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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
43/372

リリの好きな人

 ある日の昼下がりです。

 ロキ医師の診療所は今日も閑古鳥が鳴いています。

 患者が居ないのはとても良い事です。

 ロキ医師はニコニコとゆったりした面持ちで薬室の椅子に腰掛けています。

 真向かいにはリリが座って薬液を掻き回しています。


 「うんうん。リリやそこはもう一呼吸早めに回してごらん」

 「はい、ロキ医師」


 ロキ医師の指示に従って心持ち早く回します。


 「そうれ、そろそろ色が変わってくるぞい。

 変わった瞬間に残りの葉を入れてゆうっくり大きく回すんじゃ」

 「はい。って、あ!今!」


 返事をしている間に色が変わり始めます。

 直ぐに完全に色が変わったので慌てて残りの葉を入れました。


 「ほっほ。そんなに慌てんでも大丈夫じゃよ」


 ロキ医師は朗らかに笑って言いました。

 リリは粘度が強くなって重くなった薬液を大きく回すのに精一杯で言葉も出ません。

 暫く回していましたが、等々重さに耐えられなくて止まってしまいました。


 「これ以上は重くて回せません~」


 ヘタリとへたったリリは眉尻を下げて情け無い声を出しました。


 「どおれ、うんうん。大丈夫じゃこれで完成じゃよ」


 ニッコリと笑うロキ医師に、リリはホッと一安心しました。


 「後はコレを瓶に詰めたら今日はお仕舞いじゃ。

 遊びに行っといで」

 「はい、ありがとうございました!」


 お礼を言って瓶を取りに行きます。

 広く浅い瓶を持ってきたら薬を掬っては入れます。

 重いのでコレも一苦労です。

 やっと入れ終って棚にしまって薬室を出ると、三巳がチョコンと座っていました。

 尻尾が所在無さ気にパタパタ揺れています。耳も若干垂れ気味で、リリは内心可愛いと悶えました。


 「三巳どうしたの?子供達と遊びに行ったんじゃないの?」


 リリもチョコンと腰を落として首を傾げました。


 「うん。あのなー、リリとお話ししたくて待ってたんだ」


 上目遣いにお強請りされてリリはキューンときて、お勉強の疲れなんてあっという間に飛んで行きました。


 「うん、しようね!いっぱいお話ししようね!」


 リリは三巳の耳をモフモフ撫でながら満面の笑みです。

 三巳も撫でられて気持ち良さそうに目を閉じます。


 「それじゃあ、天気も良いし庭でお茶しながら話そうな」

 「わあ、お茶会なんて久し振りだわ。楽しみ!」


 三巳の提案にリリは両手を合わせて喜びました。


 お茶とお菓子を持って庭に出た三巳は、簡易テーブルセットを魔法で作りました。


 「三巳の魔法は凄いわよね。私がいた国じゃ見た事ないわ」

 「魔法は得意分野だからなー」


 リリが目を輝かせて感心すると、三巳は胸を反らせて「エッヘン」と得意顔をしました。

 因みに無から有を創り出す魔法は、人間で使える人はいません。

 三巳が神だからこそ使えるのです。だから、温泉施設の石も事前に用意されていたのですから。


 「うーん、リリの淹れてくれるお茶はいつ飲んでも美味しいなー」


 三巳は両手で茶器を持って一口飲みます。

 お茶は美味しいし、天気は良いし、時折吹くそよ風は気持ち良いしで、三巳の耳と尻尾は嬉しそうにピクピク、フリフリ揺れています。


 「ふふ、隠し味にハーブを少し入れてるのよ」


 リリも三巳の毛並みに癒されながら、お茶を飲みます。


 「リリは良いお嫁さんになるなー」

 「そう……かな……」


 何気無く言った三巳の言葉。それに返したリリの顔は、微笑んでいる様で、その実、感情が抜け落ちていました。

 そんなリリの様子に三巳の耳と尻尾はヘニョんと垂れ下がってしまいます。

 少し物思いに耽っていたリリですが、三巳の様子に気付いて「はっ」としました。


 「ああっ、ごめんね。

 ほら私料理はまだまだ上手に作れないからっ」


 リリは慌てて、その場の空気を一層する様に両手をパタパタ振ります。

 明らかに誤魔化している雰囲気ですが、三巳は誤魔化される事にしました。


 「最初の頃に比べたら断然上手くなってるから安心していーぞー」


 尻尾を大きく一振りして、ニカッと笑います。

 リリもホッとして笑みが溢れました。


 「そういう三巳こそ、料理は上手だし、可愛いし、モフモフだし、可愛いからモテるんじゃないかしら」


 主にモフモフを凝視して言うリリに、三巳は照れた様な、困った様な笑いをしました。


 「三巳はなー、人とは寿命が違うからなー」

 「あ、そうね。ごめんね。

 でも、三巳の赤ちゃんなら絶対可愛いと思うから良い人居たら逃さないでね」

 「いたらなー」


 リリの心からの願望に、三巳は快活に笑って答えました。


 「三巳は一緒にスローライフ出来る奴が良いけど、リリは好きなタイプあるのか?」


 先程のリリの様子は気になりますが、探る様に上目遣いで聞きます。

 だって可愛いロダの為ですから。


 (駄目そうなら謝ろー)


 でも、優先すべきはリリの心です。

 辛そうなら深く聞く気はありません。

 リリは黙って俯向きそうになる自分を叱咤して、笑顔を作りました。


 「そうね……誠実な人……かな。

 酷い事をしない人……」


 顔は笑顔ですが感情は何処か辛そうです。

 それに魔力が乱れて落ち着かなくなったのを三巳は見逃しませんでした。


 (リリの魔力が安定しないの、やっぱり心の傷が原因っぽいなー)


 三巳はリリの心を慮りますが、無遠慮に聞いて心の傷を開いてしまってはいけません。


 「まあ、酷い奴は誰だって論外だと思うぞー。

 ドM位じゃないか?良いって言う奴」


 リリの心の乱れを気にしつつ、肩を竦めて戯けて言うに留めました。

 リリは明らかにホッとした様なので、やはり今は深く聞かない方が良いと改めて思うのでした。




 (でも、少しは好きなタイプが判ったし。

 ロダならリリには良いかもな。

 良し、ロダには粉骨砕身努力して貰おう。

 リリの為に!)


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