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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
39/372

ロキ医師の薬草講座

 「これは腹痛に効く薬草じゃ」

 「はい」


 リリは今、ロキ医師にくっ付いて山を探索中です。

 ロキ医師はゆったりとした足取りで、薬草を見つけてはリリに教えています。


 「比較的何処でも見れる物じゃが似た毒草が有るから注意が必要じゃ」


 ロキ医師は薬草を根っ子毎掘り出すと辺りを見回します。

 木の根付近に目的の物を見つけてホッコリ笑いました。


 「有った有った、これじゃよ。

 これが毒草じゃ。よう似とるじゃろう。

 じゃがのう、ちと此処を見比べてごらん」


 ロキ医師が指す箇所を見比べたリリは、気付いて「あ」と言いました。


 「毒草は葉っぱに棘が無い」


 そうです。薬草はギザギザした葉っぱの先に小さな棘があります。けれど毒草には有りませんでした。


 「うむ。その通りじゃよ」


 ロキ医師は満足気にニッコリと頷きました。


 「毒草はその身を以って自己防衛しとるが、薬草は棘を持つ事で外敵から身を守っとるんじゃ」

 「植物も頑張って生きているんですね」

 「ほっほ、そうじゃのう。

 その命を以って儂らは助けられとるんじゃ。

 大事に扱わんとならんぞい」

 「はい!」


 リリが心に刻む様に頷くのを確認したら、次の薬草を探します。


 「これは免疫力を高めて治りを早くする薬草じゃな」

 「ふえ?」


 ロキ医師が手に持った薬草を見て、リリは間の抜けた返事をしました。

 それはそうでしょう。何故ならロキ医師が持っていたのはそこら辺に生えてる雑草と同じ形をしているのですから。


 「驚いた様じゃな。

 けれどこれは雑草とは違うぞい。よぅく見てごらん」


 ロキ医師はしたり顔で笑うと薬草を手渡しました。

 受け取ったリリは、下に生えている雑草と見比べます。


 「んーと。えーと」


 リリは頭を悩ませて一生懸命考えます。

 ロキ医師はそれを優しく見守ります。

 暫く悩んでいましたが、リリは一つ気付きました。


 「葉脈の形が違うわ。雑草は放射状に葉脈が流れてるけど、こっちの薬草は太い葉脈から細い葉脈が枝の様に伸びてます」


 目を輝かせてロキ医師を仰ぐと、ロキ医師が嬉しそうにニッコリ笑って頷きました。


 「うむ。正解じゃ。

 じゃがそれだけじゃと雑草にも突然変異的にそうなる物もおる。じゃからほれ、根の付け根を見てごらん」


 ロキ医師は雑草を引っこ抜いて薬草の根っ子と並べます。


 「あ!色が違う!」


 雑草が緑色に対して、薬草は鮮やかな赤色をしていました。


 「うむ。じゃから二段階確認が必要なんじゃよ」


 ロキ医師がほっほと朗らかに笑います。

 リリは面白そうに交互にじっくり見比べて感動しています。


 「それじゃあ次に行こうかの。

 次のはとっておきじゃぞい」


 そう言ったロキ医師に従って岩がゴロゴロしている山道を登って行きました。

 リリの体力を考えて、小休止を挟みながら平らに開けた場所に着きました。


 所々岩の頭が突き出しています。その周囲に埋め尽くす程の植物が蕾を付けていました。


 「これ、もしかして……」


 リリはその植物に覚えがありました。

 驚愕で震えています。


 「ほっほ、他の街では幻の薬草と言われておる様じゃのう」

 「やっぱり!ホロホロですね!?」

 「ご明察じゃ」

 「こんなに沢山……」


 リリは一面に広がるホロホロと言う植物を見回します。


 「ホロホロは悪意を嫌いおるでな。山の外じゃと育ち辛いんじゃろうのう」


 ロキ医師は眉尻を下げて悲しそうに言いました。


 「そうだったのね……」

 「ホロホロの効能は言えるかの?」


 リリまで悲しそうにするので、ロキ医師は意地悪な笑顔をわざと作って聞きました。


 「え?えと。万能薬です。怪我も病気も何でも治すと書物に載っていました」

 「ふうむ。正しく伝えられてはおらんのかのう」


 ロキ医師は顎に手を当てて困った様に言いました。


 「違うのですか?」

 「万能薬は万能薬じゃがのう。劇薬じゃから取り扱いに注意が必要なんじゃよ」


 そう言ってロキ医師はホロホロ薬の作成法から使用法まで教えてくれます。

 それを聞いたリリは、衝撃の事実に驚愕しました。


 「そんなっ、もしかして紛い品と言われた中には取り扱いを誤っただけの本物も有るかもしれないのね……」


 苦い記憶を呼び起こしたのか、リリは苦痛に歪んだ顔で泣きそうになりました。


 「そうじゃのう。じゃが人事では無いぞい。

 リリもこれから扱う様になるんじゃ。心して扱う様にの」

 「はい」


 ロキ医師に言われるまでも有りません。

 リリは拳を握りしめて神妙に頷きました。


 「さてはて、此処に来たは良いがのう。

 ホロホロの最も良い採取時期は、沢山の太陽を浴びた夏を過ぎる頃じゃ。

 通常時の花は昼は桃色、夜はレモン色をしとる。

 じゃが、効能が最も良いのは空色に輝いた時なんじゃよ」

 「凄い!色が変わる植物が有るなんて!」


 リリは両手を合わせて、想像を膨らませす。

 ロキ医師はそれを見て、嬉しそうにニッコリとしました。


 「ほっほ。時期が来たら又来るからのう。

 じゃが空色になるのは一本に付き一度限りじゃからな。

 見逃さん様にせんといかんぞい」

 「一度しか無いんですね。それじゃあその時期は大忙しだわ」


 リリは何処までも楽しそうです。

 そんなリリだからロキ医師も多くの事を教えて上げたくなるのでした。

 気分はすっかり先生よりも孫を持ったおじいちゃんです。


 この日、診療所に帰ったリリの興奮冷めやらぬ様子に、三巳もロキ医師もホッコリしました。


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