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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
360/372

お正月番外編:年神と雪景色

 「あけましておめでとうなんだよ」


 今年も新しい年が始まりました。

 今年の三巳は一味違います。何故なら朝から着物を着ているのです。


 「あけましておめでとう。私達の可愛い三巳は今日は一段と輝いているねぇ」


 勿論作ったのはクロです。娘を可愛がるのに余念がありません。


 『クロもよう似合うておるぞ』


 クロも袴を着ています。

 母獣も着物を羽織っています。着てはいないので落とさない様にクロと鼻を合わせます。

 新年そうそうのイチャラブも恒例過ぎて三巳も動じません。そのまま炬燵に入っておせちを食べ始めました。


 「今年は一段と冷えるなー。父ちゃん外出られんくない?」

 「そうだねぇ。寒いとどうも炬燵から出られなくて」


 猫あるあるに、三巳も伊達巻き玉子を頬張りつつコクコク頷きます。猫獣人の血が半分流れている筈の三巳は、寒くても庭駆け回っていますけれどね。


 「冬は動けない種族多いよなー。龍神のじっちゃも寒いとこ来たがらないし。今年は蛇だからやっぱし寒いの苦手かなぁ」


 毎年誰かしらの年神とお友達になれていたので会えないのは寂しいです。

 三巳は黒豆を箸で摘まんで母獣を見ました。


 「母ちゃん知り合いで蛇神のひといる?」


 クロの後ろを囲っていた母獣は片眉を上げると顔をのそりと上げます。


 『知り合いはおるが。さて、特に聞いてはおらぬのう」


 母獣はそう言って尻尾をユラリと振りました。三巳が年神と会いたがっていることを正確に察知しているのです。

 それを聞いて三巳は耳と尻尾をションモリと垂れ下げます。楽しみだったけれど、無理っぽいのは初めから察しています。残念だけれど今年は諦めました。


 「そいじゃ。お年玉貰いに行くかなー」


 会えないならせめて蛇の3Dクリスタルが欲しいです。お腹が膨れた三巳は、鼻を鳴らして玄関扉に手を掛けます。そしてそこで動きを止めました。


 「うん?知らない気配」

 『ほう?珍しい』


 どうやら母獣の知り合いが外にいる様です。

 母獣を見て、けれども動く気配が無いので三巳が扉を開けました。

 外にいたのは男のひとです。ただそのひとは髪も肌も全身が真っ白でした。背後の景色が雪景色なので同化して認識し辛いです。


 「寒い。何故こんな所なんだ」


 男のひとはそう言って中に入ると炬燵を視界に入れます。そして座ってスルリと足を入れると三巳を見ます。


 「狼の子。寒い」


 男のひとは糸目で、何を考えているのか読めません。取り敢えず扉を閉めると自分も炬燵に戻りました。


 「ええっと。母ちゃん誰?」


 怖いひとではないでしょうが、底が知れなくてちょっぴし怖いです。心持ちクロに体を寄せて母獣に問い掛けました。

 母獣は「ふん」と鼻を鳴らします。


 『今年の当番か』

 「ああ。くじ引きで負けた」

 『相変わらずいい加減な決め方じゃのう』

 「寒い時期に事始めだぞ。誰もやりたがらん」


 そう言って炬燵布団を手繰り寄せる男のひと改め年神蛇に、三巳は顔を輝かせました。


 「蛇のひと!来てくれたん?寒いの苦手と違うん?」


 年神と知るや否や、今度は年神蛇に近寄って良く見ます。

 離れてしまった三巳に、クロは苦笑をして立ちました。お客様にお茶を出すのです。

 母獣はクロの動きを察して尻尾で抑え付けました。


 「愛しいひと。お茶をお出ししないと」

 『クロは寒いのが苦手であろう。三巳がやれば良い』

 「うぬ。お茶と昆布茶とお雑煮。どれが良い?」


 尻尾を振って立ち上がった三巳は、年神蛇に確認します。蛇の食事がわからないし、見た目が人なので人と同じ物を候補に挙げています。

 年神蛇は糸目を三巳に向けると笑みの形にしてくれました。そうすると優しい雰囲気になっています。三巳もニパリと笑うと尻尾を大きくワサリと振ります。そしてそのまま少し時間が経過しました。

 体が冷えて来た三巳は堪え切れずに震えます。


 「蛇のひと?」

 「ああ。考えていた。寒いと思考が鈍くなってな。お雑煮を頼む」

 「あ、うぬ」


 (マイペースなんだよ)


 寄りによって一番飲み物から遠い物を所望され、三巳は笑みを固まらせたままキッチンに向かいました。

 お餅を焼いて、その間に少し冷めた汁を温めます。時折掻き混ぜて、お餅がプクリと膨らんだ所で火を止めました。そしてお雑煮をお椀に盛って炬燵に戻ると、


 「あれ?いない?でも気配はするんだよ?」


 男のひとの姿は居なくなっていました。

 首を傾げてお雑煮を男のひとの席に置くと、キョロリと気配の元を探ります。けれども姿が見えません。


 「母ちゃん?」


 仕方なく母獣に聞くと、母獣は視線を炬燵の下に向けます。

 三巳がソロリと炬燵布団を捲ると、そこにはとぐろを巻いた真っ白な蛇がいました。そして気配は確かにそこから感じます。


 「それが本性?」

 『そうだ』


 年神蛇はそう言って三巳に目を向けます。


 「真っ赤な目。綺麗なんだよ」


 蛇の姿だと糸目ではありませんでした。真っ白な体に真っ赤な目です。その綺麗な姿に三巳が褒めると、年神蛇はその真っ白い体を少しピンク色に染めるのでした。




 (年神のひとって白が多いのかな。なら戌年には母ちゃん年神になるかもなんだよ)


 なお、こっそり思った三巳の思惑は正確に母獣に察せられて、しこたまお説教をされましたとさ。


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