せるしかないと思ってなー」


 楽しそうに語る三巳のお陰で、さっきまでの深刻な空気は大分薄れています。

 リリはその思いに嬉しくなって蒼白だった顔を紅潮させます。


 「それは楽しみだわ!」

 「にゅふふふふー♪山を巡回中に発見した穴場だぞ。多分山の民でも知らないんじゃないかな?」


 得意そうに言う三巳ですが、モンスターの住む洞窟なので山の民が知らなくても当然です。むしろ長生きの三巳が今まで知らなかった事の方が不思議です。


 「巡回?他の人が知らないって事は一人で行ったの?」

 「あや。心配掛けちゃったかー。ゴメンなー。

 三巳こう見えて山の誰よりも強いから良く山を散策するんだよ。

 長生きしてても未だに行ってないトコいっぱいあって面白い」


 三巳が神様だと知らないリリは、蒼白になって心配してしまいました。

 三巳も心配掛けた事には素直にシュンと耳と尻尾を垂らして謝ります。けれど大丈夫な事はドヤ顔で猛アピールです。


 「強いのは知ってるけど……。

 それでもやっぱり心配をするわ」


 眉を下げて心配をしてくれるリリに、三巳は面映ゆい思いで口をムニムニさせました。


 「うん。ありがとうな。

 まあ、三巳はご覧の獣だからモンスターとも友達なんだ」


 三巳の言葉にリリはビックリしました。


 「そういう事もあるのね」


 自分に加護があると知らないリリは、自分もモンスター達からお友達認定されているとは知りません。


 「うん。人間でもたまにそういう仲良し体質の人いるぞ」


 意味深にではないですが、三巳はリリをじぃっと見て悪戯っぽく笑いました。


 「ふわ~良いなあ。私もお友達になってみたいな~」


 羨望の眼差しで言うリリに、三巳は実はもう友達だよとは言いませんでした。それはきっとリリとモンスター達の問題だからです。

 三巳はただニコニコしながら「そうだな」と犬歯を見せて笑いました。

 その様子を慈愛の笑みでロキ医師は静かに見守っていました。


 「ほっほ。安心した所でご飯冷めてしまうぞい」


 でもご飯中なのを思い出しました。

 ロキ医師に言われて目を点にした三巳とリリは、テーブルに並ぶご飯を見てからお互いに見合わせて「ぷっ」と吹き出しました。


 「にゃははー、そうだったそうだった。折角のリリのスープ冷めちゃう」

 「ふふふ。まだあるからおかわりもどうぞ」


 和やかな笑い声を上げて食事再開です。


 「そうだわ。後で山でのお話聞かせてくれる?」

 「うん。じゃあ今日は一緒に寝ようか」

 「うん!」


 モフモフと寝れる幸せに、リリは「やった」と小さくガッツポーズをして元気良く頷くのでした。

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