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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
36/372

悪夢

 「~っ」


 今は深夜。人々が寝静まった夜闇の中です。

 リリはロキ医師が用意してくれた自室で寝ています。

 しかし今日の睡眠は何時もと違うようです。

 いえ、正確には村に来て当初の様に魘されています。


 「リリ怖い夢見てるのか?」

 「そうさのぅ。時々名前を言うとるから昔の夢かもしれんのぅ」


 入り口からヒョッコリ顔だけ出した三巳とロキ医師が心配そうに見ています。


 「~か……さ、ま」


 リリは胸元を握りしめて魘されます。


 「~と、さ……ま」


 眉間にコレでもかと皺を寄せて魘されます。


 「ネ、ルビ……~っ。

 げ、てっ……」


 伸ばす様に手を挙げて魘されます。


 「ネルビー逃げて―――!!!」


 悲痛の叫びと共にリリはとうとう飛び起きました。

 よっぽど怖い夢だったのでしょう。息を切らしてゆっくり周りを見回します。


 「……夢……」


 夢だと気付いて大きく息を吐き出しました。

 けれど思い出した過去は中々消えてくれません。

 リリは嗚咽を噛み殺して静かに泣きました。


 「……」


 ロキ医師が無言でダイニングを指します。


 「……」


 三巳も無言で頷きます。


 ダイニングに着くなり椅子に腰掛けます。

 沈んだ溜息をユニゾンさせて肩を落とすと瞑目しました。


 「リリまだ子供なのにな……」

 「そうじゃのう。

 何があったかは知らんが、気の毒な事だのう」


 山の民達も三巳も、お気楽極楽な人種です。

 山の民の先祖は兎も角、彼等が気に病む様な事は起こった事がありません。

 だからこそ、リリの悲痛な叫びが胸に刺さりました。


 「早く人に話して大丈夫になる位元気になるといいな」

 「此ればかりは心の問題じゃからのう。

 儂らは今まで通り接するしかあるまいて」

 「うん。そだなー」


 三巳は耳と尻尾をしゅーんと垂らしてしまいました。

 眉も八の字に下がっています。

 ロキ医師は三巳の頭をぽんぽんと撫でて苦笑しました。


 「でも最近は魘されて無かったのに」


 三巳は足をプラプラさせながら呟きます。

 リリが見ていたのは愛犬の夢です。

 きっと三巳ワンコと戯れた事で、愛犬の夢を見たのでしょう。

 そして楽しい筈の夢はやがて悪夢となった。

 リリの過去を知らない三巳は、無力な自分を歯痒く思いました。


 「話してくれたとて何が出来るとも限らん。

 儂らはただありのままを受け入れてやるしかあるまいて」

 「うん」


 こうして、ちょっとどんよりとした夜が過ぎていくのでした。

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