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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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始まりの新生児命名秘話

 むか~し昔、そのまた昔。

 三巳の結界に護られた山の中腹に村が出来て少しの事です。

 簡易的な村造りもひと段落して、日々の生活にも余裕が出来てきた頃。村では初代山の民達が一軒の家に集まっていました。

 とは言っても小さな家です。殆どの人は外から覗き込むに留めています。

 家の中には家主である夫婦と医師と村長他数人の女衆、そして夫婦の腕に抱かれている産まれたばかりの小さな小さな男の子と女の子の赤ちゃんがいます。


 「いやはや村初めての赤子が男女の双子とは、これ程目出度い事はない」


 胡座をかいて座る村長は殊の外嬉しそうに膝を叩いて喜びます。


 「獣神様の結界で早々子は出来んと思っていたが、いやはや良かった良かった」


 医師が同意する様に朗らかに笑います。

 件の三巳は、まだ少し山の民を警戒しているので村の外から様子を伺っています。

 女衆は出産道具の洗浄、片付けをニコニコと嬉しそうに行なっています。


 「ジュゼルとニーナはあの時新婚ホヤホヤで、このまま子供が居ないのは寂しかったから良かったよう」

 「そうねぇ、これも獣神様のお導きかもしれないねぇ」


 女衆の言葉に周りの人達は「違いない」と朗らかに笑いました。

 その時耳を澄ませていた三巳は、そんな事してないぞと言わんばかりに、真顔で首を横に振っていました。山の民達には見えませんが。


 「さて、こんなに目出度い双子だ。良い名を付けねばな」


 村長が希望に溢れる力強い顔で言いました。


 「ええ。この子達は山の民となった我々の希望であり未来です。

 是非とも村長に良き名を付けて頂きたく思います」


 旦那さん、ジュゼルが抱いていた愛娘を村長に預けて言います。

 しっかりと受け取り、優しくあやしながら抱く村長は「ううむ」と唸りました。


 「夫婦で決めんのか?」

 「確かに私達夫婦の初めての子供です。

 ですがこの村、この山の民の初めての子供でもあるのです」

 「そうね。希望の子供の名前はやはり纏め役たる村長に決めて頂きたいわ」


 ジュゼルの言葉に奥さん、ニーナが同意します。

 皆が皆期待の目で村長を見つめるので、村長はタジタジになりました。


 「責任重大だな」


 けれどそこは流石に村長を任されているだけあって、直ぐに真面目に持ち直します。

 村長は腕の中の赤ちゃんをじっと見つめて一生懸命に考えます。

 村長が考えている間、皆固唾を呑んで見守ります。


 「ミナ」


 静寂は、村長の一言で終わりを告げます。

 山の民達は思い思いに感嘆し、反芻します。


 「その心は」


 ジュゼルは一言一句逃さない様に、居住まいを正して尋ねます。


 「我々は獣神様たる三巳様によって安寧の地を得た。

 ならば敬愛し、尊敬し、我ら一同三巳様の元生きて行く思いを込めて、名前の初めに三巳様の『ミ』の字を女の子に付けようと思う」


 村長も居住まいを正し、式典の様な尊厳さを以って語ります。


 「そして男の子には『ロ』の字を付ける事とし、ニーナが抱く子の名をロゼとする。

 またそれに加えて、次代から村長となった者の名は『ロウ』と改める事としよう」

 「何故、『ロ』で『ロウ』なのでしょうか」


 村長が良い終わり騒つく中、ジュゼルは尋ねます。


 「それはまだ我等がこの山に来て間もない頃。獣神様に種属を訪ねた事がある。

 獣神様は自らの種属に頓着しておられず、未だに解らぬままだが。その時にオオカミという動物に似ていると仰られた。オオカミは獣神様のゼンセとやらの言葉でロウとも言うらしい」

 「成る程、だから『ロウ』の頭を取って『ロゼ』なのですね」


 村長が尊い言葉を噛みしめるように話すと、周囲からは「おおー」という感嘆の言葉が漏れました。


 「獣神様の敬虔なる僕として、その長が『ロウ』と名乗るのはわかったが、何故今じゃないのか?」


 山の民達が言葉を噛みしめている時、医師がふと疑問に思って聞いてみました。

 皆もそれもそうだと気付いて村長を凝視します。


 「ワシは決める前から村長だろう。

 それなのに決めた本人がその名を冠するのは不遜であろうよ」


 村長は眉尻を下げて言います。

 そんな事は無いと思う山の民達ですが、肯定していいのは三巳だけでしょう。ですから一緒になって残念そうに眉尻を下げました。


 当の三巳は一言一句違わず聞いていました。


 「何それ恥ずかしい!」


 などと真っ赤な顔でのたうち回っています。

 けれどそれをわざわざ言いに行くのも恥ずかしくて、行くに行けずに悶えています。


 結果。山の民への警戒心が無くなり、交流深くなる頃。既に名前が定着してしまい、後に引けなくなってしまいましたとさ。


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