お友達になった人達と
暑い夏が明け、山が紅色に色付き始めました。
山では何やら賑やかな動きを見せています。
「設営よーし。パンフレットよーし。お弁当よーし」
三巳はロウ村長と山を見回り指差し確認しています。
一通り見終わって戻って来たのは村一番の広さの広場です。広場ではレジャーシートを敷いて食べ物や飲み物を広げている人達で溢れています。
「がっはっは!皆やる気で良い!」
「うぬ。頑張って企画考えた甲斐があるんだよ」
三巳が見上げた先には大きな垂れ幕が掛かっています。
垂れ幕に書かれていたのは、【第1回オリンピック】です。
そうです。竹の子狩りには間に合わなかった何ちゃってオリンピックです。何故何ちゃってなのかって?それは勿論世界大会と言うには規模が狭く、何より毎年開催する気満々だからです。
「おう、獣神娘。リファラの連中も準備良いぜ」
横から片手を上げてやって来たのはオーウェンギルド長です。その背後にはリファラでのお友達がシートに座っています。
「こちらも準備は整っていてよ」
反対側から来たのはウィンブルドン伯爵の娘、シェザンナです。その背後にはウィンブルドンのお友達がシートに座っています。
そうです。記念すべき第1回オリンピックは3カ国での開催となったのです。
「うむ!では開会としよう!」
言うなりロウ村長は壇上に上がって簡潔な開会の挨拶と、選手達に向けた激励を話します。
広場では観戦者達が盛り上がり、広場に映し出された各会場の選手達も雄叫びを上げます。
ちょっぴし盛り上がり過ぎて声が大きかったのか、三巳がビクッとなって耳を伏せさせてしまいました。
何はともあれ第一競技開始です。
「いやー、初のオリンピック開催となりました。実況は私ロンがお送り致します。
それにしてもお天気に恵まれて良かったですねー」
そう言ったのはロンです。
ロンは広場に設置されたマイク席に座っています。マイクは存在していませんでした。しかし三巳が大会には「実況と解説なんだよ」と力説したら、橙が似た形の物を開発してくれたのです。
「そうですね〜。選手達も〜皆やる気に満ち溢れている様子がわかります〜」
同じく隣に座るのはミズキです。ロンと共同でヴィーナ劇団立ち上げ中で、今回はその練習がてら志願した様です。
席には各会場の様子が映し出された画面が展開されていて、ロンもミズキも一つ一つを確認しながら話しています。
「おっと、早速動きがありました。記念すべき第一種目はちみっこ競走です」
動きを見せた画面を見れば、丁度線に並んだちみっこが駆け出していました。
「わんぱく盛りの子供達が〜一生懸命に走る姿に〜親御さん達の声援が〜他の音を掻き消してます〜」
選ばれた各国のちみっこ選手が先を争って走る姿に、大人達がほっこりします。
「先を行くのはヴィーナ代表のロニャですね」
「その後ろを〜リファラ代表のアンリが〜追い掛けてます〜。上手く〜風を〜利用してますね〜」
ロニャの後ろをピッタリ付いて走るアンリは、風の抵抗が少ないです。そのままゴール直前でスピードを上げて追い抜いて行きました。
「おっと!アンリ選手ちみっこながらに侮れませんね!」
「将来が〜楽しみです〜」
続けてゴールしたロニャは悔しがりましたが、素直にアンリを誉めています。お互いに笑顔で語らう姿に親達の頬が緩みっぱなしです。
「山でも〜動き有りです〜」
そうこうしている間にも画面は目まぐるしく動いていました。ミズキが逸早く気付きます。
ロンもそちらに目をやりました。
「あちらは障害物競走ですね!先頭を争うのはリファラ代表のジョナサンと」
「ヴィーナ代表の〜ロッカです〜」
画面では凄まじい勢いでジョナサンとロッカが、天然と人工の障害物を避けては擦り付け合いをしています。
ジョナサンが木々の隙間を走り死角から現れた蜘蛛型モンスターの巣に掛かり、ロッカが踏み台にして飛び越えれば、先を行っていたロッカが突然降って来た大岩を殴り壊している間に、巣から脱出したジョナサンがその隙間を縫って駆け抜けて行きます。
「これはかなりのデッドヒートですね!」
「はい〜お互い先を譲りません〜」
「ああっと!その先は吊り縄ワニワニパニックです!」
矢嵐をいなしては避けて駆け抜けていく2人の前は幅の広い川でした。川には数本の細いロープが掛かっています。そしてその下の川には幾つもの動く影が見えました。
「う、そだろぉぉぉぉ!?」
「誰だこれ考えた奴!?」
その影は、揺れ落ち無い様に細い縄の上を駆ける2人を嘲笑う様に飛び掛かって来たのです。
急展開にジョナサンが悲鳴を上げ、ロッカが非難の声を上げました。
更に揺れる縄で襲い来るワニ型モンスターまで避けねばなりません。
「これは難解ですね!」
「因みに〜、縄上を走る以外で川を渡った場合は〜やり直し〜。川に落ちた場合は〜自力で上がって〜やり直しです〜」
「これは中々に楽しい競技ですね。後で私も是非挑戦したいです!」
「あら〜?あれはウィンブルドン代表の〜ダーナです〜」
「これは!ジョナサン選手とロッカ選手が苦戦している間に追い付いた様ですね!」
画面の先では幾つもの縄を行ったり来たりしながら駆けては横に渡り、戻っては駆けて行く飄々とした姿が映りました。定年退職をしていた元門番の隊長ダーナです。
「お孫さんでしょうか〜。声援が〜聞こえてない筈ですが〜」
「明らかに画面に向かって手を振っていますね」
好々爺とした笑みで余裕の表情です。
「川を飛び超えちゃいかんとは聞いたが縄を飛び越えちゃいかんとは聞いて無いからな」
軽快な足取りで川を渡り切ったその姿は、まだまだ現役だと言わんばかりです。いまだにもたつく2人にも笑みを見せて手を振っています。挑発をして本調子を乱そう作戦です。
「「こら待て、あ゛っ」」
そしてそれにまんまと引っか掛った2人は仲良く川に流されて行きました。
「おいちゃんは頭を使わんとな」
その間にダーナがゴールをしてウィンブルドンの勝ち星を1つ得たのでした。




