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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
362/372

お料理対決の時間です

 「ふふ♪ふんふんふん~♪ふんふんふん~♪」


 森に三巳の調子っ外れな鼻歌が響いています。

 メロディは3分間なクッキングのつもりです。篩の森で余所者冒険者達が料理対決をしているからです。

 一番最初に出来たのはユーシャです。 


 「釣った魚はやっぱ串焼きに限るぜ」


 そう言って出されたのは魚を数匹、はらわたも抜かずに串に刺して魔法の焚火で焼いただけの物でした。そりゃ串刺して焼くだけなら時間は掛からないでしょう。

 三巳達は串を持ちます。そして三巳は背中から、レオとログは頭からガブリと食べました。


 「うぬ。いつもと変わらない美味しさ」


 食べ慣れているので感動はしませんでした。


 「火加減が丁度良い」

 「そうだな。中までしっかり火が通って、だが焼けすぎて固くなっている事もない」


 ログが咀嚼して頷き、レオが食レポっぽい事を言います。


 「美味いよな。焚火で焼くと」

 

 自分も頬張り頷くユーシャの次はトーコです。


 「にゃははは♪あっしのお気に入りなら絶対気に入って貰えるし!」


 ドヤ顔で出したのは丸ごと川魚を使い、白ベースのソースが掛かったソテーです。


 「ソテーも定番なんだよ……むぐ!?」


 焼き魚同様に感動も無く咀嚼した三巳でしたが、口の中に味が広がると目を大きく開けました。

 見た目は普通のソテーです。

 けれどもそれに掛かったソースが一味違ったのです。


 「甘い!?でも不思議と魚に合ってる!不思議!」


 まるでおやつの様な甘さに、三巳はふと前世を思い出しました。


 「甘い煮干しの!」


 食感はソテーそのものですが、味がおやつの煮干しに近い様に感じたのです。

 隣でレオとログが一口含んだ状態で固まっています。予想外の甘さに脳がバグった様です。


 「うーにゅ。でもこれならポリポリしている方が三巳好みなんだよ」

 「ポリポリ?焦がすん?」

 「んー?違くて、確かばっちゃは干してパサパサ?カラカラ?になったのを甘いので絡めてた……気がするんだよ?」

 「へー!今度時間あったらやってみるし!」

 「!うにゅ!出来たら三巳にもお裾分け欲しいんだよ!」

 「任せてっちゅーの♪」


 中々二口めに行かないレオとログを他所に楽しくおしゃべりしていると、ラントの料理が出来ました。


 「オレの故郷の料理だ!」


 そう言って出て来たのは大きな葉っぱに包まれた何かです。


 勿論包み焼きの知識がある三巳は直ぐに葉っぱを取り除きます。そうすれば閉じ込められた匂いが鼻を掠めて食欲をそそりました。


 「これは美味しいに決まってるんだよ!」


 アルミホイル焼きは好物の一つです。この世界では葉っぱを使いますが、それはそれで葉っぱによって微妙に変わる風味も楽しいです。しかもお腹の身を解すと何と中から具材がトロリと出て来ました。

 隠された秘宝発見の気分でテンションが上がった三巳はその具と身を合わせてパクリと食べました。


 「んはー!知らない葉っぱの味がする!」


 食べればそこには知らない筈のラントの故郷が目に浮かぶ気がしました。


 「へえ。こりゃ美味いな。直接腹に詰める事で野菜の旨味とソースの味が身に染みて深い味わいを作り出してる」


 レオも舌鼓を打ちながら味の分析をしています。トーコの料理の衝撃をここで癒している様にも見えます。現にログも神妙に頷きながら口いっぱいに含んでいます。

 

 「あんま出回って()ぇかんな!味わってくれ!」


 胸を張って出すだけの事はありました。

 三巳は尻尾を振って貪ります。

 その様子にユーシャもトーコも敗者な顔になってしまいました。

 そりゃ明らかに尻尾のモフみに違いが出ましたからね。


 「ふん。やるわねラント。でも私だって負けてないわっ」


 そう言って続け様に出して来たのはマホです。深皿に盛られた具材は魚だけでなく、固形の何かも入っています。


 「これは何だ」


 ログが眉間に皺を寄せてしまう程には得体がしれません。


 「完全栄養食よ!魔道研究はご飯食べる時間も惜しいから、簡単に栄養補給出来る(すべ)が構築されてるの。本当は片手で食べられる方が良いんだけどね」


 趣味に没頭するあまり時間を忘れてしまうのでしょう。けれども腹が減っては研究も捗らぬと、魔道研究の傍らで開発された副産物だそうです。


 「うぬ。取り敢えず食べてみるんだよ」


 害は無さそうだと口に頬張れば、煮汁の旨味と、色によって食感の変わる完全栄養食が思いの外美味しく感じました。


 「うにゅあっ。凄いっ。食感が楽しい♪」


 コリコリだったり、プニプニだったり、味も千差万別で楽しいし美味しいしで尻尾も踊り出しちゃいます。


 「ふふん♪魔道を舐めないでね」


 ドヤ顔でリュックは貰った感満載のマホです。


 「魚料理ってか、栄養食料理。だな」


 レオの一言で地に沈みましたが。

 三巳もそう思いましたが、料理が楽しくてどうでも良くなっています。

 そろそろお腹も膨れて来たログに至っては次を食べるか検討を始めます。何せ次に持って来ているヒーラは、主食に主菜、汁物まで添えたセット料理に思われたからです。

 けれどもそれは杞憂に終わりました。

 

  「ふふふ。皆さん量を気にせず出していましたから。そろそろお腹も膨れて来たでしょう?」


 ヒーラは種類こそ多いものの、一品一品の量を少なくしていたのです。


 「小鉢!おしゃれなんだよ♪」


 しかもお盆に食べやすく配置された料理が目を楽しませてくれます。


 「こりゃ、世界は広いな」


 レオも初めてな出され方に思わずニヤリと口端を上げました。

 それを見たユーシャ達は完全に敗北を悟りました。ヒーラの料理の腕前は毎日思い知っていますからね。しかも本気を出して来ています。完全にやられた感があるのです。


 「どれから食べようかなー♪」


 沢山あると迷ってしまいますよね。それでも三巳はお箸で魚を更に小さくして一口食べます。今回のお題だったのを思い出したからです。


 「マリネ!これは!お酒が欲しくなるんだよ!」

 「駄目だぞ」

 「うい……」


 目をキラーンと輝かせた三巳は、間髪入れずにログに言われてしまいました。

 分かりやすく尻尾をショモンと垂れ下げ、侘しい顔で料理を味わいます。


 「成神してるだろ」


 代わりにレオがログに聞きます。神族相手に何が駄目なのか理解出来ないのです。


 「まあそうだが、見た目がな。教育に悪い」

 「うぬ……。チミッコが真似しちゃうんだよ……」


 ログが真顔で言い、三巳が遠い目で同意を示します。過去にやらかした事があったのでしょう。

 大事に味わって食べ終わったら最後にインテの料理が待っていました。


 そしてそこから先の記憶が三巳から消えました。

 

 「んはっ!?な、何が有ったんだよ……?」


 不思議に思った三巳ですが、


 「良く食えたな。見た目がこの世の物とは思えなかったってのによ」


 そう言ってブルリと体を震わせたレオに、これは思い出さない方が良いと悟るのでした。

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